からかわれていると思ってたら本気だった?!

雨宮里玖

文字の大きさ
10 / 31
信じて

1.

しおりを挟む
弦 Side

「俺はヒカルにからかわれたんだよ……。俺の気持ちを弄んで最低だ……」

 弦は一真にヒカルから受けた仕打ちについて話をした。

 ヒカルに告白されて、まさかとは思ったが受け入れたこと。でもそれはただ弦をからかっていただけ、本気じゃないと放課後の教室でヒカルが友人と話しているのを偶然聞いてしまったこと。そしてヒカルに怒りをぶつけて別れ話をしたこと。

 一真に話していて、途中、悔しくて情けなくて涙が溢れてくる。それを堪えるのに必死だ。

「ヒカルの野郎、よりによって弦にそんなことをするなんて許せない! そんなことして何が楽しいんだよっ」

 一真は一緒になって怒ってくれた。

「弦。俺はヒカルとは違う。俺は本気で弦のことが好きだよ。騙したり、からかったりしてない。本心だ」

 ヒカルの件で猜疑的になっていたが、どうやら一真の言葉は本物らしい。

「俺は絶対に弦を幸せにしてみせる」

 優しい、決意を秘めた目で一真に見つめられる。

「一真……」

 まさかの一真の告白に心底驚いた。こんなことになるなんて未だに信じられない。

「ヒカルのこと、俺が忘れさせてやる。あいつが弦にしてきたひどいことは全部、これからの俺との思い出で塗り替えてみせるから」

 ヒカルのことを忘れる——。

 弦だってそうしたいと願っていた。ヒカルとの思い出なんて全部捨ててしまいたいと思っていた。



 ——ヒカルは今まで俺に何をした? ヒカルとの思い出って、なんだろう……。

 弦の脳裏にヒカルと過ごしたときの記憶が走馬灯のように浮かんできた。


 七年前のあの日、ヒカルが弦を背負いながら「お前のことは俺が守るから」と言ってくれたことを。
 そしてヒカルはそれを密かに有言実行してくれていたことを。





 高校入学当初、学校に馴染めずにいた弦はクラスのカースト上位生徒から「弦、お前がやれよ」と面倒くさい委員会を押し付けられそうになったことがあった。
 そのときヒカルがひと言「そういうの俺嫌い。やりたくない奴に押し付けんなよ」とその生徒を睨みつけ、「俺やります」と挙手をした。

 ヒカルがその委員会をやるとなった途端に女子たちが「私もやりたいですっ」ともうひと枠を争って騒ぎ出したのは後日談。



 高校二年の時。球技大会でクラス対抗のバレーボールが行われたときのことだ。
 球技が下手くそな弦は、相手チームからサーブの狙いうちに遭った。飛んでくる球をレシーブすることができずにどんどん点数を取られてしまう。
 クラスメイトから「あいつ何やってんだよ」の冷ややかな視線を感じて余計に焦って失敗を繰り返す悪循環に陥って泣きそうになっていたときだ。

 アタッカーとして最前列にいたヒカルが、弦のすぐ右横の後列にいた生徒とポジションチェンジを申し出た。
 そして弦に「サーブボールがきたら左によけろ。お前は何もしなくてもいい」と囁いた。

 そこから弦めがけて飛んできたサーブボールは全てヒカルがレシーブする。
 ヒカルは二人分の範囲の守備をこなしながら、相手の意表を突いて後列から前に飛び出し、アタッカーとして強烈なスパイクを相手チームに叩き込むという驚異的な動きを披露してみせた。

 弦のクラスは球技大会で優勝し、ヒカルはその日のMVPに選ばれた。

 その活躍をみたバレーボール部から「一緒にインターハイを戦わないか」とヒカルにスカウトがきたのは後日談。



 そしてこれはつい昨日のこと。この高校は、生徒の成績降下を危惧してアルバイトは禁止だが、それでも弦は生活のためアルバイトを続けていた。
 だがその状態は続かずに、ついに担任の教師のあずかり知ることとなってしまった。

 担任に呼ばれて注意され、即刻アルバイトを辞めるように言われると覚悟していたのに、そうはならなかった。「みんなにバレないように気をつけろ」と見逃してくれたのだ。

 なぜ見逃してくれたのかと訝しげな弦に、担任は理由を教えてくれた。

 ヒカルが職員室までやってきて「特別に許してやって下さい」と頭を下げたそうだ。
 あのヒカルが真剣に頼み事をしてくるなんて相当なことだし、「弦のアルバイトを見逃す代わりに俺はなんでもします」とまで潔く言い切ったらしい。ヒカルの覚悟に免じて弦はお咎めなしということになったのだ。

 そのときに「本当になんでもしてくれるの?」とヒカルに色目を使おうとする教師がいたとかいないとか。
 担任がそんな恐ろしいことをぼそっと呟いたので、後日談でなく弦は思い出すたびにおののいている。





 最初こそ、怒りに任せて一真にヒカルの話をぶち撒けていたが、話していくうちに、ヒカルが弦に与えてくれた全てが偽りで、弦をからかっていただけとは思えなくなってきた。

 そもそも弦をからかってもヒカルにはなんの得もないのではないか。

 好きでもない人には「抱き締めて」と懇願されても「触りたくもない」と拒絶するくせに、からかうためだけに弦にあんなことをしてくるなんておかしくないか。



 車は一真の家に到着した。

「話の続きは、俺の部屋でしよう。俺の告白の返事をゆっくり聞かせて欲しい」

 執事の未延が車のドアを開け、二人は車を降りる。

 七年ぶりに来た豪邸。相変わらず広くて大きい、俗世離れした家だ。
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

【完結】逆転シンデレラ〜かわいい「姫」は、俺(王子)を甘やかしたいスパダリだった〜

粗々木くうね
BL
「本当はずっと、お姫様になりたかったんだ……」 周りから「王子様」と持て囃され、知らず知らずのうちにその役割を演じてきた大学二年生の王子 光希(おうじ みつき)。 しかし彼の本当の願いは、誰かを愛す“王子”ではなく、誰かに愛される“お姫様”になることだった。 そんな光希の前に現れたのは、学科のアイドルで「姫」と呼ばれる、かわいらしい同級生・姫川 楓(ひめかわ かえで)。 彼が光希に告げたのは、予想もしない言葉だった──。 「僕に……愛されてみない?」 “姫”の顔をした“王子様”に、心も身体も解きほぐされていく──。 “王子”が“お姫様”になる、逆転シンデレラストーリー。 【登場人物】 姫川 楓(ひめかわ かえで) ・ポジション…攻め ・3月3日生まれ 19歳 ・大学で建築を学ぶ2回生 ・身長170cm ・髪型:ミディアムショートにやわらかミルクティーブラウンカラー。ゆるいパーマをかけている ・目元:たれ目 ・下に2人妹がいる。長男。 ・人懐っこくて愛嬌がある。一見不真面目に見えるが、勉学に対して真面目に取り組んでいて要領もよく優秀。 ・可愛いものが好き。女友達が多いが男友達ともうまくやってる。 ・おしゃれが大好き。ネイルもカラフル。 ・王子とセットで「建築学科の姫」と呼ばれている ・かわいい見た目でペニスが大きい 王子 光希(おうじ みつき) ・ポジション…受け ・5月5日生まれ 20歳 ・大学で建築を学ぶ2回生 ・身長178cm ・髪型:センターパートのラフショート。ダークトーンのアッシュグレー ・目元:切れ長 ・空気が読める。一軍男子。学業もスポーツも割とよくできる。 ・上に姉と兄がいる。末っ子。 ・姫川とセットで「建築学科の王子」と呼ばれている ・「かっこいい・頼れる王子」像を求められるので、自然と演じて生きてきた。本当は甘えたいし愛されたい。家族には甘えられる。

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

国民的アイドルの元ライバルが、俺の底辺配信をなぜか認知している

逢 舞夏
BL
「高校に行っても、お前には負けないからな!」 「……もう、俺を追いかけるな」  中三の卒業式。幼馴染であり、唯一無二のライバルだった蓮田深月(はすだ みつき)にそう突き放されたあの日から、俺の時間は止まったままだ。  あれから15年。深月は国民的アイドルグループのセンターとして芸能界の頂点に立ち、俺、梅本陸(うめもと りく)は、アパートでコンビニのサラミを齧る、しがない30歳の社畜になった。  誰にも祝われない30歳の誕生日。孤独と酒に酔った勢いで、俺は『おでん』という名の猫耳アバターを被り、VTuberとして配信を始めた。  どうせ誰も来ない。チラ裏の愚痴配信だ。  そう思っていた俺の画面を、見たことのない金額の赤スパ(投げ銭)が埋め尽くした。 『K:¥50,000 誕生日おめでとう。いい声だ、もっと話して』  『K』と名乗る謎の太客。  【執着強めの国民的アイドル】×【酒飲みツンデレおじさんV】

伯爵家次男は、女遊びの激しい(?)幼なじみ王子のことがずっと好き

メグエム
BL
 伯爵家次男のユリウス・ツェプラリトは、ずっと恋焦がれている人がいる。その相手は、幼なじみであり、王位継承権第三位の王子のレオン・ヴィルバードである。貴族と王族であるため、家や国が決めた相手と結婚しなければならない。しかも、レオンは女関係での噂が絶えず、女好きで有名だ。男の自分の想いなんて、叶うわけがない。この想いは、心の奥底にしまって、諦めるしかない。そう思っていた。

僕を嫌っていた幼馴染みが記憶喪失になったら溺愛してきた

無月陸兎
BL
魔力も顔も平凡な僕には、多才で美形な幼馴染みのユーリがいる。昔は仲が良かったものの、今は嫌われていた。そんな彼が授業中の事故でここ十年分の記憶を失い、僕を好きだと言ってきて──。

のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした

こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。

もうすぐ死ぬから、ビッチと思われても兄の恋人に抱いてもらいたい

カミヤルイ
BL
花影(かえい)病──肺の内部に花の形の腫瘍ができる病気で、原因は他者への強い思慕だと言われている。 主人公は花影症を患い、死の宣告を受けた。そして思った。 「ビッチと思われてもいいから、ずっと好きだった双子の兄の恋人で幼馴染に抱かれたい」と。 *受けは死にません。ハッピーエンドでごく軽いざまぁ要素があります。 *設定はゆるいです。さらりとお読みください。 *花影病は独自設定です。 *表紙は天宮叶さん@amamiyakyo0217 からプレゼントしていただきました✨

「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された

あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると… 「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」 気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 初めましてです。お手柔らかにお願いします。 ムーンライトノベルズさんにも掲載しております

処理中です...