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第3章「幻蝶、不機嫌ミア」
第20話「メイドのいたずら」
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朝、目が覚めると声が二つした。
「なんで、あなたまでいるの」
「いいじゃん。私もロルフの寝起き見たいもん」
不服そうなのと拗ねるような声。ロルフを起こさないためか小さい音量で話しているが、丸聞こえだ。どちらも聞き覚えがあり、この屋敷のメイドになったばかりの二人だった。
「それよりも、ほら……。あっ、起きちゃった、ロルフ」
「えっ。……もうー、ルーシーのせいじゃない」
ルーシーはなにをしようとしていたのか。ロルフに向かって、人差し指を向けている。以前のレイラと同じことをしようとしていたのだろうか。この二人の中では寝ている人の頬をつつくのが流行っているのか。
「おはよう、二人とも。ところで、なにしてるんだ……」
分かりきっていることだが、一応聞いてみる。
二人はメイド服ではなく寝間着姿だった。今日のレイラは黒いワンピースタイプのネグリジュだった。ルーシーは大きくて白いパジャマ姿。正直言って二人とも目の毒である。
レイラは毎朝起こしに来ていたので、今日もそうなのだろう。きっとルーシーも。
「起こしに来たんだよー! 寝顔のロルフを見てみたかったんだぁ」
「私も。このバカ竜のせいで出来ませんでしたが」
「むっ、レイラのくせにうるさい」
「はぁ?」
「んー?」
いつの間にこんなに仲良くなったのだろう。息ピッタリだ。レイラがここまで口を悪くしているのも中々見ない。
「くくっ。仲いいのは結構だけど、そろそろ起きるからそこどいてくれ」
「仲良くないよっ」
「仲良くないですっ」
二人揃ってそんなことを言ってくる。まぁ、なんにしろ住み込みを始めた二人が楽しそうでよかった。
「はぁ、まぁいいです。それよりもロルフ。あれ、言って下さい」
「え? 今日もやるのか?」
「もちろんです。私の生きる糧ですよ」
レイラはロルフの手を握って、じっと伺ってくる。こんな風に迫られると余計に言いづらい。そんな大層ものでもないのに。
「ねー、あれってなにー?」
「ルーシー、黙ってて」
「むー」
当然、まだルーシーがいる。彼女は無邪気にロルフたちに訊いてきた。
しかし、レイラはロルフを見たまま微動だにしない。
ルーシーは内容が気になるのか意外にもあっさりと引いて、大人しくなる。ただ、じっと手が繋がれているところを見るのはやめて欲しい。変な汗を掻きそうになる。
「レイラ」
「はい」
「仕事頑張れ。応援してる」
「ロルフも頑張って下さい」
レイラの感性が分からない。こっちが恥ずかしくなるほどに、うっとりとした顔をする。ぎゅっと握られた手が熱くなった。
「……ずるい」
「え?」
「私もする」
「ちょっと、ルーシーっ?」
すぐそばで見ていたルーシーが、強引にロルフの手を掴んだ。レイラよりも体温が高く小さい手に包まれる。
「やって、ロルフ」
「わ、分かった」
ルーシーの目が思いのほか真剣で、断れなかった。
まぁ、別に一言いうだけだから、なんでもないんだけど……。
「はぁ、ロルフは優し過ぎます……」
レイラはそばに居たままだった。
なんでこんな告白みたいな雰囲気で二回も言わなければならないんだ。ルーシーが楽しそうなので、まぁ、いいかとロルフは思う。
「ルーシー」
「うんっ」
「お仕事頑張って」
「ロルフも頑張って! お仕事っ」
ルーシーは満面の笑顔だった。まさに破顔。この部屋がロルフだけじゃないというのを完全に忘れている。
間違いなく聞こえてんだろうなー。グレン、すまん。
ロルフは、二段ベッドの上ですでに起きているだろうグレンに内心で謝った。
毎朝レイラが起こしに来ていると思ったら、今度はルーシーまで加わったのだ。朝に二人から起こされるのは悪い気はしないが……、グレンに申し訳ない。
「もう手を離して、ルーシー。ロルフが起きれないでしょ」
「……はーい」
ルーシーはしぶしぶと言った様子で、手を離した。
「では、また会いましょう、ロルフ」
「またねー」
「ああ」
それぞれ手を振りながら、二人は部屋を出ていった。
二人が居なくなると、一気に部屋が静かになる。
「起きてんだろ、グレン」
「……バレてましたか? すみません」
鎌をかけてみると、案の定グレンは起きていた。
ロルフもグレンもベッドから出て、執事としての仕事の準備を始める。
「毎朝、すまん。今日はルーシーまで来たし」
「いいですよ、気にしないで下さい。これはこれで面白いので」
「面白がれるのも複雑なんだが……」
毎朝のルーティンになっている仕事の準備は、あっという間に終わっていく。
姿見の前での最終チェックを終えると、グレンはすでに準備を終えていた。
「いやー、使用人たちの間で噂になっていますから。それは、もう無理ですよ」
「……どうすればいいんだ。あの調子だと、明日から二人一緒に毎朝来そうだ」
「でしょうねー。まぁ、頑張って下さいっ! 男として」
「いっつ。効くなー、これは」
バシンっ、と背中をかなりの強さで叩かれた。痛くはあるが、こういうのは気合が入る気がする。
「あ、でも一つだけ気を付けて下さいね」
急にニヤッと笑うと、人差し指をロルフの目の前で一本立てた。
「もしですよ。もし、お嬢様を悲しませるようなことがあると、大変ですよ。ものすごく」
「……分かってる。というか、それを一番気を付けているんだけどな」
「まぁ、ですよね。あははっ」
グレンはふざけ調子であるものの、幾分か真実味が入っていた。ミアはああいう性格であるものの、根は優しい。
なので、使用人含めて慕われている。いや、可愛がられている、と言った方が近いか。
……これからミアを起こしに行かなければならない。
だが、最近少し困っていた。レイラが来た時のような不機嫌さは無いのだが、妙に静かなのだ。その割に、やたらとひっつきたがる。どう反応したらいいのか、今のロルフには分からなかった。
「なんで、あなたまでいるの」
「いいじゃん。私もロルフの寝起き見たいもん」
不服そうなのと拗ねるような声。ロルフを起こさないためか小さい音量で話しているが、丸聞こえだ。どちらも聞き覚えがあり、この屋敷のメイドになったばかりの二人だった。
「それよりも、ほら……。あっ、起きちゃった、ロルフ」
「えっ。……もうー、ルーシーのせいじゃない」
ルーシーはなにをしようとしていたのか。ロルフに向かって、人差し指を向けている。以前のレイラと同じことをしようとしていたのだろうか。この二人の中では寝ている人の頬をつつくのが流行っているのか。
「おはよう、二人とも。ところで、なにしてるんだ……」
分かりきっていることだが、一応聞いてみる。
二人はメイド服ではなく寝間着姿だった。今日のレイラは黒いワンピースタイプのネグリジュだった。ルーシーは大きくて白いパジャマ姿。正直言って二人とも目の毒である。
レイラは毎朝起こしに来ていたので、今日もそうなのだろう。きっとルーシーも。
「起こしに来たんだよー! 寝顔のロルフを見てみたかったんだぁ」
「私も。このバカ竜のせいで出来ませんでしたが」
「むっ、レイラのくせにうるさい」
「はぁ?」
「んー?」
いつの間にこんなに仲良くなったのだろう。息ピッタリだ。レイラがここまで口を悪くしているのも中々見ない。
「くくっ。仲いいのは結構だけど、そろそろ起きるからそこどいてくれ」
「仲良くないよっ」
「仲良くないですっ」
二人揃ってそんなことを言ってくる。まぁ、なんにしろ住み込みを始めた二人が楽しそうでよかった。
「はぁ、まぁいいです。それよりもロルフ。あれ、言って下さい」
「え? 今日もやるのか?」
「もちろんです。私の生きる糧ですよ」
レイラはロルフの手を握って、じっと伺ってくる。こんな風に迫られると余計に言いづらい。そんな大層ものでもないのに。
「ねー、あれってなにー?」
「ルーシー、黙ってて」
「むー」
当然、まだルーシーがいる。彼女は無邪気にロルフたちに訊いてきた。
しかし、レイラはロルフを見たまま微動だにしない。
ルーシーは内容が気になるのか意外にもあっさりと引いて、大人しくなる。ただ、じっと手が繋がれているところを見るのはやめて欲しい。変な汗を掻きそうになる。
「レイラ」
「はい」
「仕事頑張れ。応援してる」
「ロルフも頑張って下さい」
レイラの感性が分からない。こっちが恥ずかしくなるほどに、うっとりとした顔をする。ぎゅっと握られた手が熱くなった。
「……ずるい」
「え?」
「私もする」
「ちょっと、ルーシーっ?」
すぐそばで見ていたルーシーが、強引にロルフの手を掴んだ。レイラよりも体温が高く小さい手に包まれる。
「やって、ロルフ」
「わ、分かった」
ルーシーの目が思いのほか真剣で、断れなかった。
まぁ、別に一言いうだけだから、なんでもないんだけど……。
「はぁ、ロルフは優し過ぎます……」
レイラはそばに居たままだった。
なんでこんな告白みたいな雰囲気で二回も言わなければならないんだ。ルーシーが楽しそうなので、まぁ、いいかとロルフは思う。
「ルーシー」
「うんっ」
「お仕事頑張って」
「ロルフも頑張って! お仕事っ」
ルーシーは満面の笑顔だった。まさに破顔。この部屋がロルフだけじゃないというのを完全に忘れている。
間違いなく聞こえてんだろうなー。グレン、すまん。
ロルフは、二段ベッドの上ですでに起きているだろうグレンに内心で謝った。
毎朝レイラが起こしに来ていると思ったら、今度はルーシーまで加わったのだ。朝に二人から起こされるのは悪い気はしないが……、グレンに申し訳ない。
「もう手を離して、ルーシー。ロルフが起きれないでしょ」
「……はーい」
ルーシーはしぶしぶと言った様子で、手を離した。
「では、また会いましょう、ロルフ」
「またねー」
「ああ」
それぞれ手を振りながら、二人は部屋を出ていった。
二人が居なくなると、一気に部屋が静かになる。
「起きてんだろ、グレン」
「……バレてましたか? すみません」
鎌をかけてみると、案の定グレンは起きていた。
ロルフもグレンもベッドから出て、執事としての仕事の準備を始める。
「毎朝、すまん。今日はルーシーまで来たし」
「いいですよ、気にしないで下さい。これはこれで面白いので」
「面白がれるのも複雑なんだが……」
毎朝のルーティンになっている仕事の準備は、あっという間に終わっていく。
姿見の前での最終チェックを終えると、グレンはすでに準備を終えていた。
「いやー、使用人たちの間で噂になっていますから。それは、もう無理ですよ」
「……どうすればいいんだ。あの調子だと、明日から二人一緒に毎朝来そうだ」
「でしょうねー。まぁ、頑張って下さいっ! 男として」
「いっつ。効くなー、これは」
バシンっ、と背中をかなりの強さで叩かれた。痛くはあるが、こういうのは気合が入る気がする。
「あ、でも一つだけ気を付けて下さいね」
急にニヤッと笑うと、人差し指をロルフの目の前で一本立てた。
「もしですよ。もし、お嬢様を悲しませるようなことがあると、大変ですよ。ものすごく」
「……分かってる。というか、それを一番気を付けているんだけどな」
「まぁ、ですよね。あははっ」
グレンはふざけ調子であるものの、幾分か真実味が入っていた。ミアはああいう性格であるものの、根は優しい。
なので、使用人含めて慕われている。いや、可愛がられている、と言った方が近いか。
……これからミアを起こしに行かなければならない。
だが、最近少し困っていた。レイラが来た時のような不機嫌さは無いのだが、妙に静かなのだ。その割に、やたらとひっつきたがる。どう反応したらいいのか、今のロルフには分からなかった。
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