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21.誰にも言ってはいけない
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「オルフェウスさま……?」
「ハル。ここはオメガのフェロモンが強くて気づいてやれなかった」
「え……?」
「あとは従者に任せ、すぐに部屋に戻ろう」
オルフェウスは従者に指示を飛ばしたあと、ハルの手を引く。
「ハル、歩ける?」
「大丈夫、です……」
身体はほてり、手は震え出したが、まだ足は動く。
「つらかったら教えて。俺が抱えていく」
そう言いながらオルフェウスはハルの手をぐっと握った。アルファらしい大きな手が、まるで「ハルを守ってみせる」と伝えているかのように感じた。
「こんなことになっているとは思わなかった。ハルを探しに行って正解だったよ」
「探しに来てくださったんですか?」
「そうだよ、ハルの心の悲鳴が聞こえた」
「えっ?」
ハルは目を丸くする。するとすぐに「それは言い過ぎだけどね」とオルフェウスが返してきた。
「本当はハルに会いに行った。ゼインの居ぬ間に、ハルとお茶でもしようと思って。そしたら従者もつけずに書庫に向かったと聞いて追いかけたんだ」
オルフェウスはゼインが城にいるときは、部屋に遊びに来たりしない。なんでもそれをやるとゼインの機嫌が著しく悪くなるのだそうだ。
「ありがとうございます。助かりました」
偶然でも、オルフェウスが来てくれて本当によかった。ハルひとりで助けを呼ぶところからやっていては、もっと時間がかかってしまったに違いない。
「いいかい。これから行く道は王族以外の誰にも話してはいけない」
オルフェウスはいくつか複雑な道を通ったあと、ある小部屋に入っていった。小部屋の奥、埃にまみれた古い暖炉の上にあるランプにオルフェウスが手をかざし、呪文を唱えると、目の前の壁が動いた。
「隠し通路だ。これで誰にも会わずに部屋に戻れる」
中にあるのは狭い階段だった。石造りの簡素な階段が続いていて、踊り場にいくつか扉がある。
「王家に伝わる呪文があるんだ。魔力がない者は魔石を使って呪文を唱えれば扉を動かせる」
「へぇ……知りませんでした」
有事の際の逃げ道なのかもしれない。それを王家だけが使えるよう、魔法で扉を封印してあるようだ。
ゼインはハルに隠し通路の話は一度もしてくれなかった。オルフェウスの話だと王家だけが使う通路のようだから、やはりゼインはハルのことを認めてくれていないのだろう。
「そうだ。これをハルにあげる」
オルフェウスは首から下げていた緋色の宝石のペンダントをハルの首にかけてくれた。
「魔力がなくてもこの魔石を使えばここに入れるよ」
「よろしいのですかっ?」
「もちろん。ハルはもうアレドナールの一員になったじゃないか」
「ありがとうございます……」
ハルは緋色のペンダントに付いている魔石を握りしめる。これがあれば有事のときの逃げ道が使えるようになる。
隠し通路のおかげで、ハルは部屋に戻ることができた。オルフェウスはハルをすぐさま寝室へと押し込む。
「寝室から一歩も出るな。あとのことは俺がすべて整えておくから」
オルフェウスはその場にいたゼインの従者たちにすぐに人払いを命じた。従者たちは慌てて支度を始める。
「ハル。頑張れ」
オルフェウスは最後にそう言って、静かに寝室の扉を閉めた。
「はぁっ……はぁっ……!」
ひどく息が苦しい。身体が熱くてたまらない。
ハルはひとりベッドで身もだえる。
抑制剤で抑えてきたので、ヒートになるのは数年ぶりだ。こんなに苦しいものだったかと今さらになって思い出す。
それを自分で収めようとしても、うまくできない。経験の乏しいハルにはどうしたらいいのかわからない。
「ゼインさまっ……」
ハルはかき集めたゼインの服を抱きしめ、居もしない夫の名前を呼ぶ。なりふりなんて構っていられない。ベッドにはゼインの服が山になっている。
アルファの匂いがないと耐えられないのだ。服があっても、苦しくて頭がおかしくなりそうだ。
「ううっ……」
こんなに苦しい状態が何日も続くなんて耐えられない。ハルは涙をこぼしながら自分で自分を慰めようと試みる。
ゼインは明日から始まる隣町の魔導会議に出席予定で、今ごろどこかの宿に身を寄せていることだろう。城から隣町までは馬での移動でも半日はかかる。そして予定ではゼインは数日間帰ってこない。
「もう、だめ……からだ壊れる……っ」
喉が渇いても、近くに置いてある水を飲む力もない。
苦しくて、手を動かすことすらできない。
「ハル」
朦朧とする意識の中、誰かがハルの名前を呼んだ。その声のしたほうをハルは寝返りを打ってゆっくりと視線を向ける。
足首まである、ゆったりとした白いローブが見えた。黒髪で長身の男がそこに立っている。
いつの間に寝室に入ってきたのだろう。扉が開く音すら、ヒート中のハルには聞こえなかった。
黒髪の男はベッドにいるハルに近づいてくる。
見覚えのある白いローブはオルフェウスのものだ。でも、オルフェウスが来ることなんてない。ハルの夫はゼインで、ゼイン以外のアルファは通さないように人払いされているはず。
オルフェウスの命令によって。
「俺がここに来たことは誰にも言ってはいけないよ」
オルフェウスはハルのいる布団の中へと潜り込んできた。
「ハル。ここはオメガのフェロモンが強くて気づいてやれなかった」
「え……?」
「あとは従者に任せ、すぐに部屋に戻ろう」
オルフェウスは従者に指示を飛ばしたあと、ハルの手を引く。
「ハル、歩ける?」
「大丈夫、です……」
身体はほてり、手は震え出したが、まだ足は動く。
「つらかったら教えて。俺が抱えていく」
そう言いながらオルフェウスはハルの手をぐっと握った。アルファらしい大きな手が、まるで「ハルを守ってみせる」と伝えているかのように感じた。
「こんなことになっているとは思わなかった。ハルを探しに行って正解だったよ」
「探しに来てくださったんですか?」
「そうだよ、ハルの心の悲鳴が聞こえた」
「えっ?」
ハルは目を丸くする。するとすぐに「それは言い過ぎだけどね」とオルフェウスが返してきた。
「本当はハルに会いに行った。ゼインの居ぬ間に、ハルとお茶でもしようと思って。そしたら従者もつけずに書庫に向かったと聞いて追いかけたんだ」
オルフェウスはゼインが城にいるときは、部屋に遊びに来たりしない。なんでもそれをやるとゼインの機嫌が著しく悪くなるのだそうだ。
「ありがとうございます。助かりました」
偶然でも、オルフェウスが来てくれて本当によかった。ハルひとりで助けを呼ぶところからやっていては、もっと時間がかかってしまったに違いない。
「いいかい。これから行く道は王族以外の誰にも話してはいけない」
オルフェウスはいくつか複雑な道を通ったあと、ある小部屋に入っていった。小部屋の奥、埃にまみれた古い暖炉の上にあるランプにオルフェウスが手をかざし、呪文を唱えると、目の前の壁が動いた。
「隠し通路だ。これで誰にも会わずに部屋に戻れる」
中にあるのは狭い階段だった。石造りの簡素な階段が続いていて、踊り場にいくつか扉がある。
「王家に伝わる呪文があるんだ。魔力がない者は魔石を使って呪文を唱えれば扉を動かせる」
「へぇ……知りませんでした」
有事の際の逃げ道なのかもしれない。それを王家だけが使えるよう、魔法で扉を封印してあるようだ。
ゼインはハルに隠し通路の話は一度もしてくれなかった。オルフェウスの話だと王家だけが使う通路のようだから、やはりゼインはハルのことを認めてくれていないのだろう。
「そうだ。これをハルにあげる」
オルフェウスは首から下げていた緋色の宝石のペンダントをハルの首にかけてくれた。
「魔力がなくてもこの魔石を使えばここに入れるよ」
「よろしいのですかっ?」
「もちろん。ハルはもうアレドナールの一員になったじゃないか」
「ありがとうございます……」
ハルは緋色のペンダントに付いている魔石を握りしめる。これがあれば有事のときの逃げ道が使えるようになる。
隠し通路のおかげで、ハルは部屋に戻ることができた。オルフェウスはハルをすぐさま寝室へと押し込む。
「寝室から一歩も出るな。あとのことは俺がすべて整えておくから」
オルフェウスはその場にいたゼインの従者たちにすぐに人払いを命じた。従者たちは慌てて支度を始める。
「ハル。頑張れ」
オルフェウスは最後にそう言って、静かに寝室の扉を閉めた。
「はぁっ……はぁっ……!」
ひどく息が苦しい。身体が熱くてたまらない。
ハルはひとりベッドで身もだえる。
抑制剤で抑えてきたので、ヒートになるのは数年ぶりだ。こんなに苦しいものだったかと今さらになって思い出す。
それを自分で収めようとしても、うまくできない。経験の乏しいハルにはどうしたらいいのかわからない。
「ゼインさまっ……」
ハルはかき集めたゼインの服を抱きしめ、居もしない夫の名前を呼ぶ。なりふりなんて構っていられない。ベッドにはゼインの服が山になっている。
アルファの匂いがないと耐えられないのだ。服があっても、苦しくて頭がおかしくなりそうだ。
「ううっ……」
こんなに苦しい状態が何日も続くなんて耐えられない。ハルは涙をこぼしながら自分で自分を慰めようと試みる。
ゼインは明日から始まる隣町の魔導会議に出席予定で、今ごろどこかの宿に身を寄せていることだろう。城から隣町までは馬での移動でも半日はかかる。そして予定ではゼインは数日間帰ってこない。
「もう、だめ……からだ壊れる……っ」
喉が渇いても、近くに置いてある水を飲む力もない。
苦しくて、手を動かすことすらできない。
「ハル」
朦朧とする意識の中、誰かがハルの名前を呼んだ。その声のしたほうをハルは寝返りを打ってゆっくりと視線を向ける。
足首まである、ゆったりとした白いローブが見えた。黒髪で長身の男がそこに立っている。
いつの間に寝室に入ってきたのだろう。扉が開く音すら、ヒート中のハルには聞こえなかった。
黒髪の男はベッドにいるハルに近づいてくる。
見覚えのある白いローブはオルフェウスのものだ。でも、オルフェウスが来ることなんてない。ハルの夫はゼインで、ゼイン以外のアルファは通さないように人払いされているはず。
オルフェウスの命令によって。
「俺がここに来たことは誰にも言ってはいけないよ」
オルフェウスはハルのいる布団の中へと潜り込んできた。
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