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3.パシる
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帰り道、早坂は俺にガンガン話しかけてくる。
意外だ。意外過ぎる。もっと静かなタイプの男だと思ってたのに。
「乃木は休みの日は何してるの?」
「俺? 俺はインドアだから家で動画とか漫画とか見てることが多いけど……」
「いいなぁ。休みの日に乃木とゆっくり家で過ごしてみたいな」
引きこもりの何がいいんだか。無理して俺に話を合わせて一日でも早く好かれようとしているのだろう。
そこからどんな動画を観てるのか、どんな漫画が好きなんだと早坂の質問オンパレードだ。早坂からしたらこんな話、楽しいのかな。
「乃木の好きな食べ物って、何?」
「え? うーんと、ポッキーかな」
「一緒だ! 俺も好き!」
なんだなんだ?! 急に早坂が嬉しそうに目をキラキラ輝かせてきた。
「へぇ。は、早坂も好きなんだ」
「うん。俺は大好き。乃木も? 乃木も好き?」
なんだこれ、好きとか大好きとか、ポッキーの話だよな?!
これは別に告白されたわけじゃない。
「俺はポッキーが好きだよ」
誤解のないよう、はっきりと答える。さっきの言葉じりを取られて告白オッケーされたと勘違いされたくないから。
「うん。わかった。またひとつ乃木のことがわかるようになった。他にも聞いていいか?」
「い、いいけど……」
興味もないくせに早坂は、俺のことばかり訊いてくる。
まずは攻略対象を知ることから始めているのだろうか。
参った。どうしたら早坂は告白ゲームをやめてくれるのだろう。
そのとき、駅の改札前でケンカをしているカップルを見かけた。
「お前の我儘には付き合ってらんねぇんだよ! 一緒になんていられるか!」
「何よ! あんたこそ思いやりなんてないじゃない!」
ふたりはお互いを罵り合っている。
カップルの修羅場を見て思いついた。
そうだ。
早坂が嫌がることをすればいいんだ。
早坂がギブアップするまで我儘を言ったらきっと諦めてくれるはず!
だってただのゲームなんだから、嫌な思いをしてまで俺に付き纏うことなどするわけがない。
「ねぇ、早坂」
俺は駅の改札を抜けたところで早坂に声をかける。
「どうしたの、乃木?」
「俺、喉乾いちゃってさ、これで飲み物買ってきてくんない?」
俺は定期入れに入っているICカードを早坂に押しつけた。
「スポドリがいい。探してきて」
どうだ早坂、選ばれし者の早坂は今までの人生で人にパシられたことなんてないだろう?
「わかった。一番ホームの階段降りたところで待ってて」
早坂は「カードなら俺も持ってる」と乃木のICカードを突き返し、どこかへ走っていった。
「えっ……」
俺はポカンとそのまま立ち尽くす。まさか早坂をパシることに成功するなんて。
しかもICカードまで返してきて、自分の金で買うつもりなのだろうか。
ここにいても仕方がないと駅のホームで待っていると、しばらくして早坂がスポドリを手に戻ってきた。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとう……」
しまった! ついお礼を言ってしまった。これくらい当然! のような嫌味な態度をとらなければならないのに。
「あ、あのお金……」
「このくらい奢らせてくれ。俺、バイトで稼いだ金があるから」
どうしよう、すごく申し訳ない。でも、嫌な奴にならなくちゃ。
「そこまで言うなら奢られてやるよ」
「いつでも言って。乃木の役に立てて嬉しいよ」
早坂にはこれしきの嫌がらせくらいでは響かない。まだ俺に気に入られようとしているようだ。
それから電車が到着し、早坂とふたりで乗り込む。夕方の少し混み合った車内。早坂は、ドア付近の隅っこスペースに俺を追いやり、自分は俺を守るように立った。
早坂は背が高いな。と思った。背の低い俺の視界は早坂の胸あたりだ。制服のシャツのボタンを少しラフに外した、男らしい早坂の喉元からのラインに目がいってしまう。
ほら、隣の女子大生グループがチラチラ早坂を見てる。早坂はかっこよすぎてどこに行っても目立ってるんだな。
これは早いうちになんとかしないとやばい、と思った。だってそうしないと、なんか……。
ありえないありえない! 告白ゲームの攻略対象にされているとわかっていて、一日で陥落したらチョロすぎる。
もっと早坂が嫌がることをしなくちゃ……。
「乃木とこうやって一緒に帰れるときがくるなんて夢みたいだ。でも、簡単なことだったんだな。乃木と帰りたいなら乃木にちゃんと声をかければよかったんだ。乃木は断らずに俺と一緒に帰ってくれたんだから」
「ただ帰るだけじゃん……」
こんなことを『夢みたいだ』と言うなんて、なんてリップサービスが過ぎる男なんだ。海外にいたから感情表現がストレートなのかな。
「それが嬉しいんだよ。明日も一緒に帰ろう。いいかな?」
今日早坂と一緒に帰ってわかった。帰り道があっという間の時間に感じた。
早坂がこれから毎日一緒にいてくれたらどんなに楽しいか。
あ。毎日じゃなかった。告白ゲームが終わるまでの間だった。
「い、いいけど、条件がある」
「何?」
早坂は俺に少しだけ顔を寄せてきた。その仕草だけでドキッとする。
「あ、朝も一緒がいい。家が近いなら毎日俺の家に迎えに来いよ。そしたら一緒に帰ってやる」
よし! これはかなり面倒くさいぞ!
同じ電車で待ち合わせじゃない。ひと駅歩いて俺の家まで迎えに来いだなんて嫌に決まっているだろう。
「乃木の家まで行っていいの?」
「へぁっ?!」
「そんなことしたら嫌われると思ってた。早速明日から迎えに行っていい?」
「えっ、えっ……」
やばい。予想外だ。早坂は本気で毎朝迎えに来るつもりなのか?!
「やっぱり明日からじゃ急だった?」
いいや、問題なのはそっちじゃないのに!
「早坂が、いいなら……」
俺がチラッと早坂の顔を見上げたら、早坂と目が合った。そういえば、こんな近くで早坂の顔を見たことはなかった。
早坂の顔面に欠点などない。輪郭も、唇や鼻の形も完璧だが、何より目が綺麗だ。
潤んだダークブラウンの瞳がじっとこちらを見つめていたかと思うと、早坂は顔を綻ばせてニコッと笑った。
「一日の始まりが乃木を迎えに行くことだなんて幸せだ。ありがとう、乃木」
なぜ迎えに来なければならない早坂のほうが礼を言うのだろう。
「じゃあ、ま、また明日」
ちょうど俺の降りる駅に電車が到着したため、俺は早坂と別れて電車を降りた。
さっきまで俺が乗っていた電車はすぐに出発し、駅を通り過ぎていく。
早坂、本気で毎朝迎えに来るつもりなのかな。
早坂はかなり告白ゲームに必死みたいだ。でなければこんな面倒なことをするとは言わないだろう。
それか、三日もあれば俺は早坂の手に落ちると思われているのかもしれない。ゲームが行われている短期間だったら、朝から迎えに来て攻略対象の俺の機嫌を取ることくらいはできるという算段だろうか。
こんな手に引っかかってたまるか。
こうなったら早坂にもっと嫌がらせをして、さっさとこのくだらないゲームを諦めさせてやる!
意外だ。意外過ぎる。もっと静かなタイプの男だと思ってたのに。
「乃木は休みの日は何してるの?」
「俺? 俺はインドアだから家で動画とか漫画とか見てることが多いけど……」
「いいなぁ。休みの日に乃木とゆっくり家で過ごしてみたいな」
引きこもりの何がいいんだか。無理して俺に話を合わせて一日でも早く好かれようとしているのだろう。
そこからどんな動画を観てるのか、どんな漫画が好きなんだと早坂の質問オンパレードだ。早坂からしたらこんな話、楽しいのかな。
「乃木の好きな食べ物って、何?」
「え? うーんと、ポッキーかな」
「一緒だ! 俺も好き!」
なんだなんだ?! 急に早坂が嬉しそうに目をキラキラ輝かせてきた。
「へぇ。は、早坂も好きなんだ」
「うん。俺は大好き。乃木も? 乃木も好き?」
なんだこれ、好きとか大好きとか、ポッキーの話だよな?!
これは別に告白されたわけじゃない。
「俺はポッキーが好きだよ」
誤解のないよう、はっきりと答える。さっきの言葉じりを取られて告白オッケーされたと勘違いされたくないから。
「うん。わかった。またひとつ乃木のことがわかるようになった。他にも聞いていいか?」
「い、いいけど……」
興味もないくせに早坂は、俺のことばかり訊いてくる。
まずは攻略対象を知ることから始めているのだろうか。
参った。どうしたら早坂は告白ゲームをやめてくれるのだろう。
そのとき、駅の改札前でケンカをしているカップルを見かけた。
「お前の我儘には付き合ってらんねぇんだよ! 一緒になんていられるか!」
「何よ! あんたこそ思いやりなんてないじゃない!」
ふたりはお互いを罵り合っている。
カップルの修羅場を見て思いついた。
そうだ。
早坂が嫌がることをすればいいんだ。
早坂がギブアップするまで我儘を言ったらきっと諦めてくれるはず!
だってただのゲームなんだから、嫌な思いをしてまで俺に付き纏うことなどするわけがない。
「ねぇ、早坂」
俺は駅の改札を抜けたところで早坂に声をかける。
「どうしたの、乃木?」
「俺、喉乾いちゃってさ、これで飲み物買ってきてくんない?」
俺は定期入れに入っているICカードを早坂に押しつけた。
「スポドリがいい。探してきて」
どうだ早坂、選ばれし者の早坂は今までの人生で人にパシられたことなんてないだろう?
「わかった。一番ホームの階段降りたところで待ってて」
早坂は「カードなら俺も持ってる」と乃木のICカードを突き返し、どこかへ走っていった。
「えっ……」
俺はポカンとそのまま立ち尽くす。まさか早坂をパシることに成功するなんて。
しかもICカードまで返してきて、自分の金で買うつもりなのだろうか。
ここにいても仕方がないと駅のホームで待っていると、しばらくして早坂がスポドリを手に戻ってきた。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとう……」
しまった! ついお礼を言ってしまった。これくらい当然! のような嫌味な態度をとらなければならないのに。
「あ、あのお金……」
「このくらい奢らせてくれ。俺、バイトで稼いだ金があるから」
どうしよう、すごく申し訳ない。でも、嫌な奴にならなくちゃ。
「そこまで言うなら奢られてやるよ」
「いつでも言って。乃木の役に立てて嬉しいよ」
早坂にはこれしきの嫌がらせくらいでは響かない。まだ俺に気に入られようとしているようだ。
それから電車が到着し、早坂とふたりで乗り込む。夕方の少し混み合った車内。早坂は、ドア付近の隅っこスペースに俺を追いやり、自分は俺を守るように立った。
早坂は背が高いな。と思った。背の低い俺の視界は早坂の胸あたりだ。制服のシャツのボタンを少しラフに外した、男らしい早坂の喉元からのラインに目がいってしまう。
ほら、隣の女子大生グループがチラチラ早坂を見てる。早坂はかっこよすぎてどこに行っても目立ってるんだな。
これは早いうちになんとかしないとやばい、と思った。だってそうしないと、なんか……。
ありえないありえない! 告白ゲームの攻略対象にされているとわかっていて、一日で陥落したらチョロすぎる。
もっと早坂が嫌がることをしなくちゃ……。
「乃木とこうやって一緒に帰れるときがくるなんて夢みたいだ。でも、簡単なことだったんだな。乃木と帰りたいなら乃木にちゃんと声をかければよかったんだ。乃木は断らずに俺と一緒に帰ってくれたんだから」
「ただ帰るだけじゃん……」
こんなことを『夢みたいだ』と言うなんて、なんてリップサービスが過ぎる男なんだ。海外にいたから感情表現がストレートなのかな。
「それが嬉しいんだよ。明日も一緒に帰ろう。いいかな?」
今日早坂と一緒に帰ってわかった。帰り道があっという間の時間に感じた。
早坂がこれから毎日一緒にいてくれたらどんなに楽しいか。
あ。毎日じゃなかった。告白ゲームが終わるまでの間だった。
「い、いいけど、条件がある」
「何?」
早坂は俺に少しだけ顔を寄せてきた。その仕草だけでドキッとする。
「あ、朝も一緒がいい。家が近いなら毎日俺の家に迎えに来いよ。そしたら一緒に帰ってやる」
よし! これはかなり面倒くさいぞ!
同じ電車で待ち合わせじゃない。ひと駅歩いて俺の家まで迎えに来いだなんて嫌に決まっているだろう。
「乃木の家まで行っていいの?」
「へぁっ?!」
「そんなことしたら嫌われると思ってた。早速明日から迎えに行っていい?」
「えっ、えっ……」
やばい。予想外だ。早坂は本気で毎朝迎えに来るつもりなのか?!
「やっぱり明日からじゃ急だった?」
いいや、問題なのはそっちじゃないのに!
「早坂が、いいなら……」
俺がチラッと早坂の顔を見上げたら、早坂と目が合った。そういえば、こんな近くで早坂の顔を見たことはなかった。
早坂の顔面に欠点などない。輪郭も、唇や鼻の形も完璧だが、何より目が綺麗だ。
潤んだダークブラウンの瞳がじっとこちらを見つめていたかと思うと、早坂は顔を綻ばせてニコッと笑った。
「一日の始まりが乃木を迎えに行くことだなんて幸せだ。ありがとう、乃木」
なぜ迎えに来なければならない早坂のほうが礼を言うのだろう。
「じゃあ、ま、また明日」
ちょうど俺の降りる駅に電車が到着したため、俺は早坂と別れて電車を降りた。
さっきまで俺が乗っていた電車はすぐに出発し、駅を通り過ぎていく。
早坂、本気で毎朝迎えに来るつもりなのかな。
早坂はかなり告白ゲームに必死みたいだ。でなければこんな面倒なことをするとは言わないだろう。
それか、三日もあれば俺は早坂の手に落ちると思われているのかもしれない。ゲームが行われている短期間だったら、朝から迎えに来て攻略対象の俺の機嫌を取ることくらいはできるという算段だろうか。
こんな手に引っかかってたまるか。
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