箱の中身は最後の希望らしいですよ

いのうえもろ

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七つの厄災【不安編】:不安は心配からくるらしいですよ

邪神嘲笑

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「ご挨拶が済んだばかりですが、私も忙しい身。早々に死んでくださいね」

「『デ・モイラ・ギ・マギア』!」

 モイラさんが呪文を叫ぶと、たくさんの魔法陣が一気に浮かび上がり、不安の厄災が飛ばした血の弾丸が、俺達の前に現れた魔法陣を五つ砕いて消える。さっきは防げなかった血の攻撃を、儀式魔術セレモウニアルで作った障壁が防いだようだ。

「予め構築してある複数の儀式魔術セレモウニアルを一つのスクリプトで一気に展開する。面白い技術です。ですが――」

「お母さん! 一気に魔力を使いすぎだよ!」

 モイラさんが肩で息をしていて、メディが心配して声をかける。

「一気に展開する分、魔力も大量に消費されてしまうようですね。デルフィニアとの戦闘で弱った体には少々キツイのではないですか? 魔力がほぼ空ですよ?」

 不安の厄災はそう言ったあと、エウリュア、メディ、そして俺へと目を移す。

「一番弱っているのはモイラ=レー。体力は減っていないがメディ=レーが一番少なく、次にエウリュア=レー。――落人殿の情報は見られませんね」

 何言ってるんだ、こいつ。――嫌な予感が俺の背中に冷や汗を落とす。

「このデルフィニアの持つ緋色の魔眼は便利ですね。相手の体力と魔力、それに使用可能なスクリプトが一覧で見えるとは――」

 予感的中。つまり、ステータスが見えるってことだ。 

「魔法陣の残り効果時間も見えるようですね。三・二・一、はい、二枚の魔法障壁が時間切れ」

 次の瞬間、血の弾丸がモイラさん、エウリュア、メディ――そして俺の胸を貫いた。五枚でやっと防いだ血の攻撃は、三枚じゃ当然防げない。モイラさん達が遺跡でやられてたのもあの目が原因か。

「複数の障壁をタイミングをずらして構築。そして、障壁の再構築まで〇・五秒。ほんの僅かですが守りが弱くなる瞬間がある」

 モイラさんの意識が途切れたようで、展開された魔法陣が消える。エウリュアとメディは動かない。

「ふむ、落人君はまだ意識があるようですね。ステータスが見えない分、予測ができません。さっさと殺してしまいましょう」

強回復エクスヒール……」

 メディが回復魔法をかけてくれて、即座にその場から転がって避ける。俺の頭と胸が在ったあたりの床が深く抉られる。そのまま、不安の厄災を右手に駆け抜けると、後を追うように穴が空く。

「意外とすばしっこいですね。FPSというのですか? それをやっている気分です」

「――! だったら、こいつを食らいやがれ」

 箱から滅魔封神の矢を取り出して――手で射つ。いくつか障壁が在ったようでパリンパリンと薄いガラスを割るような音が鳴る。不幸の災厄は魔法が効かないとわかると、手のひらで受け止める。手のひらで俺達の姿が見えなくなった瞬間――

「弓技、旋回穿矢スピンニングアロー!!」

 エウリュアが滅魔封神の弓と矢で、弓スキルを使う。矢は不安の厄災の手と目を貫き、頭を吹き飛ばす。派手に血を吹き出してデルフィニアの手がだらりと下る。エウリュアがメディとモイラさんに回復魔法をかけていく。とりあえず皆、気がついたみたいだ。
 モイラさんがスクリプトを使わず、ゆっくりと魔法陣を展開していく。まだ、戦いが終わったわけじゃない。なぜなら、吹き出した血が空中に留まって球になっているからだ。

「ワレノカラダガ……オノレ……オノレ、ユゥルサンゾォォォォ」

 地の底から響く怨嗟の声。不幸の厄災は空中で広がったり縮んだりを繰り返している。ふいに――その動きが止んだ。

「気をつけろ! なにか来るぞ!」

 叫んだ俺の頬をかすめて、血のロープが床に刺さる。血溜まりからいくつものロープが壁に床に、所構わず差し込まれている。
 床についたロープが外れ、壁に刺さる。壁の下の方に刺さったロープが外れ、高いところに張り直される。低いところのロープが高いところに張り直され、その度に血溜まりが登っていく。

「地上に出る気なのか?」

 ロープが刺さったせいで脆くなった壁が崩れてくる。

「ノゾム君、転移するからこっちきて!」

 モイラさんが俺を呼び、駆けつけた瞬間、目の前景色が入れ替わる。佇むエイレーネさんと倒れて動かなくなったゾンビが見える。ゴゴゴゴと地の底から地鳴りが響く。

「エイレーネさん! そこから離れて! 奴が来ます!」

「青年! モイラ!無事だったか! うぉ!」

 足元が揺れ、城が崩れる。形を失った城の真ん中から血が溢れ出した。明らかに量が増えている。
 城を作っていた石レンガが血に溶け、新しい血に変わっていく。城が喰われていく。
 いつの間にか空に浮かぶ三日月に照らされ、真っ赤な血がキラキラと煌めく。巨大な血のシルエットが美しい光と影のコントラストを生み出している。ぽっかりと空いた二つの穴は――目か?
 
「血のスライム?」

 冒険者を引き連れて戻ってきたシーマさんが、震えた声でつぶやいた。
 血のスライムが巨大な口を開き、夜の月に叫ぶ。

「あんなの、どうすりゃいいんだよ」

 冒険者の一人が愚痴る。俺も全く同じ意見だ。

「ハァァァァ!」

 エイレーネさんが、巨大な手斧を投擲する。手斧は血しぶきをあがて突き刺さり、ズブズブと飲み込まれていく。効いている様子は――ない。

「物理攻撃は効かんようだ」

 冒険者が集まっている場所にエイレーネさんが来て報告する。冒険者ギルドのギルドマスター、アエティオスが声をかける。

「エイレーネ殿、シーマの件ありがとうございます」

 エイレーネさんが頷くと、スライムに向き直って冒険者へ指示をだす。

「魔法が使える者は前へ! 一斉にいくぞ!」

 アエティオスの指示に合わせて、冒険者達が魔法を放つ。炎の矢や氷の短槍、水や土でできた槍が飛んでいく。血の一部が蒸発し、凍るが、水は血と混じり、土は溶けて飲み込まれる。

「水と土は駄目だ! 光と闇が使える者はいるか!?」

「はいっ!」「うむっ!」

 輝くの矢と闇色の矢がスライムに飛んでいく。光りに血が貫かれ、闇が血を侵食する。

「火と氷、光と闇が有効だ! 魔力があるだけ叩っこめ!」

 いくつもの魔法がスライムに撃ち込まれる。スライムはその体積を減らし、少しずつ縮んでいるように見える。

「いける! いけるぞ! がっ――」

 飛んできた血の砲弾が冒険者を地面にめり込ませる。巨大な雨粒のような血の砲弾が、冒険者と――街に振り注ぐ。血でできた砲弾は自分の体で作っているようで、スライムが少し小さくなるが、城を食って体を維持しているようで、すぐ元に戻る。

「駄目だ! 魔法で減らすより回りを取り込む方が早い!」

「誰か、マジックポーションを」
 
 メディが叫び、アエティオスがモイラさんにマジックポーションを渡す。ガラスの瓶の蓋を開け、モイラさんが一気に中身を飲み干す。

「――っとに苦いから嫌いなんだけど、そうも言ってられないからね」

 少し口調が荒れたモイラさんが立ち上がると、スライムを取り囲むように無数の魔法陣が展開される。次の瞬間――爆音と共に辺りが熱を帯び、血が蒸発して消えていく。爆心地に人影が――デルフィニアか?
 離れていても届く燃えるような熱さが消え、爆心地には地下へ続いていると思われる巨大な穴が開いている。スライムの姿は――ない。

「やったぞ!」「うぉぉぉ!」

 冒険者達からいくつも声があがる。やばいな――フラグって言うんじゃなかったか? それ。

「うあああぁぁぁぁ!」 

 血の砲弾を受け気絶していた冒険者が悲鳴をあげる。振り向くと一人の男が血に包まれていた。

「全く、俺としたことが取り乱してしまうとは――」

 血煙を上げて男の服が赤いタキシードに変わる。フラグ回収だ。

「さあ! 第三ラウンド始めようか!」

 元の男の声、元の男の口調で不安の厄災がニヤリと笑った。
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