婚約者変更で傲慢アルファの妃になりました

雨宮里玖

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番外編『心配症のゼイン』4

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「んっ……ゼイン、さま……」

 ゼインの手がハルの服の中に侵入してきた。無骨な指が肌を滑るように撫でると、身体が思い出したように快感を拾っていく。
 ゼインと触れ合っているときが一番いい。
 でも、問題がある。今の身体ではゼインの欲を満たしてあげることはできない。

「ゼインさま、そろそろ……」

 触れ合いはほどほどにしなければいけない。ハルも気持ちが高ぶってきてしまうから。
 ハル自身もゼインと行為ができないことをさみしく思っている。でも、こればかりは身体の回復を優先しなければ。

「あと少し。手荒な真似はしない」
「あ、こらっ……ダメですって」

 ゼインはやめようとしない。これ以上感じさせられたら、変な気を起こしてしまいそうだ。

「ハル。好きだ。愛している」
「あっ……」

 文句を言う唇をキスで塞がれる。何も言えなくなって、あと少しだけこのままでいいかと流されそうになったとき。
 隣の部屋から、幼い泣き声が聞こえる。

「テオドールが起きた!」

 ゼインとハルは目配せをする。

「様子を見てくる」

 ゼインは素早く立ち上がり、隣の部屋へと飛んでいく。
 テオドールが眠っている隣の部屋には従者のロランがいるはずだ。それでも心配性のゼインはテオドールが泣くとすぐに駆けつける。

「ふふ」

 少しだけ笑って、ハルもベッドからゆっくり起き上がる。ゼインのあとを追って、隣の部屋を覗きに行く。

 柵付きの小さなベッドのそばにいるゼインは、テオドールを抱き上げてその小さな身体を腕の中に包み込んでいる。泣き続けるテオドールを必死にあやしながら。
 ああでもない、こうでもないと苦戦しながらもテオドールと向き合っているゼインが愛おしい。

「申し訳ありません、ゼインさま。手は尽くしたのですが、テオドールさまがまったく泣きやまずに……」
「大丈夫だ。ロランは休んでいろ。あとは俺がみる」
「しかしゼインさまこそお疲れでは……」

 ロランの言うとおりだ。今日、誕生日のゼインは朝から訪問客の対応で大忙しだった。

「私がみます」

 ハルはふたりの会話に口を挟む。

「ゼインさま。テオドールをこちらに」
「いいやここは俺が」
「お任せください。テオドール、こっちおいで」

 ハルが抱っこを代わると、さっきまで泣いていたテオドールが嘘のように静かになった。そんなテオドールの手のひらを返したような態度に、ロランが「なんということでしょうか」とポカンと口を開けたままでいる。

「テオドールめ。俺よりハルが好きなのか?」

 ゼインがテオドールの頬を指でつんつんする。

「そんなことはありません。たまたまですよ。ね、テオドール」

 ハルがテオドールの顔をのぞき込むと、腕の中にいるテオドールはバタバタと両腕を動かした。その仕草が可愛くてならない。

「テオドール。俺のことも忘れたわけではないな? 俺はお前の父親だぞ」

 張り合うようにしてゼインがぐっと肩を寄せてくる。

「そうですよテオドール、父上ですよ。父上はテオドールが生まれてとても喜んでいますよ」
「ハルは、母上は、命を懸けてお前を産んでくれたんだ。可愛いだけじゃない、優しい母上だぞ」

 ゼインとふたりで口々に話しかけると、テオドールは手足をばたつかせた。泣いていたのに機嫌が直ったように見える。

「ゼインさまが父上になられたのですね」
「ハルは母上だな。テオドールがそう呼んでくれる日が待ち遠しいな」

 額がくっつくくらいの距離で、ゼインと微笑み合っていると、ロランが「あ、あの……」とおずおず声をかけてきた。

「今夜はおふたりにテオドールさまのことをお任せします! お邪魔なようですので、こっ、これで失礼いたします!」

 ロランはサッと礼をして、部屋から立ち去っていった。

「ロランが行ってしまったな。今夜は三人で寝よう」
「はい。ロランも疲れているでしょうから」

 いくら従者と言っても、ロランにばかり世話を押し付ける気はない。なによりゼインは自らの手で育てることを希望しているし、ハルだってそうだ。
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