虎と僕

碧島 唯

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 虎――2

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 虎はもう結構な年のはずなんだが、体重は猫の標準より少し軽めで、目の色の茶は光の加減で金色に見える。少し濃い、トラ縞の模様が普通のトラ縞より虎っぽいのが珍しいかも知れない。
 もちろん、血統書とかの種類ではない──はずだ。
 いくらなんでも血統書付きの子猫を捨てる人なんていないだろうし、僕も調べてない。
 女の子に抱かれるのが大好きで、毎日の散歩コースには僕らが通っている高校が入っていて、たまに帰宅する時に、女の子たちに可愛いとか言われながら抱かれているのを見かけることがある。
 そんな時は、虎に無視されるので、僕もうちの猫ですとは声をかけずに通り過ぎることにしている。
 高校の他にもあちこち行っているらしいが、ノミ避け首輪や薬も付けてるということでノミを連れ帰って来る心配だけはない。
 ノミはないがたまに前足に、リボンや花のついたゴムとかを着けて、帰って来ることがあって、貢物さなんて言って見せてくれたりする。
 そんな虎も公園と小学校、幼稚園などの子供のいる場所は避けて通ってるらしい。
 昔、まだ虎が話すことが出来なかった頃に、子供に追いかけられて尻尾や耳を引っ張られて逃げ回った経験からだそうだ。
 だから子供の多そうな場所には、姉や僕が一緒でも虎は行きたがらない。

 抱っこされるのに飽きたのか、虎が秋音の腕から床に降りて水入れの所に行こうとしてた。
「はぁ~、今日も虎ちゃんふかふかだった~」
 秋音も虎の毛皮を堪能したのか、さっきまで虎を抱いていた胸元で手をわきわきと動かして満足気に笑っていた。
 たしたし、と音がするので見てみると、虎が床を前足で叩いていた。
『冬樹、水が無いんだが』
「きゃー可愛いっ、床叩いてにゃーだって」
 虎の水を要求している仕草に秋音が騒いでいる。
 まぁ、確かに普段あまりしない仕草かも。
「はいはい、ちょっと待ってろ」
『冷蔵庫に冷たい水あったよな、今日はそれがいいなぁ』
 ……贅沢者め、あれはイタリアのちょっと高い水だ。
 自分が飲むフリをして水を取り出して、そのついでにという素振りで何気なく見えるように虎の水入れにイタリアの水を注ぐ。
『少しでいいぞ、おっと、もういい』
 水入れにほんの数ミリ、そのヒンヤリとした水をぴちゃぴちゃと虎が舐めている。
『うーん、やっぱり冷たいのはいいねぇ』
 冷たさを味わうようにして舐めている虎を眺めながら、その余り──というにはほとんど減ってないが──の水にキャップをして冷蔵庫に戻す。
 冷蔵庫を閉めていると階段を上る音がして、秋音が部屋に行ったのがわかった。
「なぁ虎……、これってイタリアのミネラルウォーターとかだけど、猫が飲んでも平気なのか?」
 硬水とかって、猫がお腹壊したりしないんだろうか。
『知らんな。
 それに少しくらいは大丈夫だろう、今は冷えたのが欲しかったんだよ』
「なぁ、いつもの水入れとくか?」
『いや、いい。
 欲しい時は言う』
 床にぺたりと座り込むと、何かを察したのか虎が僕の腿に前足をかけて見上げてくる。
『何かあったか?』
 そうなんだよな、こいつ……いつの間にか僕より大きくなって、今じゃあすっかり年上のオヤジなんだもんなぁ。
 ……察しがいいというか、僕が何か悩んでたり、考え事してるとこうやって聞いてくれる。
「いや、たいしたことじゃないんだけどさ」
 かまわん、と頷く虎。
 そして、僕は数日前にあった事を思い出す。
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