もう好きではないのかもしれない

風枝ちよ

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もう好きではないのかもしれない

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もう好きではないのかもしれない、と思った。
僕は君のことを、好きではなくなってしまったのかもしれない。
もしかすると、去年の今頃には好きという気持ちは薄れていたのかもしれない、それを今までずっと見ないふりして引き伸ばしていたのかも。
僕はきっと認めるのが怖かったのだ。
君を好きではないと、認めることが。

君は僕の生きる理由だった。
僕は君に会うために学校に行っていたし、生徒会に入ったのも、放課後残って勉強していたのも、ボランティアに行ったのも、全部。
君と話をして、僕の言葉で君が笑ってくれたらいいなと思っていた。
毎日馬鹿なことを言って、それで君が笑ってくれていたら、僕はそれでよかった。
それが僕の全てで、生きる意味だった。

好きでいた頃は、大学に上がればこんな気持ちは消えるだろうと思っていた、消えて欲しかった。
実際その通りになってみると、この空虚感は何なのだろう。
ありきたりな言い方をすれば、胸に穴が空いたような、心の大事な部分が抜け落ちたような。
この気持ちをどうしたらいいのだろう、僕は何のために生きているのだろう。

僕はずっと死にたかった。
生の理由がわからなかった、僕の人生に意味などないと思っていた。
君がいたから僕はこれまで、今まで生きてこれたのだ。
君がいたから僕は死ななかったのだ。
君は僕を救ってくれていたのだ。
君が変わったのでなく、僕の方が変わってしまったんだ。
もう好きじゃないのかもしれない、と思った時、す、と心の中に入ってきて、妙に納得してしまった。

そうか。もう好きではないのか。

僕は君のことが好きだった。
大好きだった。
それは紛れもなく恋だった。
僕と君が同性で、君が異性愛者だったとしても。

大学に入って会う日が少なくなって、たまに会ってもちょっと感覚がズレていたりして、高校の頃みたいにちゃんと面白いこと言えてるかな、って不安になったりして、笑ってくれてることにホッとしたりして。

僕は今でも、君のことを好きなのかもしれない。

ただ、僕は変わってしまったのだ。
あの頃みたいに、自分の全てを犠牲にしてでも君に全てを捧げられるような、そんな情熱は消えてしまった。
情熱を恋と呼ぶのなら、僕の今の気持ちは恋とは呼べないだろう。

あの日、卒業式の日、僕が君に告白できていたら、今は変わっていたのだろうか、と考える。
もし、好きだと言えていたなら、僕は今でも君のことを好きだっただろうか?
困惑させただろうか。
拒絶されていただろうか。
これでよかったのだと、僕は過去を肯定することしかできない。
そうやって過去を肯定してあげることでしか、過去の自分は救済されない。
高校生の僕はいつか救われるだろうか。
時間が解決してくれるというのはいつか忘れるって意味だろうか。
妄想を抱いて寝ていた僕はいつか救われるのかな。
苦しくて泣いている僕はいつかちゃんとまっすぐ生きていけるのかな。
いつかは救われる日が来るのかな。

気づいたら好きになっていた恋なのだから、気づいたら終わっているぐらいが丁度いいのかもしれない。
現実はドラマチックでもロマンチックでもなく、劇的な出会いや盛大な失恋もなく、ふと始まって、それと気づいたときにはもう終わっているのだ。

今までもそうだったじゃないか。
今更何をぐちぐちと呟いているのだ。
まるで未練があるみたいだ、まるで。
まるで、まだ好きみたいじゃないか。

僕はまだ、君のことが好きなのかな。

僕はまだ君に縋ってもいいのかな。
迷惑かな。

また一緒で笑えるかな。
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