59 / 110
8.離れていても
8-6
しおりを挟む
突如、嵐のように強い風が和泉の頬をかすめた。
和泉を拘束していた支配者は目の前から消え、数メートルほど先まですっ飛ばされている。
重苦しいDomの支配から逃れて我に返ってから気がついた。
これは嵐ではない。嵐のように強烈なグレアだ。
「俺が、どんな思いで……」
声につられて振り向くとそこに佐原が立っていた。
ただ様子がおかしい。その場に突っ立ったまま、拳を握り締めてわなわなと震えている。
「守ってきたのに……!」
佐原は再び強烈なグレアを放つ。三百六十度全方向に放たれた力は周囲を吹き飛ばし、浜谷だけでなく和泉もグレアをくらい、その場にガクンと膝をついた。
「キャーッ!」
女の悲鳴が聞こえた。きっと通行人が佐原のグレアに巻き込まれたのだ。
佐原のいる場所は、イルミネーションの並木路の真ん中だ。どうしたって目につくし、周囲にはイルミネーションを見に来た人々の姿が見える。
和泉は状況を理解した。
佐原は全身から、身体が爆発したように強力な力を放っている。
興奮状態にあるのか、肩を上下させて、その場に立ち尽くしたまま動かない。
「Domのディフェンスだ!」
悲鳴に混ざり、誰かの怒号が飛ぶ。
佐原はディフェンスに陥ったのだ。
つまり怒りでDomの力がコントロールできなくなり、トランス状態に陥っている。
浜谷がよろよろと立ち上がり、その場から逃げ出したのにも関わらず、佐原のディフェンスは収まらない。
「佐原ダメだ!」
佐原をなんとしてでも止めなければならない。
ディフェンスで物を破壊したり、人を傷つけたりする行為は犯罪だ。
万が一近くに無関係のSubがいてサブドロップさせてしまったら、グレアで吹き飛ばした相手が重傷を負ったら、佐原は大変な罪を背負うことになる。
ディフェンスは力をコントロールできない状態だと言っても、悪いのはディフェンス状態に陥るほど自己管理がなってなかったDomということになる。当然、罪は免れない。
和泉はよろよろと立ち上がり、佐原のもとへと向かう。だがすでに浜谷と佐原から三度のDomのグレアをくらった身体は重くて、一歩足を前に動かすだけで精一杯だ。
佐原に近づこうとすると再び強いグレアを当てられた。やっとの思いで立ち上がったのに、和泉は再び地面に身体を叩きつけられる。
和泉の精神に黒い影が覆い被さってくる。目の前が暗くなり、はっきり見えなくなってきた。
不本意なDomからの支配のあと、何度もグレアをくらったからだ。
これは堕ちる、と本能で悟った。この襲ってくる重苦しい闇は間違いなくそうだと身体でわかった。
もう一度グレアを食らったら間違いなく堕ちる。
周囲は「逃げろ!」と叫んでいる。だが、和泉に逃げる気などない。
自分は堕ちてもいいから、佐原を救いたい。
このまま佐原のグレアにやられてサブドロップして、命を落としても本望だ。
佐原を見捨てる気などない。
「さ、はら……」
今すぐ、佐原を止めなくては。ディフェンスが続けば、佐原が罪を犯してしまうかもしれない。
ディフェンスを起こしたDomを止めるのに最もよいとされるのは、パートナーのSubだ。
自分は無事だと、Domを裏切っていないとトランス状態に陥ったDomにわからせてやるのだ。
佐原は和泉の行動を見てディフェンスに陥った。佐原を止められるのは、自分しかいない。佐原のパートナーでなくても。
——動け! 動け!
和泉はもう一度立ち上がり、おぼつかない足で佐原のもとへと向かう。
佐原の暴走を止めたい。佐原を守りたい。取り返しのつかないことになる前に、佐原の目を覚ましてやりたい。
「佐原、俺だよ。俺はお前の敵じゃない……」
和泉はゆっくりと佐原に近づいていく。佐原に近づいてわかった。やはり佐原の目の様子がおかしい。濁ったような瞳をしていて、いつもの佐原じゃない。
和泉が目の前にいても、何の反応もない。目の前にいるのか誰なのか、認識できないようだ。完全に我を忘れている。
「俺を助けに来たんじゃねぇの……? だったら大丈夫だ。もう助かってるから……」
なんとか佐原のもとまで辿り着き、和泉は倒れかかるようにして佐原の身体を抱き締める。
「目を覚ませよ……」
なだめるように佐原の背中をさすってやる。佐原をさする手も震えているし、さっきから和泉の全身の震えが止まらない。
すでに佐原に寄りかかっていないと自力では立てない状況だ。
長い時間は身体がもたない。意識の中に黒い影が忍び寄ってきて、気力だけで立っている状態だ。
どうしたら佐原は目を覚ましてくれる……?
パートナーでなくても、佐原をどうしても救いたい。
こんなことで、佐原の未来を失わせたくない。
「佐原……」
佐原の目を必死で捉えて、訴える。佐原の目は和泉を映していない。我ここにあらずの状態だ。
「好きだ」
目の前が暗くなっていく中、和泉は最後の力をふりしぼって佐原の唇にキスをする。
ほんの少しだけ唇が佐原の唇に触れたあと、和泉は意識を失い、その場に崩れるようにして倒れた。
和泉を拘束していた支配者は目の前から消え、数メートルほど先まですっ飛ばされている。
重苦しいDomの支配から逃れて我に返ってから気がついた。
これは嵐ではない。嵐のように強烈なグレアだ。
「俺が、どんな思いで……」
声につられて振り向くとそこに佐原が立っていた。
ただ様子がおかしい。その場に突っ立ったまま、拳を握り締めてわなわなと震えている。
「守ってきたのに……!」
佐原は再び強烈なグレアを放つ。三百六十度全方向に放たれた力は周囲を吹き飛ばし、浜谷だけでなく和泉もグレアをくらい、その場にガクンと膝をついた。
「キャーッ!」
女の悲鳴が聞こえた。きっと通行人が佐原のグレアに巻き込まれたのだ。
佐原のいる場所は、イルミネーションの並木路の真ん中だ。どうしたって目につくし、周囲にはイルミネーションを見に来た人々の姿が見える。
和泉は状況を理解した。
佐原は全身から、身体が爆発したように強力な力を放っている。
興奮状態にあるのか、肩を上下させて、その場に立ち尽くしたまま動かない。
「Domのディフェンスだ!」
悲鳴に混ざり、誰かの怒号が飛ぶ。
佐原はディフェンスに陥ったのだ。
つまり怒りでDomの力がコントロールできなくなり、トランス状態に陥っている。
浜谷がよろよろと立ち上がり、その場から逃げ出したのにも関わらず、佐原のディフェンスは収まらない。
「佐原ダメだ!」
佐原をなんとしてでも止めなければならない。
ディフェンスで物を破壊したり、人を傷つけたりする行為は犯罪だ。
万が一近くに無関係のSubがいてサブドロップさせてしまったら、グレアで吹き飛ばした相手が重傷を負ったら、佐原は大変な罪を背負うことになる。
ディフェンスは力をコントロールできない状態だと言っても、悪いのはディフェンス状態に陥るほど自己管理がなってなかったDomということになる。当然、罪は免れない。
和泉はよろよろと立ち上がり、佐原のもとへと向かう。だがすでに浜谷と佐原から三度のDomのグレアをくらった身体は重くて、一歩足を前に動かすだけで精一杯だ。
佐原に近づこうとすると再び強いグレアを当てられた。やっとの思いで立ち上がったのに、和泉は再び地面に身体を叩きつけられる。
和泉の精神に黒い影が覆い被さってくる。目の前が暗くなり、はっきり見えなくなってきた。
不本意なDomからの支配のあと、何度もグレアをくらったからだ。
これは堕ちる、と本能で悟った。この襲ってくる重苦しい闇は間違いなくそうだと身体でわかった。
もう一度グレアを食らったら間違いなく堕ちる。
周囲は「逃げろ!」と叫んでいる。だが、和泉に逃げる気などない。
自分は堕ちてもいいから、佐原を救いたい。
このまま佐原のグレアにやられてサブドロップして、命を落としても本望だ。
佐原を見捨てる気などない。
「さ、はら……」
今すぐ、佐原を止めなくては。ディフェンスが続けば、佐原が罪を犯してしまうかもしれない。
ディフェンスを起こしたDomを止めるのに最もよいとされるのは、パートナーのSubだ。
自分は無事だと、Domを裏切っていないとトランス状態に陥ったDomにわからせてやるのだ。
佐原は和泉の行動を見てディフェンスに陥った。佐原を止められるのは、自分しかいない。佐原のパートナーでなくても。
——動け! 動け!
和泉はもう一度立ち上がり、おぼつかない足で佐原のもとへと向かう。
佐原の暴走を止めたい。佐原を守りたい。取り返しのつかないことになる前に、佐原の目を覚ましてやりたい。
「佐原、俺だよ。俺はお前の敵じゃない……」
和泉はゆっくりと佐原に近づいていく。佐原に近づいてわかった。やはり佐原の目の様子がおかしい。濁ったような瞳をしていて、いつもの佐原じゃない。
和泉が目の前にいても、何の反応もない。目の前にいるのか誰なのか、認識できないようだ。完全に我を忘れている。
「俺を助けに来たんじゃねぇの……? だったら大丈夫だ。もう助かってるから……」
なんとか佐原のもとまで辿り着き、和泉は倒れかかるようにして佐原の身体を抱き締める。
「目を覚ませよ……」
なだめるように佐原の背中をさすってやる。佐原をさする手も震えているし、さっきから和泉の全身の震えが止まらない。
すでに佐原に寄りかかっていないと自力では立てない状況だ。
長い時間は身体がもたない。意識の中に黒い影が忍び寄ってきて、気力だけで立っている状態だ。
どうしたら佐原は目を覚ましてくれる……?
パートナーでなくても、佐原をどうしても救いたい。
こんなことで、佐原の未来を失わせたくない。
「佐原……」
佐原の目を必死で捉えて、訴える。佐原の目は和泉を映していない。我ここにあらずの状態だ。
「好きだ」
目の前が暗くなっていく中、和泉は最後の力をふりしぼって佐原の唇にキスをする。
ほんの少しだけ唇が佐原の唇に触れたあと、和泉は意識を失い、その場に崩れるようにして倒れた。
286
あなたにおすすめの小説
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
月弥総合病院
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
隠れSubは大好きなDomに跪きたい
みー
BL
ある日ハイランクDomの榊千鶴に告白してきたのは、Subを怖がらせているという噂のあの子でー。
更新がずいぶん遅れてしまいました。全話加筆修正いたしましたので、また読んでいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる