暗殺するため敵国に来たが愚王というのは嘘で溺愛され妃に迎え入れられました

雨宮里玖

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カイルのために

2.

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「ローラン、本当に四六時中ついてくるのか?」
「はい。陛下のご命令ですので」

 今朝の謁見の間での廃王妃論の話以降、ローランがユリス警護のためと言って付きまとってくる。

「最近城内が少し騒がしくなっております。それで妃陛下の身を陛下が案じていらっしゃるのです。妃陛下の周りにはオメガばかりで騎士はいないので不安だと仰られてました」
「ローランも災難だな。こんな面倒な仕事をすることになって……」
「いいえ、楽しいです!」
「えっ……?」
「だって仕事という名目で、妃陛下とずっと一緒にいられるんですよ? せっかくですから私といろんな話をしましょうね」

 ローランはにこりと笑いかけてくる。その笑顔に嘘はなさそうだ。

「すまない。では今から書庫に行くからついてきてくれるか?」
「はい、かしこまりました!」

 四六時中一緒でも、ローランならば気が楽だ。ユリスの護衛にローランを選んだのも、きっとカイルのユリスに対する計らいなのだろう。



 書庫で読みたい本を見繕って、書庫を出たときに廊下でダグラスと出くわした。ダグラスは屈強そうな従者を四人従えている。

「これはこれは妃陛下。勉強熱心でいらっしゃいますね」

 この廊下の先には書庫しかない。ここにいるということは書庫に用事があるということになる。

「ダグラス殿も書庫に行かれるのですか?」
「いいえ」

 ダグラスは含み笑いを浮かべる。この先には書庫しかないのになぜここに来たのだろう。

「妃陛下に折り入ってお話したいことがございます。今少しよろしいですか?」

 嫌とは言えない雰囲気だ。ダグラスからの圧を感じる。

「ケレンディアの未来のためのお話ですから、王妃である妃陛下の意見も是非お聞きしたいのです」

 ダグラスは表情を変えない。何かを企んでいるような気もするが、それがいったい何なのか窺い知ることはできない。

「……何でしょうか?」
「お話してよろしいですか? 我が国の北の国境線での争いの話を」
「争い……」

 北の国境線ならば、北国バラディスとの争いということだろうか。

「今、北の国境は緊迫しております。最近バラディスから我が国に亡命するオメガが多く、それを陛下は手厚く迎えるようにと指示されたのですが、それを利用して亡命オメガのふりをした北国の兵士が我が国に侵入し、貴族の一家を殺めました。女子供も見境なく全員です。それをきっかけにケレンディアとバラディスの争いが始まっています」
「そんな……」

 戦争の火種は小さな事で広がることもある。バラディスとの戦になったらケレンディアは無事ではすまない。
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