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堕天の聖女
堕天
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その夜、クリエナは禁断症状が収まっていた。
治療を続けるセミレーヌに話しかけた。
「私はこれから、どうすれば良いのでしょうか?」
セミレーヌは愛しむような眼をしながらクリエナに語り掛けた。
「貴方のことは貴方自身が考えなければならないのよ
神が貴方を選んだと言うのなら、貴方は自分で判断が出来るから選ばれたのよ
自分を馬鹿にしてはいけないわ」
クリエナにセミレーヌが来た理由を話した。
「実は明日正教会から王家に今回の事件について調査に来るらしいわ
貴方がマグバリアンで治療を受けていると分かると、王家や互助会の色々な人に迷惑が掛かると思ったの
だから私が直接来て治療をしているという訳よ」
「でも禁断症状が治まっていると、どうやって治したと聞かれませんか?」
「だから、明日は貴方には眠ってもらうの、でも意識はあるし耳も聞こえるわ
貴方は眠っているけど周りの人達がどういう反応をするか分かるのよ
つまり貴方の周りに居る人が貴方をどう見ているか知ることになるの……」
「そんな、恐ろしいこと、とても堪えられないと思います……
私は、私はあの子達に酷い醜態を……」
「貴方は自分で自分のこれからを判断するために耐えなければならないのよ」
セミレーヌの魔法は、魔女の言葉でもあるかのようにクリエナの体の力を抜いて行くと同時に少しずつ意識が薄れていく……
気が付くと朝になっていた。
体は自由に動かなくなっていた。
意識は、はっきりしていた、そして耳は聞こえ、目も少しだが薄目を開けたよう周りが見えた。
三人の聖女がやって来た。
「「「クリエナ様、おはようございます!!」」」
三人はクリエナの顔を見ると安心したように話し出した。
「まだ眠っておられますわ、でも安らかな寝顔ですわ」
「ここ数日は大変でしたものね」
「本当に良かった、私達ではこんな安らかな、お顔には出来なかった」
「でも私たちは前の私達ではありません
クリシェ様達を見て教わったのです
落ち込んでいる暇や泣いている暇があるなら
前に進む道を探すのです
そうよ、まだまだ修行が足りませんわね!!」
「いけませんわ静かにしませんと、クリエナ様が寝ているのですよ……」
そう言うと三人は出て行った。
クリエナは安心した。
(三人は今回の事件で成長したようだ
心配する私が一番子供だったかも……
そうよ落ち込んだり泣いている暇はない、前を向かないと
どのような待遇でも正教会に帰り、また人々を癒すのが使命だわ)
◆ ◆
その日の午後には正教会から調査員が2名来た。
国王と王妃に挨拶に来た調査員は調査報告する。
「私はジャクリスと申します、こちらは助手のキエルトと申します
率直に申し上げます
今回の事件ですが悪魔の薬を密造しているグループがソルア国に拠点を作っておりましたこと明白です
よってソルア国の治安の悪さから発生した事件であると結論付けられます」
オレアナ王妃は否定する。
「何を根拠に、実際に犯人達が居たのは国境外れですからソルア国とは関係が無いのではありませんか?」
調査員達は待ってましたとばかりに答える。
「そこを突かれたのです、国境と言うことでソルア国に拠点が無いように見せかけていただけです
それが証拠に奴らはソルア国の住民であるかのように、この国に入り込んでいた」
「正教会側は聖女の汚染を始め損害は莫大なものです
原因はソルア国にある訳ですから、正教会への見舞金として8,000万デニーロを寄付して頂きたく」
オレアナ王妃は激怒した。
「8,000万デニーロとは!!、そのような大金・・・」
王はオレアナ王妃を止めた。
「分かりました寄付致しましょう
この度は多大な損害を与え申し訳ありませんでした
クリエナ様の治療費も含め少し上乗せし寄付しておきましょう」
「王様……」
オレアナ王妃は何かを言いかけたが、途中でやめた。
「流石ソルア国王、ありがとうございます、では私たちは報告がありますので部屋に戻ります」
二人きりになるとオレアナ王妃は王に強い口調で話をする。
「王様、なぜあんな大金を謂れのないことのために払うのですか……」
王は落ち着いて、何かを思い出すようにゆっくり話をする。
「今回の事件、いや最近起こる大きな事件の数々が犠牲者も少なく済んでいる
うまく行き過ぎだと思うぐらいにな」
「わしは最近起こることが『最悪になった場合』の夢を見た
それはそれは、本当に悲惨なことが起きていた、かわいい姫、王子、王妃すらそして王城……
本当に取り返しの付かないことが起こるのだ……」
「儂は、悪魔でもなんでも構わないから元に戻してくれと願う、だが元には戻らない」
「それは起こるとお金では取り返すことが出来ない
本当に最近怒ることは『神に守られている』そう思えるほどうまく回避できている
神に感謝と考えれば8,000万デニーロなど安いものだ」
◆ ◆
クリエナの寝ている部屋に二人の調査員は着いた。
「うまく行きましたね、責任をそのまま負うとは、王も馬鹿ですな
これで寄付はばっちり頂けます」
三人の聖女は調査員が来たという話を聞きこんで扉の前まで来た。
「調査員さんたちはクリエナ様と私達を正教会まで送って下さるらしいわ」
「じゃあ、クリエナ様も一緒に帰れるのね、良かった、追放とか言う話もあったか心配だったの」
「ぜひお礼を言わせてもらいましょう」
だが不穏な話が聞こえて来たので声を潜めて扉の前で聞いていた。
「しかし禁断症状を緩和すると言うことで眠らせるというのはアイデアですな
もっとも起きれば地獄でしょうがね……」
「本当にこの汚染患者を連れて帰るのですか?」
「仕方があるまい、寄付も貰ったしな
問題なのはこの聖痕さ、悪魔の薬を飲んでなお、聖痕が有るのだ
悪用されることもあるのでこの聖痕が有る内は正教会から出せないんだよ」
「なんで薬を飲まされようとした時に自害しなかったんだろう……
あっさり飲まされるなんて、神を冒涜する行為をしたんだ
いっそ聖痕も消えてしまえば良かったんだ」
「連れて帰るが、正教会の座敷牢に閉じ込めておく
こんな風に眠らせるのではなく起こしておくさ、騒ぐといけないから尊厳薬を与え続けるだけさ……
もちろん食事は与えないから、そう長くなく始末はできる……」
外で聞いていた聖女達は居たたまれなくなってその場を離れた。
「酷い話です」
「本当に酷い話です」
「許せないです」
三人は考えた、そしてまた色々考えた、だが結論は出なかった。
少しすると、調査員達は食事と称して外へ行ったので三人はクリエナの所に戻った。
三人は必死でクリエナを移動させようと頑張った。
「このままではクリエナ様が……」
「私達でお守りするのよ」
「何とかクリエナ様をマグバリアンへお連れできれば」
クリエナは眠ってはいない、声も聞こえるし薄目を開けているから彼女たちの必死の顔も見えた。
そこへセミレーヌとユリアナが現れた。
「貴方達、何をして居るの、病人を動かしてはいけませんよ」
「でも、クリエナ様はこのままでは……」
そう言うと聖女達は泣き出してしまった。
「泣いたって何にも解決しないわよ……」
「そう言う貴方も泣いているじゃない」
そう言いながら三人とも泣いていた。
セミレーヌはクリエナに顔を近づけ質問した。
「クリエナさん、もう良いかしら?」
そう言うと魔法を解いた。
「はっ!!……」
クリエナの体が動いた。
驚いたのは三人の聖女達だった。
「クリエナ様大丈夫なんですか?」
「まだ完全じゃないけどね……」
三人の聖女はクリエナに同時に泣きながら嘆願した。
「「「逃げてください、お願いです、正教会に戻ったら酷いことになります
私達はクリエナ様に生きていて欲しいの!!」」」
クリエナは決断したように言葉を発した。
「ユリアナ様、聖痕を消す方法は無いのでしょうか?
最悪は奴隷紋で焼けば良いと聞いています」
ユリアナは優しく諭した。
「そんな無茶をしなくても一時的であれば消せますよ」
「ほんとうですか?」
「もちろんです」
◆ ◆
調査員が帰って来た時大騒ぎになっていた。
部屋には三人の聖女とオレアナ王妃と数名の従者が居た。
ジャクリスが何事かと聞いた。
「どうしたのですかな」
聖女サミエルが説明する。
「クリエナ様の聖痕が消えたのです」
ジャクリスが安心したように呟く。
「なるほど、今頃ですか……」
オレアナ王妃はどういう意味か聞いてみた。
「今頃とは?」
「悪魔の薬に蝕まれた体から聖なる力が消えたのですよ
つまりもう聖女では無いと言うことですな
しかし困りましたな聖女で無い者は連れて帰れませんからな」
オレアナ王妃はそれならと願い出て見た。
「分かりました、このようなことになったのも我が国の責任でしょうから
クリエナさんはソルア国で預からせて頂きます
ただ治療方法が分かりませんわね……」
ジャクリスはそれならという顔をして言い放った。
「もし引き取って頂けるというのであれば異存はありません
そして噂ではありますが、尊厳薬中毒を治せるマグバリアンと言う組織があるそうです
いえ、いえ、詳しいことも何も科学などと言うものを信じる者達のことですから本当かどうかは分かりませんが
あくまでこれは噂ですよ……」
オレアナ王妃は礼を言った。
「分かりましたこれも何かの縁ですね
我が国で引き取らせていただきます」
ジャクリスは付け加えた。
「申し訳ないのですが、扱いは『堕天』と言うことになりますのでよろしくお願い申し上げます」
オレアナ王妃はクリエナの顔を見ると、その悲しそうな顔を見ながら頷いた。
◆ ◆
翌日調査員と三人の聖女が正教会に帰ることになった。
スクールの皆はお見送りに来た。
最初来た時と同じ三人
赤い髪が印象的な元気な聖女サミエル
青い髪のメガネっ子聖女リリカ
聡明そうな大人しい子聖女シリオン
でも三人は着た時より成長した感じがした。
シェリルは馬車に向かって走って行きながら……
「きっとまた会いましょう、私達も会いに行くから……約束よ……」
「「「きっとまた会いましょう、それとクリエナ様をよろしくお願い申し上げます」」」
こうして三人の聖女は帰って行った。
◆ ◆
数日たってクリエナはミラの店で働いていた。
まだ治療を続けてはいるが、殆ど禁断症状は出なくなった。
「ブミャ肉玉とユール玉焼きお待ち……」
元気なクリエナの声が響く。
数日働いただけだが、客もなじみになって来たようだった。
「クリエナちゃん今日も二本コテだね、決まってるな!!」
「ほい!!、二本コテの妙技です、みんな拍手、拍手!!」
そこへシェリル、サリア、クリシェの三人組がやって来る。
「「ブミャ肉玉」、「ユール玉焼き」、「山や再焼き」をお願いします」
「あっ、それともう直ぐユリアナが用があるって言ってたから後で来られるわよ」
ガっちゃ焼きを焼くクリエナの元にユリアナが来た。
「ユリアナ様、何を召し上がりますか?」
「そうね、レジエのガっちゃ焼きを貰おうかしら」
「聖痕は戻って来たみたいね」
「はい、本当に不思議な術ですね、精霊術なのですか?」
「そんな所ね」
「聖なる光もコントロールできますし元通りです
オレアナ王妃様にもお礼を言っておいてください」
「王妃もあんな奴らにクリエナさんを渡すもんかってね頑張っていたからね
でもあんなに役者だとは思わなかったけどね……」
「そう言えば私に何か用があるので来られると、シェリル姫が言ってましたけど?」
「来たわよ、セミレーヌからの手紙」
その手紙には「採用通知」と書いてあった。
ミラが手紙を嬉しそうに見るクリエナに話しかける。
「マグバリアンに就職が決まったの?」
「ええ、決まったわ、私は私に出来ることをすると決めたのよ
それがマグバリアンと言う正教会から認められていない組織であってもね」
「『堕天』か……
ミラが『堕天』した時は、なんてことをするんだろうって思ったけど」
「でも、『堕天』なんて上から目線ね、本当は何てことは無い
正教会の聖女から、『人の聖女』に戻っただけなのに……」
「神が私を選んだと言うのなら
私は神に選ばれた自分の生き方を信じるわ」
「それは他人が決める生き方ではなく
自分が決めた生き方だから」
治療を続けるセミレーヌに話しかけた。
「私はこれから、どうすれば良いのでしょうか?」
セミレーヌは愛しむような眼をしながらクリエナに語り掛けた。
「貴方のことは貴方自身が考えなければならないのよ
神が貴方を選んだと言うのなら、貴方は自分で判断が出来るから選ばれたのよ
自分を馬鹿にしてはいけないわ」
クリエナにセミレーヌが来た理由を話した。
「実は明日正教会から王家に今回の事件について調査に来るらしいわ
貴方がマグバリアンで治療を受けていると分かると、王家や互助会の色々な人に迷惑が掛かると思ったの
だから私が直接来て治療をしているという訳よ」
「でも禁断症状が治まっていると、どうやって治したと聞かれませんか?」
「だから、明日は貴方には眠ってもらうの、でも意識はあるし耳も聞こえるわ
貴方は眠っているけど周りの人達がどういう反応をするか分かるのよ
つまり貴方の周りに居る人が貴方をどう見ているか知ることになるの……」
「そんな、恐ろしいこと、とても堪えられないと思います……
私は、私はあの子達に酷い醜態を……」
「貴方は自分で自分のこれからを判断するために耐えなければならないのよ」
セミレーヌの魔法は、魔女の言葉でもあるかのようにクリエナの体の力を抜いて行くと同時に少しずつ意識が薄れていく……
気が付くと朝になっていた。
体は自由に動かなくなっていた。
意識は、はっきりしていた、そして耳は聞こえ、目も少しだが薄目を開けたよう周りが見えた。
三人の聖女がやって来た。
「「「クリエナ様、おはようございます!!」」」
三人はクリエナの顔を見ると安心したように話し出した。
「まだ眠っておられますわ、でも安らかな寝顔ですわ」
「ここ数日は大変でしたものね」
「本当に良かった、私達ではこんな安らかな、お顔には出来なかった」
「でも私たちは前の私達ではありません
クリシェ様達を見て教わったのです
落ち込んでいる暇や泣いている暇があるなら
前に進む道を探すのです
そうよ、まだまだ修行が足りませんわね!!」
「いけませんわ静かにしませんと、クリエナ様が寝ているのですよ……」
そう言うと三人は出て行った。
クリエナは安心した。
(三人は今回の事件で成長したようだ
心配する私が一番子供だったかも……
そうよ落ち込んだり泣いている暇はない、前を向かないと
どのような待遇でも正教会に帰り、また人々を癒すのが使命だわ)
◆ ◆
その日の午後には正教会から調査員が2名来た。
国王と王妃に挨拶に来た調査員は調査報告する。
「私はジャクリスと申します、こちらは助手のキエルトと申します
率直に申し上げます
今回の事件ですが悪魔の薬を密造しているグループがソルア国に拠点を作っておりましたこと明白です
よってソルア国の治安の悪さから発生した事件であると結論付けられます」
オレアナ王妃は否定する。
「何を根拠に、実際に犯人達が居たのは国境外れですからソルア国とは関係が無いのではありませんか?」
調査員達は待ってましたとばかりに答える。
「そこを突かれたのです、国境と言うことでソルア国に拠点が無いように見せかけていただけです
それが証拠に奴らはソルア国の住民であるかのように、この国に入り込んでいた」
「正教会側は聖女の汚染を始め損害は莫大なものです
原因はソルア国にある訳ですから、正教会への見舞金として8,000万デニーロを寄付して頂きたく」
オレアナ王妃は激怒した。
「8,000万デニーロとは!!、そのような大金・・・」
王はオレアナ王妃を止めた。
「分かりました寄付致しましょう
この度は多大な損害を与え申し訳ありませんでした
クリエナ様の治療費も含め少し上乗せし寄付しておきましょう」
「王様……」
オレアナ王妃は何かを言いかけたが、途中でやめた。
「流石ソルア国王、ありがとうございます、では私たちは報告がありますので部屋に戻ります」
二人きりになるとオレアナ王妃は王に強い口調で話をする。
「王様、なぜあんな大金を謂れのないことのために払うのですか……」
王は落ち着いて、何かを思い出すようにゆっくり話をする。
「今回の事件、いや最近起こる大きな事件の数々が犠牲者も少なく済んでいる
うまく行き過ぎだと思うぐらいにな」
「わしは最近起こることが『最悪になった場合』の夢を見た
それはそれは、本当に悲惨なことが起きていた、かわいい姫、王子、王妃すらそして王城……
本当に取り返しの付かないことが起こるのだ……」
「儂は、悪魔でもなんでも構わないから元に戻してくれと願う、だが元には戻らない」
「それは起こるとお金では取り返すことが出来ない
本当に最近怒ることは『神に守られている』そう思えるほどうまく回避できている
神に感謝と考えれば8,000万デニーロなど安いものだ」
◆ ◆
クリエナの寝ている部屋に二人の調査員は着いた。
「うまく行きましたね、責任をそのまま負うとは、王も馬鹿ですな
これで寄付はばっちり頂けます」
三人の聖女は調査員が来たという話を聞きこんで扉の前まで来た。
「調査員さんたちはクリエナ様と私達を正教会まで送って下さるらしいわ」
「じゃあ、クリエナ様も一緒に帰れるのね、良かった、追放とか言う話もあったか心配だったの」
「ぜひお礼を言わせてもらいましょう」
だが不穏な話が聞こえて来たので声を潜めて扉の前で聞いていた。
「しかし禁断症状を緩和すると言うことで眠らせるというのはアイデアですな
もっとも起きれば地獄でしょうがね……」
「本当にこの汚染患者を連れて帰るのですか?」
「仕方があるまい、寄付も貰ったしな
問題なのはこの聖痕さ、悪魔の薬を飲んでなお、聖痕が有るのだ
悪用されることもあるのでこの聖痕が有る内は正教会から出せないんだよ」
「なんで薬を飲まされようとした時に自害しなかったんだろう……
あっさり飲まされるなんて、神を冒涜する行為をしたんだ
いっそ聖痕も消えてしまえば良かったんだ」
「連れて帰るが、正教会の座敷牢に閉じ込めておく
こんな風に眠らせるのではなく起こしておくさ、騒ぐといけないから尊厳薬を与え続けるだけさ……
もちろん食事は与えないから、そう長くなく始末はできる……」
外で聞いていた聖女達は居たたまれなくなってその場を離れた。
「酷い話です」
「本当に酷い話です」
「許せないです」
三人は考えた、そしてまた色々考えた、だが結論は出なかった。
少しすると、調査員達は食事と称して外へ行ったので三人はクリエナの所に戻った。
三人は必死でクリエナを移動させようと頑張った。
「このままではクリエナ様が……」
「私達でお守りするのよ」
「何とかクリエナ様をマグバリアンへお連れできれば」
クリエナは眠ってはいない、声も聞こえるし薄目を開けているから彼女たちの必死の顔も見えた。
そこへセミレーヌとユリアナが現れた。
「貴方達、何をして居るの、病人を動かしてはいけませんよ」
「でも、クリエナ様はこのままでは……」
そう言うと聖女達は泣き出してしまった。
「泣いたって何にも解決しないわよ……」
「そう言う貴方も泣いているじゃない」
そう言いながら三人とも泣いていた。
セミレーヌはクリエナに顔を近づけ質問した。
「クリエナさん、もう良いかしら?」
そう言うと魔法を解いた。
「はっ!!……」
クリエナの体が動いた。
驚いたのは三人の聖女達だった。
「クリエナ様大丈夫なんですか?」
「まだ完全じゃないけどね……」
三人の聖女はクリエナに同時に泣きながら嘆願した。
「「「逃げてください、お願いです、正教会に戻ったら酷いことになります
私達はクリエナ様に生きていて欲しいの!!」」」
クリエナは決断したように言葉を発した。
「ユリアナ様、聖痕を消す方法は無いのでしょうか?
最悪は奴隷紋で焼けば良いと聞いています」
ユリアナは優しく諭した。
「そんな無茶をしなくても一時的であれば消せますよ」
「ほんとうですか?」
「もちろんです」
◆ ◆
調査員が帰って来た時大騒ぎになっていた。
部屋には三人の聖女とオレアナ王妃と数名の従者が居た。
ジャクリスが何事かと聞いた。
「どうしたのですかな」
聖女サミエルが説明する。
「クリエナ様の聖痕が消えたのです」
ジャクリスが安心したように呟く。
「なるほど、今頃ですか……」
オレアナ王妃はどういう意味か聞いてみた。
「今頃とは?」
「悪魔の薬に蝕まれた体から聖なる力が消えたのですよ
つまりもう聖女では無いと言うことですな
しかし困りましたな聖女で無い者は連れて帰れませんからな」
オレアナ王妃はそれならと願い出て見た。
「分かりました、このようなことになったのも我が国の責任でしょうから
クリエナさんはソルア国で預からせて頂きます
ただ治療方法が分かりませんわね……」
ジャクリスはそれならという顔をして言い放った。
「もし引き取って頂けるというのであれば異存はありません
そして噂ではありますが、尊厳薬中毒を治せるマグバリアンと言う組織があるそうです
いえ、いえ、詳しいことも何も科学などと言うものを信じる者達のことですから本当かどうかは分かりませんが
あくまでこれは噂ですよ……」
オレアナ王妃は礼を言った。
「分かりましたこれも何かの縁ですね
我が国で引き取らせていただきます」
ジャクリスは付け加えた。
「申し訳ないのですが、扱いは『堕天』と言うことになりますのでよろしくお願い申し上げます」
オレアナ王妃はクリエナの顔を見ると、その悲しそうな顔を見ながら頷いた。
◆ ◆
翌日調査員と三人の聖女が正教会に帰ることになった。
スクールの皆はお見送りに来た。
最初来た時と同じ三人
赤い髪が印象的な元気な聖女サミエル
青い髪のメガネっ子聖女リリカ
聡明そうな大人しい子聖女シリオン
でも三人は着た時より成長した感じがした。
シェリルは馬車に向かって走って行きながら……
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数日働いただけだが、客もなじみになって来たようだった。
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「ほい!!、二本コテの妙技です、みんな拍手、拍手!!」
そこへシェリル、サリア、クリシェの三人組がやって来る。
「「ブミャ肉玉」、「ユール玉焼き」、「山や再焼き」をお願いします」
「あっ、それともう直ぐユリアナが用があるって言ってたから後で来られるわよ」
ガっちゃ焼きを焼くクリエナの元にユリアナが来た。
「ユリアナ様、何を召し上がりますか?」
「そうね、レジエのガっちゃ焼きを貰おうかしら」
「聖痕は戻って来たみたいね」
「はい、本当に不思議な術ですね、精霊術なのですか?」
「そんな所ね」
「聖なる光もコントロールできますし元通りです
オレアナ王妃様にもお礼を言っておいてください」
「王妃もあんな奴らにクリエナさんを渡すもんかってね頑張っていたからね
でもあんなに役者だとは思わなかったけどね……」
「そう言えば私に何か用があるので来られると、シェリル姫が言ってましたけど?」
「来たわよ、セミレーヌからの手紙」
その手紙には「採用通知」と書いてあった。
ミラが手紙を嬉しそうに見るクリエナに話しかける。
「マグバリアンに就職が決まったの?」
「ええ、決まったわ、私は私に出来ることをすると決めたのよ
それがマグバリアンと言う正教会から認められていない組織であってもね」
「『堕天』か……
ミラが『堕天』した時は、なんてことをするんだろうって思ったけど」
「でも、『堕天』なんて上から目線ね、本当は何てことは無い
正教会の聖女から、『人の聖女』に戻っただけなのに……」
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