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夏休みは海へ──後編――2
しおりを挟む「おーっ、すごいな」
中に入ると、大きなダイニングキッチンがあり、トイレが二つ、玄関横と奥とにあった。
玄関に近い部屋が僕と東堂の部屋らしく、荷物を置いてあちこちと見て回ると、洗面所も二つあった。
部屋から庭に出られて、バーベキューのコーナーなのか、机や椅子と、バーベキューコンロがあって、そこから海が見えて、ちょっと感動すら覚えた。
『冬樹、ここはすごいな』
てっきりコテージの広さの事だと思って虎を振り返ると、虎の周りに僕たち以外の、見知らぬヒトたちがいて、虎の背中を撫でたりしていた。
「……虎……」
よく見ると、猫じゃらしのような物を振ってる人もいたりして、幽霊なのにちょっとほのぼのさせられてしまった。
「……ま、いっか」
猫好きに悪い人は居ない、というのが我が家の持論だが、幽霊もそうだろう、なんて思いながら、庭の垣根から海を眺める。
「おーい、冬樹―!
まだ着替えてないのかよ、もう皆準備出来てるぞー」
ぼんやりと海を眺めていたら、東堂に声をかけられて、慌てて水着に着替えに戻る。
「海だー!」
シンプルな型のブルーのワンピース水着で、準備運動もそこそこに、秋音が砂浜を蹴散らして波打ち際へと走っていく。
「この辺りがいいかなぁ、冬樹手伝って」
波打ち際より少し離れた場所にビニールシートを広げる夏海。
夏海のストライプの柄の入った青いビキニはかなり目の毒で、東堂がそのビキニに見惚れて砂に躓いて転んでいたのは、ついさっきの事。
ビニールシートの場所に影が出来るように、ビーチパラソルを立てる。
ビーチパラソルの角度を調整しながら、ちらりと後ろを振り返ると、可愛いピンクのフリルのついたセパレートの水着──そう、決してビキニではない委員長と、胸元が大きくVの字になった黒にハイビスカスか何かの花が描かれたワンピース水着の紫藤さんが歩いていた。
見ていたことが知られる前に顔を戻して、シートに持ってきた荷物を置いて重しにする。
「城見くん、飲み物のクーラーバッグここに置くね」
「ありがとう、重くなかった?」
「ううん、大丈夫よ、このくらい」
委員長がビニールシートにクーラーバッグを置く。
つい、委員長の方を見ると、水着の谷間が見えてしまって、目のやり場にとても困ってしまった。
多分、僕が意識しすぎなんだろう。
「ねぇ、もうパラソルはいいんでしょ、ビーチバレーでもしない?」
紫藤さんがビーチボールを膨らませながら言う。
その足元には自分で歩いてきた虎が居る。
『ちょっと砂が熱いな』
文句をいいながら、自分のはどれだというようにビニールシートの上に乗り、僕を見上げる。
「僕はまだいいよ、姉さんたちとどう?」
紫藤さんに言い、虎の為のビニールマットを取り出して膨らませていく。
猫一匹用にしてはちょっと大きいそれは、膨らませてしまうとぜえぜえと息が切れた。
「と……虎、これがお前用の、だ……」
ビニールマットの頭の辺りに付いていた紐を虎に差し出して、そのままぱたりとビニールシートにうつ伏せで寝転んでしまう。
砂がちょっと熱いけど、疲れた……。
ビーチパラソルの下で少し眠ってしまっていたらしく、誰かに何か話しかけられているのだが、身体が重くて起き上がれなかった。
『……………』
何だろう、聞き取れないよ。
それに、まだちょっと眠い。
風が気持ちいいし、もう少し寝かせておいて欲しい。
『……い……、ね……い…………』
だからー、聞こえないってば!
『……お願い』
「えっ?」
耳元で何か言われた気がして、あわてて飛び起きる。
「……あれ……僕、寝てた?」
ぼんやりと辺りを見渡すと、僕の目の前に正座をした女のヒトが居た。
多分──コテージにいた幽霊の一人。
しっかりと目が合ってしまったので、今更視えない振りも出来ない。
それに、こんな真昼間の日向に出てくるんだ、用でもなけりゃ来ないだろう。
「えーと、僕に何か用、かな?」
『お願いがあります』
「……何も出来ないし、力にはなれないと思うけど」
『いえ、あなたに何かをして欲しいってお願いじゃありません。
ただ……あの猫ちゃんを、私たちにいただけませんか?』
「へ?」
『あの猫ちゃんがいると、私たちとても心が安らぐんです。
ひょっとしたら、恨みつらみとか、そういったしがらみも、みんな忘れて癒され、成仏できるかも知れません』
ああ、コテージで霊たちが虎を囲んで撫で回してたなぁ……と思い出してから、緩く頭を振る。
当然、NOだ。
「悪いけど、虎は僕のかけがえの無い、大事な家族なんだ。
置いていくことは出来ない」
『そう……ですか、ダメですか?
どうしても、ダメですか?』
「……ごめん」
目の前でふるふると身体を震わせてぽろぽろと泣く女性──幽霊だけど──を見て、心が痛むが、このお願いだけは聞けない。
でも、僕には何も出来ないし、何か気の聞くような言葉も出なかった。
ふらりと立ち上がってすーっと離れていく女性の姿に、何か出来ればとは思うものの、それは僕にはムリだと分かっていた。
『冬樹』
虎がビニールマットの紐を口にくわえて引張り、近くに来ていた。
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