虎と僕

碧島 唯

文字の大きさ
上 下
18 / 39

ある日の虎と僕

しおりを挟む

「虎、背中が痛い……」
『……サンオイルとか、日焼け止めを塗らなかったようだな』
「ううっ……、だってTシャツも着てたし、そんなに焼けるとは思ってなかったんだよぉ……」
 皆で海に行った旅行の後、僕は日焼けで背中やら腕やらがヒリヒリと熱くて痛くて、虎に泣き言を言っていた。
「虎はいいなぁ……こんな日焼けとかしなくて」
『しかし、その代わりに暑いのは人以上だと思うぞ』
 まぁ、毛皮だもんね、それはそうかも。
 でも、虎以外に愚痴を言う相手もいないので、上半身に何も着ずに、ベッドにうつ伏せでごろごろしていた。
『日焼けローションとかいうのを夏海が帰りに買ってきてくれるって言ってただろ。大学から帰って来るまで我慢しろ』
「うう……早く帰って来ないかなぁ……夏姉」
『冬樹、少し黙れ』
 何だか濡れた布がべしゃっと背中に放り投げられて、手に取ると濡らしたタオルだと分
かる。
「虎……タオルびしゃびしゃ……」
『贅沢言うな、この手でタオルが絞れるか』
 少し怒ったような虎の声がして、部屋から出て行く音がした。
 うん、でも虎……優しいよね。
 タオルありがとう。
 ……できればもう少し絞れれば、シーツが濡れなかったんだけどな……。
 背中のタオルが冷たくて、火照りが抑えられるのかいつの間にか眠ってしまっていた。

 夢の中で、誰かが水で絞ったタオルを背中に乗せ換えてくれて、頭を撫でてくれたような気がした。
 起きた時には、タオルはすっかり乾いていて。
 夢の事が本当だったのか、それともただの夢で、暑いからタオルが乾いたのかは、分からなかった。
しおりを挟む

処理中です...