美味しいものと王子様

魔茶来

文字の大きさ
上 下
1 / 4
王子は代役!?

サヤカ王都に行く(1)

しおりを挟む
「この世界には美味しいものが少ない」

 なぜだろう、私は昔から美味しいものがないと考えていた。
 それは昔食べたものの記憶があるからだが、その記憶にある食べ物を見つけられないのだ。
 それも一つや二つではない、相当な数の食べ物の記憶なのだが?
 両親に聞いても覚えがないという?
 そんなはずはないだろう、あんなに美味しかった記憶なのに・・・
 そうか、短期期間の記憶であるとすれば、その間に大量の美味しい食べ物というのであれば。
 それはきっとある場所に固まっているのだはないかと考えるようになっていた。
 そんな訳で少しでも美味しいものがあると聞くとどんなに遠くても食べに行った。

 そんな私は十六歳の女の子「サヤカ・スレンダー」です。
 うちの家は代々騎士を生業としている。
 騎士とは言っても実際には末席なのだが、兄は立派にこの地方の近衛に抜擢されていた。
 私はというと、女だから適当な時期に結婚すれば良いと言われていた。

 でも私には底知れない食べ物に対する思いがあるのだ、そう簡単には結婚などしない。
 結婚などしてしまったら最後美味しいものが探せなくなる。
 思い出の味やそのありかにはまだ辿り着いていない。

 ある日、父さん曰く「美味しいものなら王都にあるんじゃないか?」
 そうか王都であれば王様が珍しい美味しいものを集めているかも知れない、それも一理ある。
 でも私の記憶にある物なのだ、実は王都なんかには私は行ったことがない。
「美味しいものはあると思うけど、私が探している物は多分王都ではないわよ」
 だって、遠いし、どんなに美味しいものがあっても旅費と宿泊費を考えると行くのは難しいだろう。
 今はそう答えるしかなかった。

 父さんはそんな私の心を見透かしたのだろうか、昨日聞いて来たことを話し出した。
「昨日広報が出ていてな、新しい王城勤務の騎士選抜試験が行われると聞いた。
 お前は女だが強いからもしかすると選抜される可能性があるかも?
 旅費と宿泊費は予選を勝ち抜けばタダらしいぞ。
 もちろん食べ物もタダで食べ放題らしい。
 お前も思っている通り、王都には美味しいものがたくさんあるぞ」

「本当に美味しいものがタダで食べられるの?」
 そう聞くと王都にあるというおいしもの話が頭を離れない。
 そしてすでに気持ちは王都に向かっていた。

 そんなことを考えていると・・・
「ただし予選落ちすると、旅費の建て替えもないし食費も出ないぞ」

 そんな言葉には惑わされない。
 王都には一度行きたかった。
 少なくとも美味しいものの話はいくつも聞いていたのだ。
 記憶にあるものとは違うものだったが、肉や野菜、果物、菓子に至るまで、ここでは食べたことがないものがたくさんあるのだ。
 そう考えるとすぐにでも王都に向かいたい。
 そして、お父さんに詳細を聞いた。
 試験は大丈夫かって?
 大丈夫、私には誰にも負けない防御魔法がある。
 防御だけなら誰にも負けない。
 と言うことで、お父さんに試験への参加の許しを得た。
 そしてお父さんの上司であるカミルさんに頼んで推薦状を書いてもらった。

 話は早いほど決着も早い。
 お金は後で返すからと言うことでお父さんに借りた。
 予選に合格できれば旅費は出るし、お金は返せると信じている。

 そうさ、決心と行動は早いほど良い。

 つまり既に私は王都に居た。
 ここまでの道のりのことはもう忘れた。
 覚えているのは王都に入るとすぐに美味しい串焼き肉の店があることだった。

 そして王都の門に入ると聞いていた通り串焼き肉の店があった。
 店に入ると多くの人が居た。

 少し酔った男の人が話しかけて来た。
「お嬢ちゃんも試験に出るのか?
 やめておきな、顔に怪我でもしたらお嫁に行けなくなるぞ」

 そんな心配は無用だし鬱陶しいので簡単な言葉で
「ご心配なく私に傷をつけられる人などいませんから」

 すると何人かが立ち上がって私に勝負を挑もうとした。
「いけませんね、血気盛んと言うやつですか?
 明日には勝負できますので今日ここでは騒ぎを起こさないでください」
 すると立ち上がっていた人たちはすぐに座った。
「すいません、ユリウス様、そこのものを知らないお嬢ちゃんに、少し王都の流儀を教えたやろうかと思ってしまったものでつい出過ぎました」

「お嬢さんもこんな場所で、啖呵切るものじゃないよ」
 その男の人は私を助けたつもりだったようだ。
「ありがとうございます、でも大丈夫私は誰にも負けませんよ」

「ほう、こりゃ大変な自信家なお嬢さんだな
 でも今はやめておいてくれないか。
 騒ぎを起こすと、明日の試験に出れなくなるよ」
「え~~~っ、試験に出られなくなるんですか?」
「当たり前だ、騒ぎを起こしたら、試験どころか、たぶん王城の独房に収監されるよ」
「そうなんですか、すいません、申し訳ありません」
 とりあえずみんなに聴こえるように謝っておく。

「落ち着いたところで、ここには何か食べに来たんだろ。
 美味しいブレアの肉の串焼きでも奢ろうか?」

「本当ですか!!、嬉しい」
 私は美味しいものが食べられるのであれば幸せななのだ。

「紹介が遅れましたが、私は明日の試験の試験官のユリウスです」
「あっ、はい、私は明日の試験を受けるために来たサヤカと言います」

 それからユリウスさんは本当にブレアの串焼き肉を奢ってくれた。

 さすが王都である、ブレア肉は前処理が細やかなのか柔らかく、味付けも塩味が程よく本当に美味しい。
「本当に美味しい・・・嬉しい!!」
 そんな言葉が口から漏れた。

 ブレア肉を食べる私の顔を見ながらユリウスさんは、にこやかな顔をしていた。
「サヤカさんは本当に美味しそうに食べますね。
 見ていて飽きませんよ。
 遠慮なくおかわりもしてくださいね」

「あははは。そうですか・・・
 すいません。お言葉に甘えさせてもらいます」
 そう言われるとなんとなく恥ずかしかったので笑って誤魔化した。
 そして遠慮なくおかわりもしてしまった。
 そう私は食べ物に関しては遠慮がないと言うかブレーキが効かなくなるようだった。
 そして食べながらユリウスさんから試験に関して色々教えてもらった。

 ちなみに試験会場近くの宿泊施設も紹介してもらい、そこでゆっくり休むことにした。
 最初に会った人が良い人でよかった。
 そんなことを考えながら、明日のために魔力増強の瞑想を始めた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界転生者から始まる超軍事革命

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:5

涙あふれる断罪劇(未遂)

恋愛 / 完結 24h.ポイント:78pt お気に入り:2,026

異世界帰りで魅力アップ?~NTRもBSSもクソくらえな勇者のやり直し計画~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:95

叶わない恋はしない、はずだった

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

本当の別れは近い

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

地球防衛隊 三匹のニャルソック

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

処理中です...