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私は商人になります!
私の目の前にいるのはアメジストの瞳を持つ男。いつもは優しげに微笑んでくれるのですが、今は困ったような表情で落胆の色を滲ませている。その落胆の矛先は私ではないのはわかります。
男の隣には銀糸の美しい女性もいます。彼女は男と違いむしろ晴れやかな表情をしています。そういえば、最初からドランとの婚約に反対していましたね。
ここまでくれば分かると思いますが、そうです。私の父と母です。
あのあとエルに怒られて、今は本館の一室に来ています。
落ちついて話そう応接間の様な処でテーブルを挟んで両親と対話していますが、そのテーブルには私の作った鴨料理は両親の前にワインと共に出されており、母は婚約解消の事など気にせず幸せそうにもきゅもきゅ食べています。父はワインを一口飲み口を潤すと私を紫をたたえた双眼で見つめてきました。
「ドラン様が大勢の前で宣言してしまいましたので。もともと、なんとも想っていない相手ですし。」
「明日、契約の話し合いを公爵家でする事になっている。」
「あら、やっぱり契約を新しくするのですね。」
「その予定だ。」
夜会会場の話しをすれば、父が大きいため息をついた。
まさか、契約があるのに親に何も言わずに勝手に破棄するとは、誰も思っていなかったのだろう。
ドランを見る限り、契約を知っているとは思えなかったのだが。
さらにそれを父に言えばまさかといった顔をしていた。
「マイヤー公爵も自分の息子には甘いのかもな。」
「そうですわね。」
「ユーリは、これからどうするんだ?」
「しばらく自由に過ごそうかと思っております。」
「自由に?」
「商売をしようかと。」
反対する事がないと思っておりますのではっきりとそう告げると、父は黙りこみ考えている。
処で何で反対しないと思っているかというと、私に商売の楽しさを教えてくれたのは父だからです。なんと父は若い頃商人だったのです。しかもそこらの冒険者が相手にならないほど腕のたつ人物だったそうですよ。
ゆえに一人で世界中を渡り歩いて色々なところに色んな物をとどけたのだとか。
母と結婚して侯爵になりましたが、今でもたまに行方不明になっては密かに商人として暗躍しているのを知っています。
その自由に生きる父の楽しそうな姿を見て私は商売をやりたくなったのよね。それを父は知っているから反対しにくいのです。
「商売がすべて上手くいくことは無いよ。」
「わかっているつもりです。特に若輩者の私が商売をするのは色々としがらみが出てくるのも。」
「……。」
「期間を設けたらどうかしら?」
黙ってしまった父に不安を感じていると、助けてくれたのは口元をナプキンで拭い、柔らかな雰囲気を纏った母だった。
子供を産んでいるようには全く見えない若々しい母は、私に向かってウィンクをしてきた。
「っ、ひと…つき、一月下さい。一月で成果をお見せしますわ。」
「……商売の楽しさを教えたのは私だからな、元々反対はするつもりはなかった。覚悟を知りたかったのだ。」
「では。」
「だが、宣言したからには一月いや、二月にしとこうか。成果を見せてみよ。」
父が真面目な顔付きで告げる。
それに私も真面目な顔で頷く。
私の表情に満足したのか、私の優しく頭を撫でてくれた。そして、鴨料理に舌鼓をうち始めた。父も気に入ったのか、幸せそうに食べている。
うんうん、赤ワインに合うよね。此処には無いけど日本酒にも合うのよ。
私は前世からこの幸せそうな顔が好きだ。これを見ると料理を造ったかいがあるというものだ。
ふと、父は動きを止めて鴨料理を見つめる。
「商売は料理か?」
「いえ、料理は趣味です。今、商売として考えているのは女性向けの小物です。」
「良いわね。流行りにのれたら凄そうだし。」
「実はサンプルがあるんです。」
万が一に父や母が反対したら見せようと思い持ってきたものだ。
黒のビロードの布の上に飴色より淡い色の石を、二センチ程の雫状に加工したネックレスを置く。加工したと言ってもダイヤモンドの様にカッティングした訳ではなく、滑らかにしたものだ。
その透明感のある石の中には良く見ると小さな白い花が封じられている。
もちろんネックレス自体にも工夫を凝らしてある。石を取り囲む金具は立体的に造られており、雫状の石がゆらゆらと揺れている。揺れる度に光が反射して煌めく様にした。
母の首をお借りして説明をすれば、父が食い入る様に見つめていた。
「この石はなんだ?初めて見る。」
「琥珀と言います。作成方法は秘密ですが、木の樹液から出来ております。」
「木の樹液……。触れても良いか?」
私は頷いてネックレスを父に渡す。
琥珀をまじまじと見つめておそるおそる触れる。樹液は普通はベタベタしているが、琥珀になると硬くなりベタベタは無くなる。
前世では数万年も掛かって作られる宝石の一種だが、ここはビバ魔法と言うべきか結構簡単に創れてしまったのだ。
しかも、私のチートではない魔法でだ。
創れると判ってからは透明感のある石ができるまで色々と試してみて、やっと納得のいく物が出来たのだ。
「……美しい。」
「これは流行るかもしれないわね。」
「ありがとうございます。このサンプルはどうぞお母様がお受け取りください。」
「あら、良いの?」
「お母様が付ければ宣伝にもなりますし。」
嬉しいと喜ぶ母は少女の様で可愛いです。
そうだ、後で父にも母と同じ花で指輪でも造ってあげよう。そうすれば宣伝になるし、お揃いで買う人も出てきそうだし。
ちなみにネックレスだけでなく、指輪や髪飾りなどのデザインも考えているのです。
父の食い付きで商品に自信もついたし資金ももうすぐ手に入る予定だし、二月頑張るとしますか。
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