恋愛なんて、まだできない。

pigmaru

文字の大きさ
5 / 5
4章

いい匂いと眠気とあかりと

しおりを挟む
……てっきり、出前でもするのかと思っていた。



男の人が料理を作るなんて。



トントントン、と食材を切っている音が聞こえる。


雪乃はただぼぅ、っと天井を眺めていた。


なんだかすごい1日だったなぁ……新しい出会いっていうのかな、こういうの。
そういえばひなたさんにあったとき、私すごい尖ったこと言い返したなぁ……


緊張が解けていくにつれて思考が元の雪乃の性格通り穏やかなものへと戻っていく。


あ、包丁の音しなくなった。



それと同時に食材を炒めるじゅうじゅうという音と共に香りが漂ってきた。
その時雪乃のお腹がぐぅ、とちいさく鳴る。
あ、お腹鳴った。
と天井から視線を外せば真剣に料理しているひなたの姿が目に入った。


ああ、そうだ、よく見たらかっこいい顔してるかもなぁ…タイプではないけど。


そんな独り言を頭で考えながら見つめているとひなたと目が合った。


びく、と一瞬ひるむとひなたは

ん?

といった表情で眉を上げた。が、直ぐに料理に戻る。


雪乃はひなたが目を逸らしてくれたので少しほっとした。
……昔から、正確に言えばいつからなのかは覚えていないが人と目を合わせ続けることが苦手だ。

というか得意な人間なんて居ないんじゃないか。

そんなことを考えているとひなたが声をかけてきた。


「あと卵焼くだけやから食器とか、色々。用意してくれん?」


雪乃はこくりと頷くととたとたとキッチンへと向かう。

食器の場所を尋ねながら用意をすればもうオムライスは完成だった。


そういえば家出してから食べてないかもなぁ……そんなことを考えながら、ひなたのいただきますっ!に合わせて雪乃も小さく……いただきます。と言ってひと口食べてみる。


なんだ、意外と美味しい……
料理できる系男子か、などと頭の中で考えながらスプーンを口へと運んでいく。


「……あ、そういえば家ないってことは仕事とかもないやんな?どうやって生活していくん?俺もちょっと色々考えてみるけど。」


突然のひなたからの質問に雪乃はもぐもぐこくん、と口の中のものを飲み込むとうーん、と考えてみた。


「今のところは何もあてがなくて……えっとそれで、とりあえず出会い系で……何とかしようかなって。」


「え、出会い系でなんとかするって、身体売るってことやんな?女の子なんやから自分大事にしーや?仕事やったら探したるし最悪家だって見つかるまでここに住めばいい、まあ、信用出来ひんのもわかるしそんな広くはないけど。」


雪乃はその言葉に不思議と下心を感じなかった。
ほんの少し、自分でもひとりじゃ広すぎるって言うくらい家広いくせに嫌味じゃないか、と思ったくらいだ。ほんの少し。

「それなら……しばらくここに居てもいい…?仕事はなるべく早く……見つけます。この歳で何ができるか分からないけど。」


そういうとひなたは思い出したとばかりに口を開く。


「そのかわり、一応事情があるにせよ親にはきちんと話し?俺誘拐犯にはなりたないから。」


そう言って笑った。


その日は雪乃の疲れがピークに達していたこともありお風呂を借りて恐らく来客用であろう部屋で寝ることになった。


この壁の向こうにはひなたさんがいるのかー……なんてつらつらとどうでもいいことを考える。


雪乃は昔からそうだ。
大切なことはどうにもならなくなってからしか考えない、結果的にいつも逃げてしまうのだ。


悪い癖だなぁ……


くだらない事ばかりが無限ループする頭の中で色々と考えているうちにカーテンの細い隙間から薄い青色が差し込んできた。


ああ、もう、朝か。
寝ないと。


そう言い聞かせて雪乃は目を閉じた。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

離婚した彼女は死ぬことにした

はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

私のことを愛していなかった貴方へ

矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。 でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。 でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。 だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。 夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。 *設定はゆるいです。

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

嘘をつく唇に優しいキスを

松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。 桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。 だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。 麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。 そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。

私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約していました~

marumi
恋愛
「あら アルヴェイン公爵がドゥーカス令嬢をエスコートされていますわ」 「ご婚約されたと噂を聞きましたが、まさか本当だとは!」 私は五年前までこの国の皇女エリシアだった。 暗殺事件に巻き込まれ、幼なじみで初恋の相手だった従者――アルヴェイン公子と共に命からがら隣国、エルダールへ亡命した。 彼の「必ず迎えに来る」その言葉を信じて、隣国の地で彼を待ち続けた……。 それなのに……。 やっとの思いで帰国した帝国の華やかなパーティー会場で、一際目立っているのは、彼と、社交界の華と言われる令嬢だった――。 ※校正にAIを使用していますが、自身で考案したオリジナル小説です。 ※イメージが伝わればと思い、表紙画像をAI生成してみました。

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ 読んでくださり感謝いたします。 すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...