28 / 39
喫茶店の美味しいコーヒー
しおりを挟む天気のいい日曜日、フリーマーケットに行くよと秋音と夏海に(ようするに、帰りの荷物持ち兼、荷物番)海の近くの会場へと、連れられて行くという事に、僕の知らない間に決まっていた。
開場前なのにかなりたくさんの人が並んでいて、びっくりしていたら、そっちの列じゃないと手を引っ張られる。
さっき見た列よりこじんまりとした列があって、並んでいるのは皆ショッピングカートや大きいカバンを持っているのが見て取れた。
「入場までまだ時間があるからお茶でも飲もうか」
腕時計を見るとまだ十時になるかならないかで、返事を待たずに夏海と秋音がすたすたと喫茶店を目指して歩いていた。
夏海と秋音はこんな時のチームワークはとてもいい。
後から少し離れて見ると、夏海はピンクのノースリーブのワンピースに肩にレースみたいなスカーフみたいなのがかかっていて、秋音は両肩が出て胸の上から腹巻みたいな……なんていうんだろう、携帯で画像検索してみるとチューブトップと出てきた。
へぇ、そういう名前なんだ、それにGパンで、こうしてみるとまったく系統の違う服装で、それは二人の性格の違いを現してるみたいだった。
一人残された僕に気付いたのか、夏海と秋音が手を振って、数メートル先で待ってくれているのに慌てて走り出す。
「人が多いんだからぼーっとしてちゃだめじゃない」
「ああ、気をつける。
さっきのすごい列って何?
あれもフリーマーケットじゃないの?」
僕が言うと夏見がチラシを眺めてこれかな、と指を差す。
「なんかね、ライブらしいねぇ。
あれ、違うかな?」
チラシを貸してもらって注意事項として書かれているのを読んでみる。
【近くでは別のイベントも開催されていますので間違わないよう気をつけてください。尚、別のイベントは大変人数が多く混雑が予想されますので、お帰りの際には、切符を事前に購入しておくとよいでしょう】
「イベント、としか書いてないみたいだな。
夏姉、なんでライブって思ったんだ?」
何故ライブだと思ったのか聞こうと顔を上げるとちょうどなんとかちゃんラブとかなんとかちゃん親衛隊とかハートマークが大きく背中に書かれたピンクのハッピの男の集団が目に入った。
「……ああ、分かった。
アイドルか何かのライブなんだろうなぁ」
よくよく見ると、紙袋からはみ出たウチワらしきものや、ペンライトを握り締めている人が大勢列に並んでいた。
「……すごいねー」
漸く秋音が口にしたのは列の長さか、並んでいる人たちの格好なのかは分からなかった。
「フリーマーケットの方はのんびりしてていいの?」
喫茶店の入り口で聞いてみる。
「十一時開場だからねぇ、早く来過ぎたのよ。
モーニングまだやってるみたいだから食べる?」
「あ、うん」
店の隅にあつた四人掛けの席に座り、三人ともモーニングのホットコーヒーを頼む。
奥の椅子に夏海が座り、秋音がその横、僕が秋音の前だ。
コーヒーが自慢らしく、いい匂いがする。
「あ」
カウンターの奥にあった水出しコーヒーの装置に思わず声が出た。
「うわぁ、アイスコーヒーにすればよかった」
「今からでも大丈夫じゃない?」
迷っていると、注文のモーニングの皿が先に来て、厚切りトーストとミニサラダがテーブルに乗せられる。
「あの、ホットをアイスにってまだいけますか?
あの水出しコーヒーの装置見たら飲みたくなっちゃって」
おそるおそる、白いフリルのついたエプロンをした店員さんに聞いてみると、にっこり笑って、いいですよ、と言ってくれたので、それに甘えることにした。
そして、ホットコーヒーが二つ、遅れてアイスコーヒーが一つテーブルに来る頃には僕のトーストはすっかりお腹の中に消えてしまっていた。
「ん~っ、美味しいっ」
水出しのアイスコーヒーは、香りも、味も最高だった。
舌触りのまろやかなアイスコーヒーには酸味も苦味もなく、時間をかけて抽出した水出しだからこその旨みと香りで、なのにどうして日曜だというのに客が少ないんだろう? と周りを見渡してみる。
シックなこげ茶纏められたテーブルと椅子、緑が綺麗な観葉植物もあちこちにあって、音楽も流行のアイドルとかじゃなく、クラシックだろうか、僕には分からないけど落ち着いた曲が流れていた。
まさに癒しの空間を実現したような店内。
「こんなに美味しいのになぁ」
エプロンの店員さんも可愛い女の人で、店のマスターも、こう、年配の落ち着いた渋い雰囲気を出していて、がんこ親父の店だから足が遠のくという感じはしない。
どちらかといえば、馴染みの常連さんがいつも何人か居るといった店内こそが、この店には似合いそうな……。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる