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ゴールデンとシェパード
しおりを挟む学校帰りに秋音と一緒になり、歩き足りないとばかりに秋音が僕を引っ張って、建築予定地の空き地へと向かって歩いている。
この空き地は建設予定の札が立ってからも随分とそのままで、今では空き地が原っぱのようになっている。
膝までの草が緑色に埋め尽くし、所々にクローバーや何かよく分からない雑草地が点在していて、子供の遊び場としては最適な場所だった。
昔、膝までの草よりもクローバーやらが多かった頃には、姉たちに連れられてよくここに来ていたのを思い出す。
クローバーの白い花で花冠を作る夏海や、四葉を探す僕と秋音、危ないことをしないように見張り役の春香姉。
「懐かしいなぁ……。
秋姉、ここに来るのも久しぶりだよね」
「うん。
ここで冬樹が怪我してから来なくなったもんね」
あれ?
怪我って──覚えてないぞ。
「怪我っていつ、どんな?」
身体を見回しても、酷い怪我の痕は見当たらない。
大体記憶にないんだから、訳が分からない。
「いつだったかなぁ、ガラスの割れたのが落ちてて、それで手を切ったんじゃなかったかな……。
冬樹の手が真っ赤になってたのを覚えてる。
なのに冬樹ったら泣かなくて、大丈夫だよって言ってたのよね。
私たち皆、それ見て泣いて──。
それからここに来ちゃダメって春香姉さんが言ったんだったかなー」
──まったく覚えてない。
両手を見ても傷の痕は薄っすらとも見えなくて、首を傾げる。
「怪我って結局どのくらいの?」
秋音に思い出してもらおうとすると、いきなり笑い出されてしまった。
「それがさぁ、思い出したんだけど、ほんのちょっとの切り傷で、あのいっぱい出てた血は何だったんだーって感じ」
うん、そうだろうね。
だって傷の痕なんかまったく見つからないし。
「ひょっとして汗か何かでちょっと出た血が広がってただけとか」
「ああ、雨の後だったから水溜りとかもあったかもねー」
それで酷い怪我に見えたのか。
それから行っちゃだめって……僕って過保護にされてたんだなぁ。
「それなら海で秋姉が貝がら踏んで、足を怪我した時の方が酷い怪我だったんじゃない
か?
あの時は傷を縫ったよね?」
でも、あの時は父さんたちが一緒だったから、対応が違うのかな?
子供たちだけで遊びに行って、の怪我と。
両親と一緒に行って、の怪我との差?
「そういえばそうだよねぇ。
あの時は──そうだよ、病院で何針か縫われたし。
麻酔無しの方が早く治るとかで痛かったなー……
抜糸も麻酔無しだったしさー」
医者で傷を縫われた秋音の足には今でも少し痕が残っている。
足の裏だから、本人もまったく気にはしてないけど、それでも残るような傷だったのにやっぱり変だよなと考える。
「春香姉さんは長女の責任感があったからかもよ、冬樹の事は昔から可愛がってたし」
「えっ?」
春香姉……さんにはちょっと苛められたって記憶しかないんだけどなぁ。
いつ可愛がってもらってたんだろうか。
「あの時も、冬樹の傷は自分のせいだって、結構気にしてたし」
ひょっとして、構ってくれてるのに、僕はずっと苛められてると思ってたんだろうか?
後から首を絞められて落ちかけたのなんて何度もある。
あれが可愛がってたのなら……後から抱き締めてたって事か?
──だとすれば、春香姉の愛情表現は過激すぎる。
姉妹揃ってバカ力なんだから加減してくれないと!
「そっか……可愛がってくれてたんだ……」
ぽつりと呟いたら、それを聞いていた秋音がにっこりと笑う。
「なんてったって、春香姉さんは一番上のしっかり者長女で、冬樹は末っ子だからねー」
そういえばよく、ほかの二人にはナイショだからね、とかお小遣いでお菓子を買ってもらったこともあったなぁ……。
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