好きだから傍に居たい

麻沙綺

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心配させちゃった…亜耶

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「亜耶ちゃん。今の人って……。」
 龍哉くんが驚いた顔をして聞いてくる。
「ん? 三年生の桜あゆみさんです。夏休み前のレクで知り合ったんですよ」
 私がそう答えると。
「やっぱり、桜風紀委員長か……。あの人を味方に付けてるなら、この騒ぎもすぐ収まるよ。よかったな、梨花。亜耶ちゃんのこと悪く言う奴少なくなるだろう。」
 龍哉くんの言葉に梨花ちゃんが、ホッと胸を撫で下ろしたのが見えた。
 皆に要らない心配かけちゃってるんだなぁ。
 申し訳ないな。
 って、今あゆみさんが、風紀委員長って龍哉くん言わなかった?
「亜耶ちゃん。知らなかったの? 桜風紀委員長、生徒に凄く人気のある人なんだよ。」
 愛美ちゃんが、呆れ顔で私を見てくる。
「これで、亜耶ちゃんが桜委員長のお気に入りだと認定されたようなもんだね。」
 ユキちゃんが、ニッコリ笑って言う。
「そのせいで、また新たな噂を立てられるだろうが……。」
 田中くんや和田くんが心配そうな顔で言う。
 その言葉に首を傾げれば。
「大丈夫だろ。あの人の目がある限りは、変な噂はたたないだろ。」
 龍哉くんの言葉に五人が首を傾げる。
「まぁ、あの人の配下の者が許すわけがない。だから、心配する必要はない。」
 断言する龍哉くん。
「そうそう。風紀委員長さんは、亜耶ちゃんの兄嫁さんの配下だし、変な噂が立ったらお小言が彼女に向かうからね。それを見越して動いてると思うよ。」
 との声に振り向けば、湯川くんが居てその隣には、悠磨くんと泉さんがいる。
「亜耶、大丈夫? 少し疲れてるように見えるけど。」
 気遣わしげにそう口を開いたのが、悠磨くん。
 泉さんも心配気にこっちを見てくる。
「大丈夫だよ。皆が守ってくれるから、私は、平気だよ。」
 私は、そう口にして笑顔を見せる。
「それにね。私には、強い味方が居るし…ね。」
 そう口にして、目線を教室の外に向ける。
 さっきから、心配そうにこちらを伺ってる彼の姿が見え隠れしてる。
「亜耶……。」
 どう声を掛けていいのかわからずに、目線を泳がしてる泉さん。
 そんな三人に。
「三人して、心配して来てくれたんだよね。その気持ちだけで充分だよ。」
 私は、ぎこちない笑みを浮かべそう口にしていた。
 今の精一杯の強がり。
「無理に笑わなくてもいいんじゃないかな。辛いなら、泣いたっていいんだよ。」
 その言葉に一瞬心を奪われそうになったけど、今は出来ないんだ。
 "他人に弱味は見せるな。信頼のおける奴の前で泣き言を言え"
 と常々言われてきたから、ここでは泣けない。
 今唯一見せれる人物は、あの人だけなの……。
 だから今は、歯をくいしばって堪える。
「梨花。それは、亜耶ちゃんには言ってはいけない言葉。」
 龍哉くんが小さな声で、梨花ちゃんに言う。
「なんで? 普通なら、泣き言をいいたいと思うけど?」
 首を傾げて龍哉くんに聞き返す梨花ちゃんに困った顔をする。そんなやり取りを見ていた湯川くんが。
「企業のトップが、易々と他人に弱味を見せてはダメだと言われて育てられるんだ。だから、唯一弱味を吐ける場所は、あそこでさっきから心配そうにこちらを伺ってる人だけ。亜耶ちゃん、行っておいでよ。もう、無理でしょ?」
 そう言って、私の背中を押してくれる。
 が、私は首を横に振る。
「亜耶の意地っ張り。もう、我慢の限界だろうが!」
 そう言ったのは、意外にも悠磨くんだった。
「ほら、行ってこいよ。あの人ずっと心配そうにしてこっちを見てるんだから……。」
 悠磨くんの言葉に私は教室を飛び出す。
 廊下で、ずっと心配そうにこっちを見ていた人に飛び付いた。
 普段しない行動に彼は驚いたように体を魚籠つかせ、難なく抱き止めてくれる。

「亜耶……。」

 その優しく呼ぶ声に、もはや限界だった涙が溢れてきた。
「ごめん…なさい……。」
 慌てて離れようとしたけど、そのまま抱き締めてくれて。
「龍哉。次の授業、亜耶を休ませるから、先生に言っておいてくれ。」
 龍哉くんに言伝てを頼むと私の肩を抱いて歩き出した。








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