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霊峰と深緑の山
呪い返しと曇曜
しおりを挟む人を呪わば穴二つなんて言われるくらい呪いは恐ろしいものだ。
呪った人も呪われた人も墓穴が必要になるという事だったか。このことわざでわかると思うが呪いは繋がっていることが多い。僕らはそんなへまをしないが大体は糸が続くように繋がっていて解除をするにも犯人を見つけるのも簡単であったり。
これはお前だけだなんて事もない。陰陽を学ぶ者なら分かることだ。どの様に見えるかは人それぞれだけども、見えていても依頼もないのに断ち切ったり返したりしない。下手に関わるとこちらにも影響が来るからな。
異質の者の気配が強い祠に祭られていた像を見る限り今回この山にというより山の神にかけられている呪は深い執念のものというよりは感情任せの方が強いかも知れない。
雪山の守りし山神のフジネが話した通りにツクバネに向かうことにしよう。
確かに呪いを継続させるための力の糸がそちらの方角に向かっているのは感じられる。ここからツクバネのある場所までは数日はかかる。
「取り敢えず、呪詛返しをしておこうか。」
「相変わらず突拍子もないことを言う。」
「だって足留めぐらいにはなると思うし、勝手にどこからか来た存在に振り回されるってムカつくじゃん。」
べ、別に数日とはいえ祠で出会った動物達がそんな輩によって怯え小さくなっている姿が頭に浮かんで来るのが我慢ならないってわけじゃないからね!
「好きにしろ。」
「うん。」
僕はフジネからお借りしたフジネを象った像に一枚の御札を這わせる。
よくひな祭りとかで流し雛などがあると思うがそれと似たような物だ。あちらは穢を形代に移すがこちらは呪いを御札に移す。
この呪いは呪われた対象の能力を暴走させる様なものとその者の関係に厳しい冬を与える様なものが混じっている。それぞれの力は大したものだがいかんせんこんな簡単に使っていいものではない。
御札からじわじわと寒気が溢れ出す。
その御札で折り鶴を作ると空に飛ばした。
「『想いは恨み。恨みは戻り、想いを壊す。』」
折り鶴が淡く光り輝き、本物の鶴へと変じてツクバネの方に向かって飛び立つ。恨み辛みが大きいほどその返しは強くなってゆく。さて、この鶴は向こうで何を起こすのか楽しみだ。
辺りが多少は暖かくなってきた気がする。
だけど本元をどうにかしないと完全なる解呪とはいかないのが呪の厄介なところだ。
「お前ならむりやり解呪も出来るだろうに。」
「あれって結構疲れるからな。相手も死んじゃうし。」
「今回はそれで良い気がする。」
時間稼ぎとちょっとした挨拶をかねた行動を終えて、僕達は次の目的地に向かう。
「こんな所に居たんですか。」
「遅かったな。」
「何ですかその格好は。」
「クソダサいだろ?」
シンリが去った岩の亀裂の洞窟で、一人で暖を取っていたオレは新たなる来客に心底つまらなそうな顔をする。
来客は雪と同じ白の髪に寒い中で更に冷えそうなシルバーフレームの眼鏡をかけている。胡散臭い笑みは今はなく真面目な顔でオレを見ていた。
軽い手招きで中に入れると来客は眼の前で片膝をついて頭を垂れる。
「新たなる住居の準備が出来ました。」
「会ったぞ。」
「!?」
「会ったのは女の方ではないが、こちらが本物だ。」
その言葉に、客は驚いた様な反応をする。
だが、このオレがアイツのことを間違えるわけがない。心から求めて法まで侵してまで手に入れたいと思った相手だ。
勝手に死んだことは許せないがまあ良い。やっと会えた。
今度は逃げられないようにゆっくりとじっくり準備をしよう。邪魔な奴らは向こうの世界に置いてきた。
一番の難関は側にいるようだが今日見た限りでは隙はできる。
「女なら、孕ませて縛り付けれたものを。惜しい事だ。まあ、男でも関係無いか。」
アイツのことを思うだけで色んな所が熱くなる。
久々に見たアイツはオレの名前に反応しなかった。更には偶然を装って眼鏡を落として本来の姿を見せても反応しない。本当に記憶が無いようだ。
怨みの視線で見られないのは新鮮で良かったが、オレはオレだけの事を考えるアイツが見たいのだ。
「早く記憶が戻らないかな。」
「それは。」
手元で転がす小さな宝石のような石。それに口付けを落とす。
冷たい様で芯には熱のあるようなまるでアイツ本人の様な石だ。アイツの物なんだけど。
「ムラキ、記憶が戻ったらどうなると思う?」
「あの御方は強い方ですから‥…。」
「オレはねぇ、一度壊れると思うんだ。話しに聞かされていても実際に体験した記憶は超絶だからね。」
思わず笑みが溢れた。
眼鏡を外した奥の色の異なる瞳が怪しく光るのが分かる。
指を鳴らせば服装が黒を基調としたシンプルなものに変わった。髪をかきあげてその場を後にする準備を整えた。あとから正体に気がついて痕跡を探しに来くるのも予想が出来るので跡形もなく消してしまおう。記憶を取り戻した時にオレの存在に多少なりとも意識してくれるのなら今はそれで十分だ。
岩の亀裂が爆煙を上げて無くなったのをみて笑いながらその場を後にした。
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