237 / 245
霊峰と深緑の山
雪山遭難アクティビティ
しおりを挟むどのくらいたったのだろうか。
雪崩に巻き込まれて暫くして移動が止まった。雪に埋まりどちらが上なのかも分からないが、呼吸のために顔の前に空間を開ける。そうすれば重力にのっといて水滴にしろ何にしろ落ちてゆくところが地面の方だ。
暗闇で普通の人なら見えないかも知れないが僕が持つのは暗殺スキル。人よりは夜目に効く自身がある。
そうした結果、僕は仰向けで埋もれているのが分かった。分かってしまえば上に向かって進んでいけば出られるのだが、身体の周りに火の気の精霊を召喚する。火の気の精霊が僕の周囲の雪を溶かし、辺に空洞を作ってくれる。立ち上がれるようになったので精霊にお礼を言うと照れたように輝いて消えてしまった。身動きが可能になったので、火の魔法を使い雪の中から飛び出ればそこは山の下の方だった。
相変わらずの吹雪に視界は不良。
兄上の気配も吹雪のせいでわかりづらい。
「うごご‥…うぐ。」
どうしたものかと考えていると、蠢く存在が目についた。あのチャラチャラしたウォレットチェーンはカズキの物だ。ということは雪に上半身が埋まっているのはカズキなのだろう。
頭をポリポリとかきため息をつく。
見殺しにするのはどうにも後味が悪い。
下半身がバタバタと暴れているのを当たらないように注意して指で魔力の円を彼の周りに書いた。
「『火炎』」
じゅっと音がなりカズキの周囲が溶ける。
「アッツ!」
多少は熱いかもしれないけど死ぬよりはマシだよね。
僕は雪の周りを転げ回る彼を無視して移動することにした。視界が悪いから取り敢えずは洞窟で過ごす事になるだろう。
「『俺が彼奴に知らせようか?』」
「大丈夫。まだ君たちの手を煩わせないよ。」
「『了解した。』」
久しぶりに出て来た僕の守護獣は心配性の様だ。
カズキ隠すように腕輪を濡れた袖に隠す。何か知られてはいけない予感がするんだよね。
「ま、待ってよ。」
「君の目的は何だい?」
「雪崩で巻き込んだのは謝るよ。目的も言う。」
その前に、カズキが言葉を止めた。
「凍えそうなんだよ。」
思わずため息をついてしまった。
濡鼠の僕らは岩の裂け目で出来た洞窟に潜り込む。空間魔法から乾いた木片を出して火を焚くと濡れた洋服を乾かすために脱ぐいだ。
色々と肌に張り付いて気持ちが悪い。
中のインナーも乾かそうと脱ぎかけた所でカズキが素っ頓狂な声を上げた。
「お、女の子がそんなだ、大胆!」
「目が隠れてないけどな。」
「だってオレ男だもん。」
「僕も男だけどな。」
「え?」
よいしょとインナーを脱ぐとそこには2つの膨らみがなんてことはけして無い。
どれだけ鍛えても兄上やアキさんの様にムキムキにはならないしなやかな身体が火に照らされている。濡れているからかツヤツヤとひかる様はまさにボディビルダーの様だ。
「‥…綺麗だ。」
「今のところ僕にはそのけはないのだけど。」
「なっ、オレにも無いよ。てか、今のところかよっ!ブエックシュ!」
「ほら、君も脱ぎな。風邪引くぞ。」
何を驚いているのだか。好きな人が出来るなら性別なんて些細の事だろうに。
僕に促されてカズキが服を脱ぎ始めた。
道中の話のとおりに鍛えている体つきだ。所々に傷もあるようなので武道の嗜む家なのだろうか。
上着を脱いだときに彼の眼鏡が地面に落ちた。
前髪から覗く目と視線が合う。
宝石の様なグリーンとグレーのオッドアイだった。この世界でも極稀にしか見ないオッドアイ。しかも引き込まれるように美しい色合いだ。
「あ、眼鏡が。」
いそいそと眼鏡をかけるカズキは次に見ると出会ったときと変わらない姿に戻る。
あの眼鏡、認識阻害の魔法でもかかっているのか?
「その眼鏡‥…。」
「‥…見たんだね。」
「やっぱり、その眼鏡は魔道具なんだ。」
「うん。オレのこの目は目立つから、付き人が用意してくれたのさ。」
「探していると言う?」
「ああ。あいつは空間系の魔法が得意で受付なんて通らなくても山に行ける。この山にある特殊な植物を取りに行って帰って来ないのさ。」
それなら受付の人が見ていないのも納得だ。
だからと言って空間をいじった魔法で山に行っているなんて口を滑らせたら大問題である。
「結界はどうしたのさ。」
「小さな綻びさえあればあいつなら侵入できるよ。」
その人に少しあってみたいかも。
それだけの技術を持つのならさらなる能力向上の足がけとなるかも知れない。この場に兄上がいれば盛大なため息をつかれたかもしれないけど、興味が出たものはしょうがない。
「そんなことが出来る人がこの山で手こずるとは思えないけど。」
「あいつは器用貧乏と言うか空間をいじる事は天才だけど他がそれなりなんだよね。現にちょっと採ってくると言ってこのザマさ。」
「君も大丈夫だとは思えないけど。」
「それはそう見えてしょうがない。他人には隠しておきたいからね。」
だけどと彼は言葉を区切る。
「君になら見せても良い。とても気に入ったんだ。」
ぞわりと背筋に薄ら寒いものが駆け巡ったように感じた。
あのおちゃらけた軽い感じの男から発せられるきみの悪い空気に自然と生唾を飲みこんだ。
「ごめん。怖がらせたいわけじゃないんだ。」
「いや、大丈夫。」
「服を乾かしてそれからこれからの事を話そうよ。」
今、一瞬だけ身体が強張った。
別に戦ったとしても負けるような相手ではないのに。
本当に彼は何者なのだろうか。
0
あなたにおすすめの小説
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する
ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。
皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。
ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。
なんとか成敗してみたい。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
ざまぁされるための努力とかしたくない
こうやさい
ファンタジー
ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。
けどなんか環境違いすぎるんだけど?
例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。
作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。
ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。
恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。
中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。
……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
気絶した婚約者を置き去りにする男の踏み台になんてならない!
ひづき
恋愛
ヒロインにタックルされて気絶した。しかも婚約者は気絶した私を放置してヒロインと共に去りやがった。
え、コイツらを幸せにする為に私が悪役令嬢!?やってられるか!!
それより気絶した私を運んでくれた恩人は誰だろう?
ねえ、今どんな気持ち?
かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた
彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。
でも、あなたは真実を知らないみたいね
ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる