虎と僕

碧島 唯

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 イケメン女子高生とストーカー――3

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 紫藤さんには何も憑いてないのは視て分かっていた。
 なら、場所に、なのか。
 あの心霊写真が関係してるとは思えないが、霊なのか。
 それとも、他に理由があるのか、それは夜になってみないと分からない。
 さて、どうやって姉たちを説得して夜に出かけるか……。
 秋音はまだしも、世話焼きで家事一切を引き受けて留守を預かる大学生の姉、夏海の説得は難しそうな気がする。
「とりあえずは夜、だよな」
 考えながら歩いていたら、思わず口に出してしまっていて、気づいてちょっと恥ずかしい。
「冬樹―っ」
 名前を呼ばれた途端に、背中にドーンって衝撃があって、カバンで背中を叩かれたのに抗議しようと振り返る。
「痛いな、何すんだよっ」
「何よー、おねーさまにその口の聞き方はっ」
 そういや今週は掃除当番だとか言ってたな、それにしても、同じ時間に帰ることになったのも久しぶりだ。
「背中が痛いんだよ、相変わらず乱暴なんだから。
 そんなんだといくつになっても嫁に行けねーぞ、秋姉」
「何よー? こう見えたってモテるんだからな、そんな心配要らないよっ、まったく弟のくせに」 
 まぁ、黙ってればモテないこともないだろう。
 バレンタインのチョコは友チョコもあったが、本命チョコっぽいのもたくさんあったのを思い出す、差出人は主に女子だと思うけど、紙バッグに二つはあったチョコの山はモテてる証拠じゃないだろうか。
 すらりとした均整の取れた身体に、身内びいきかも知れないが美人の類だし。
 難を言えば、スレンダーなのは胸も、なんだけど、そういうのが好きな人もいるだろう。
 ただし、言葉より手が早いんだ、この人は。
 僕にとっては、美人の姉というよりは乱暴者の姉のイメージの方が強い。
 小さい頃はガキ大将を泣かせて、代わりにその座についたこともあったっけ……。
「はいはい、そのおモテになる秋姉の彼氏とやらはいったい何処にいるのかな、僕は見たことがないんだけど」
 実際の所、どうなんだろうとちらと秋音の顔を眺めるが、図星を差されたような顔をしていた。
 ああ、やっぱり、まだ彼氏はいないんだ。
 あれ、本人曰くモテるというのはどこからきた根拠なんだろう?
 女子だけでなく、男子にも人気があるらしいっていう噂は本人は知らないだろうし。
 そんな事を考えていると、秋音の腕が首に回されて、引き寄せられる。
「ちょっ……苦しいって」
「おーきくなったよねー……冬樹。
 ちょっと前まではこーんなだったのに」
 ちょっと前まで、と秋音は胸の下当たりを空いてる方の手で示して、僕に顔を擦り付けてくる。
 頬と頬とが擦られてくすぐったいやら、恥ずかしいやらで、押し返して離れようとするにも秋音の力が強くてままならない。
「ちょっ、秋姉っ、この……バカ力っ。
 離れろよーっ」
 家の近所でこんな事してたら恥ずかしい、とか思っていると後から声が掛けられて、急に首が楽になった。
「もうっ、秋音ったら何やってんのよ」
 上の姉、夏海の声だった。
 僕ではムリだった、首を締め付ける秋音の腕が解かれてほっとして、二人の方を見る。
 ぐいぐいと秋音の腕を両手で引っ張っている夏海、こうやってみるとつくづく秋音はバカ力だというのがわかる。
 夏海の方が身長も低いせいか、こうして二人を見ていると姉妹がじゃれあってるように見えて微笑ましい、見てるだけなら。
「もー、わかったってばー」
 秋音は観念したのかそう言って腕から力を抜いて、ほっとしたと思ったら、今度は二人して僕の両側に並んで片方ずつ腕を掴まれた。
「……あのーお姉さま方?」
 僕の身長が一番低いから、両側から腕を取られるとまるで連行される犯人だか、宇宙人のような図になってしまう。
「腕が、腕が死ぬーっ」
 二人に引きずられて、追いつかなかった足がずるずると地面を擦り、両腕に重さがかかって脇やら肘やらビキビキときしむ音がして二人に離してくれと訴えてみる。
 右手と左手とに、双方違う感触があって片方だけは柔らかいが、そんなことを思う暇すら与えられない。
「あ、ごっめーん冬樹、大丈夫?」
「ごめんねぇ……痛かった?
 秋音が離してくれないからだよね」
 さらっと妹のせいにして僕の頬に手を伸ばそうとする夏海。
「夏姉……、夏姉のせいでもあるだろ」
 夏海の手を避けるようにして後ずさりして、二人からとりあえず距離を取る。
「夏姉さんが必要以上に冬樹に構うから」
「だぁってぇ、秋音が冬樹を独り占めしようとするから」
 いったい道端で何の会話をしてるんだ、と思いながら二人を後にして歩き、家のドアを開けてさっさと中に入る。
 何で僕よりも姉の方が怪力なんだろう、海外の父に付い行ってる母の遺伝子だろうか。
 とりあえず少し寝ようと、部屋に入った途端にぐったりと肩を落としてしまった。
「……疲れた……」
 携帯のアラームを三時間後にセットして、窮屈な制服を脱ぎ捨てると、Tシャツとジーンズに着替えてベッドに寝転がる。
 目を閉じてベッドに身体を預け、部屋のドア閉めたかなと思い出したが、腕がもう上がるのを拒否しているのでそのまま眠ることにした。
 意識が落ちる寸前、柔らかい毛に宥めるように撫でられたような気がしたが、それが何かと思う前に眠り込んでしまった。
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