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七つの厄災【悲哀編】:悲しみは積み重なるものらしいですよ

はじめてのパートナーらしいですよ

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 目を開けたら眼の前におっぱいがあったので、わしづかみにしてみた。

「うひゃあぁ!?」

 おっぱいがエウリュアの声で悲鳴をあげる。

「目を覚ましていきなり何するのよ!」

 なんて言って怒っているが睨んでる顔も可愛い。ベッドの反対側にはメディがいてエウリュアから本を受け取っていた。あれ?なんで俺ここにいるんだ。

「ここは・・・?エウリュア?メディ?」

「あ、お兄ちゃん、やっと気付いたみたいね。回復魔法が間に合って良かった」

「本当に、心配したんだから――ノゾムがいなくなっちゃったら、私――」

 エウリュアが抱きついてきた。俺の体の傷は全て塞がっていた。少しだるさを感じる。

「心配かけてごめんなエウリュア。回復ありがとうメディ」

「お姉ちゃん。約束守ってずっと待っていたんだよ」

「パンドラって人が家に訪ねて来て、洞窟の近くの森にノゾムが倒れているから助けて欲しいって。――約束破ってごめんね」

 エウリュアが謝る。パンドラが危険を冒して知らせてくれたのか。

「俺が先に約束破ったんだ。無事に帰ってくるって言ったのにな。ごめんなエウリュア」

「はいはい、イチャイチャするのは後にしてね。一体何が起きたら洞窟が埋まって森に広場ができるのか教えてもらえる?」

 メディめ、いい雰囲気になっていたのに邪魔しやがって。たぶん、辺境伯の次の動きを気にしているんだろう。俺は、洞窟と森であったことをざっくり説明した。

「七つの厄災。そんなモノがこの世界にいたなんて――」

「辺境伯も息子夫婦とお孫さんを殺されて――郊外の人を犯人だと吹き込まれたのね。郊外を一掃しようとしていたのも全部。父さんがそれを邪魔したから――」

 メディは話の大きさに戸惑っているようだ。エウリュアは辺境伯の話を聞いて複雑な顔をしている。

「なぁメディ、この話うまいこと辺境伯に伝えられないかな」

「お兄ちゃんも物好きだね。冒険者ギルドのギルドマスターと相談してみるよ」

「あー、クリスを使うのね。了解。任せた」

 多分ギルドマスターと相談しているのを、クリスから辺境伯に知らせるつもりなんだろう。利用されていたことを知ったら辺境伯も変わるかも知れない。

「じゃあ、お邪魔しちゃ悪いからさっさと相談してくるね。お姉ちゃん、お兄ちゃんは傷がふさがっただけでまだ回復しきってないから無理させちゃ駄目だよ?」

「ちょっとメディ? どういう意味よ?」

「さあ? じゃあ、お兄ちゃん行ってきますー」

 エウリュアの抗議の声も虚しく、メディはとっとと出かけてしまった。

「遅くなったけど――ただいま」

「無事ってわけじゃなかったけど、帰ってきてくれてよかった」

 エウリュアが振り向き俺をを見つめてくる。

「俺もまた会えて嬉しいよ」

「馬鹿――それじゃあ、会えないと思ってたってことじゃない」

 俺とエウリュアが抱き合おうとしたとき、二人の間に箱が飛び出してきた。

「マスターの信頼を確認。Program Rheaプログラム レアーを実行します」

 箱が輝いて告げると、大量のデータが俺の脳みそにインプットされる。

「くっそ邪魔すんな――。へぇ――そんなこともできるのか」

「何、この箱? どういうこと?」

「なぁ、エウリュア。俺のパートナーになってくれるか?」

「ちょっとノゾム? いきなり何言ってるのよ」

 エウリュアが真っ赤になって困りだした。あ、ちょっとニヤニヤしてる。おいおい魔道具、いったいどんな変換したんだ?

【プログラム レアー パートナーシステム】
 箱の主人が信頼を寄せる相手をパートナーとして登録し箱の力の一部を貸し与える。
 小箱の貸与。箱内のアイテムの共有。箱を通した念話機能。位置情報の共有――など。

 小箱ってのは、箱からアイテム取り出したりするときにつかう電話の子機みたいなものらしい。もしくは猫型ロボットのアニメにでてきたスペアポケットか。ただし、形は――。

「なんだ――残念」

「何が残念なんだ?」

「なんでもないわよ!」

 エウリュアが不機嫌そうにしている。

「これでずっと一緒だな」

「え? そっか。ずっと一緒にいられるね」

 俺がフォローすると不機嫌そうな顔が、にこにことご機嫌にかわった。ほっぺた真っ赤っ赤だ。

「じゃあ、俺の『宣言』のあとに『誓う』と言ってくれな。『我、汝を心から信頼しともに歩むことを誓う。汝は如何や?』」

「ち……ちちちちちちちち――誓います!!」

 結婚の誓いの言葉みたいだ。同じことを思ったのか、真っ赤になったエウリュアが叫びながら誓ってくれた。

「パートナー登録完了。小箱生成。パートナーの証としてエウリュアに小箱を貸与します」

 箱が落ちて中から一つの指輪でてきた。リングには小さな箱型の蒼い宝石が埋め込まれている。――そう、小箱の形はある程度、俺が決められるんだ。
 俺はそれを拾いエウリュアの指にはめた。――もちろん左手の薬指だ。

「へぇー、これの指輪が小箱なの? あっ、頭に。――なるほど、そうやってつかうのね」

 エウリュアが指輪を見ながらニコニコしている。あれ? 反応薄いな。左手の薬指なんだからもっと喜んでくれるかと思ったのに。

「なぁ、こっちでは結婚のときに指輪をあげたりしないのか?」

「特にないけど――結婚!? え? これ、そういう意味なの?」

 あ、指輪を贈る習慣がないのね。

「俺の世界じゃ、左手の薬指に指輪をはめるのは結婚か婚約の意味だ。エウリュアが嫌じゃなかったら――受け取ってくれると嬉しい」

 恥ずかしかったがここは男らしく言い切った。俺の気持ちに嘘はない。

「ノゾムありがとう――こちらこそ、よろしくね」

 俺はエウリュアを抱きしめて、誓いのキスをした。

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