241 / 245
霊峰と深緑の山
新緑のツクバネ 受付
しおりを挟む雪山から数日、わりかし早く一年中豊かな新緑の山、ツクバネに着いた。噂の通り一年を通して緑深く季節外れの花が咲くこともある。温泉も近くにあるようで観光としても人気の場所である。
冬でも雪がふることはなく、動物も多く見られ食料が豊富ゆえか人を襲う事が無いという。ここで発生するモンスターも気性が穏やかで研究者が訪れて観察する姿が見られた。
「あ、ハイキングですか?今日は紅葉がきれいで特に銀杏が輝いていますよ。」
「こちらは規制とかは無いのか。」
「はい。料金さえ頂ければ。傾斜も穏やかで運が良ければ神獣と呼ばれている神々しい鹿にも会えますよ。」
こちらの受付ではニコニコと笑顔の女性が対応してくれた。
観光としても機能しているからか説明もその日のおすすめや探したくなるような物を教えてくれるなど商売上手だ。僕達は料金を払い説明を受けていた。
山の中に入るのも誓約書等はないようで遭難しても分かるように名簿を書くだけ。
周りにも観光客が多くフジネとは異なり装備も軽装だ。
「門は10時頃から18時頃まで開いています。3日戻らない方には捜索隊が出動しますよ。」
「へえ。」
「ああ。勿論申請とご寄附によりましては日にちを伸ばせますよ。」
「女神様からの使いなんだけど。」
「あはは。面白い冗談ですね。」
他にいる観光客に知られるわけにはいかずそっと書状を渡せば、笑いながら中身を確認して凍りついた。そして雪山でもあったように慌てた様子でお偉方に連絡を取りにむかう。周りからざわざわと興味があるような視線が送られてきた。
まあ、受付をしていた女性が慌てたように奥に引っ込めば誰しも何があったか気になるというもの。
暫く、好機の目でさらされていたら奥から糸目の宮司が現れた。
先頭には先程の受付嬢が歩いている。
僕達の眼の前に来た宮司はあの雪山の宮司に比べてどこか偉そうな感じがする。速急の旅路で草臥れた様子の僕達をまるで汚らわしい物を見るかの様な視線。
受付嬢から見せられた書状を流し読み、盛大な溜息がつかれた。
「たまに居るんですよね。神の使いだと言って料金を踏み倒す奴。」
「料金は払い済みだけど。」
「じゃあ、山を荒らしに?神の使いだと言って何をやっても良いと思われたら困ります。」
「そんな人も居るんだ。」
「ワタシは忙しいのですよ。からかいなら‥…。」
「チェンジお願い致します。」
人気の場所であるのは分かった。
よく料金をなんだかんだで誤魔化そうとする客もいるかも知れない。だからと言ってお使いを疑われるのは何かムカつく。
別の者に変わってもらおうかと受付嬢を見るとこちらは申し訳無さそうにしている。
「他の者は今は不在でして。」
「こんな偽物に何を言っているんだ。早く追い返せ。」
本当に帰ってやろうかと思ったが、それで困るのは山の神たちだ。
それにしても書状には特別な細工がされていて宮司程の者ならば見れば分かるはずなのだが、この眼の前のコノヤロウは本当に宮司なのか。
「おい!ケンキ!」
「これは、ノドグロ様。」
「本当にすみません。」
事もあろうに宮司は顔なじみの者が来たと同時にその場を離れて行ってしまった。
受付嬢から謝罪をされるもこの状況は彼女のせいではない。というか別に宮司に対応してもらわなくても大丈夫だとおもう。
「先程見せた通り、僕達はカトレア様の使いで来ていて、暫くこの山に滞在をする予定だ。3日では終わらないかもしれないから念のため目的を教えるために書状を出したんだ。」
「そうでしたか。」
「本来なら上の者が居たほうが楽だったから君の対応は問題ないよ。」
「有難うございます。では帰山日は一週間以内としておきます。」
「それで頼むね。」
宮司が顔なじみの客に何か袋を貰っているのを見て、密かに魔法をかけておいた。子供でも出来る簡単な錬金術の応用だ。
中身は何かは知らないけど開けたらびっくりするだろうな。
「では、こちらから山に登れますのでお通りください。」
「別の宮司が来たら先程の件は相談したほうが良いよ。」
「はい。」
僕達は受付を通り、山に踏み入った。
山は噂通り緑が眩しく辺りの木々には樹の実が生っていてそれを食べようと小動物が木登りしている。受付で話していたとおり、紅葉が起こっている場所もあり、イチョウの輝きはまさに黄金のようである。
傾斜も緩やかで初心者の山登りにはもってこいだろう。
そして、山に入ってすぐのところには何も無かったフジネと違い温泉宿まであり、観光に力を入れているのがわかる。
「これなら早く山神の元に行けそうだな。」
「そうだね。あと、原因の奴にも会えそうだ。」
こうしてツクバネの山登りが始まった。
0
あなたにおすすめの小説
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する
ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。
皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。
ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。
なんとか成敗してみたい。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
ざまぁされるための努力とかしたくない
こうやさい
ファンタジー
ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。
けどなんか環境違いすぎるんだけど?
例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。
作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。
ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。
恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。
中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。
……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
気絶した婚約者を置き去りにする男の踏み台になんてならない!
ひづき
恋愛
ヒロインにタックルされて気絶した。しかも婚約者は気絶した私を放置してヒロインと共に去りやがった。
え、コイツらを幸せにする為に私が悪役令嬢!?やってられるか!!
それより気絶した私を運んでくれた恩人は誰だろう?
ねえ、今どんな気持ち?
かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた
彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。
でも、あなたは真実を知らないみたいね
ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる