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9 友人3人に一夜の出来事を報告することになった
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自宅のドアを開けると、アユトが興奮した様子で立っていた。
「おはよう、ユキ! 朝ごはん買いすぎちゃったからお裾分けにきたよ!」
「……おはよう、アユト」
笑顔で、ずい、と差し出された袋を受けとる。
「ありがとう、わざわざいいのに。あー……昨日の感想、聞きに来たんだよな?」
「えっ、あ……なんでっ?」
ドアを開いて、玄関を示す。そこにはすでに無造作に脱ぎ捨てられたスニーカーと、きっちり揃えられた革靴とがある。
「ええっ、リュウ、ケンタっ、何してるの!?」
「ほら、来たー」
「うん、だいたい時間通り」
中から2人の声が聞こえると、アユトはそのままドタドタと部屋に上がり込んでいく。やれやれ。せっかくの休日にこの上なくスッキリと目が覚めたのに……。玄関の扉を閉めて狭い部屋へと向かう。
「それで?」
「どうだったんだ?」
「よかった?」
「う……っ」
部屋に入るなり、3人は一斉に質問を投げてきた。
「それは……もちろん、プロだし……みんな」
素直に言いかけ、思い直して首を振る。
「というか、2人は行ったことあるんだから、聞かなくてもわかるよな」
リュウがヒラヒラと手を振った。
「いや、オレ、あんなにプランもオプションも詰め込んだこと、ねーから」
「人で試すなよっ!?」
「何がよかったの?」
「ぜ……全部……?」
間髪入れないアユトの質問に、思わず素直に答えると、3人とも一刻静かになる。その後、堰を切ったようにアユトが声を上げた。
「全部だって! すごい!」
「はーん、全部いける口か」
「気に入ってくれて、よかったぁ!」
「……っ」
オレは何を告白させられてるんだろう。頬が熱い。誤魔化すように、腕を組んで3人を見下ろした。
「っていうか、みんな、今日は仕事だったよな?」
「あ、僕、戻らなきゃ」
「わざわざ、抜けてきたのか……?」
アユトは持ってきた朝食の1つを食わえて立ち上がった。慌ただしく、また玄関へと駆けていく。
「うん! あ、次の予定が決まったら、絶っ対、教えてよ!」
「へいへいー」
「え、次の予定……?」
「みんなで行くんだよねっ! じゃっ!」
ばたんっ。
「待てよ」とも「じゃあな」ともつかない形で、半分片手を上げたまま、オレはフリーズしていた。
振り返れば、リビングに残った2人は、スマホを覗き込んでワイワイ話をしている。
「これがいけたんなら、これもいけるだろう」
「なぁ、ほんとに全員かよ? 2人ずつでよくねぇ?」
「これがあるからな」
「ああー、そうか。それは試してみたい」
「何の、相談……?」
「ユキ、いつが空いてる? 今度の週末でいいよな?」
「お前も選べよ」
手招きされて、2人の真ん中に座らされて、チェックボックスでいっぱいの画面を見せられる。
「これはアリだろ」
「あ、じゃあ、こっちも」
「待って、これ、みんなで……?」
「当然だろう?」
「ん、送信っと」
リュウがオレの手を掴んで、画面に触れさせる。自分のスマホが、チケットの到着を知らせて震えた。
「だって、ユキ……」
ケンタが目だけをこちらに向ける。
オレは無意識にそちらを向いて、瞬きをした。
「よかったよな?」
「よかったんだろ?」
同時に左右から囁かれてまた頬が熱くなる。
「……っ」
勝手にわいてきた想像を振り払い、慌てて立ち上がって、2人を見下ろす。
「もうっ、2人も仕事なんだろっ!」
「へいへい」
「それじゃ、ユキ、またな」
バタン。
玄関のドアが閉まる。
そのまま腰が砕けたようにその場に座り込んだ。
口に手をやる。
「みんなで……? ほんとに?」
※ ※ ※
「……今のさぁ、仕事じゃなきゃオッケーな空気だったよな?」
「……みたいだ」
リュウはそのままクルッと後ろを向いて、ドアに手をかける。
「今から仕事休むか……」
「こら。抜け駆けはしない約束だろ」
ケンタが腕を掴むと、リュウは息を吐きだして、手をヒラヒラと振った。
「はいはい、わかりましたよ。……んじゃな」
「まったく、油断も隙もないな、お前は」
ヒラヒラと手を振り返し、仕事へと向かうリュウの背を見送る。
(……こういうところは妙に律儀だな、リュウは)
彼にしては珍しく、頭の中と言動が完全に別物だった。必死に頭を仕事モードに切り換えているリュウの背中が見えなくなって、軽く溜め息をつく。
自分も人の事は言えない、とケンタは思う。
(だからオレも、ズルはできないんだ……)
玄関のドアを一瞥したケンタは、後ろ髪を引かれる気持ちでその場を立ち去った。
週末はまだ少し遠く、静かな初夏の空が広がっていた。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
⬛️おまけのキャラ紹介
・野々田 由輝 (ののだ ゆき)
ユキ。見た目と自己認識は、平々凡々な会社員。劣等感が強め。性癖がかなり歪んでいるが、不思議なくらい本人に自覚がない。また友人3人に対しても友情以上の気持ちを抱いているが、やっぱり本人には自覚がない。ちなみにケンタはそれを知っており、リュウは薄々勘付いている。
高校時代にリュウと出会い、親友のようにともに過ごす。その後、大学に入りケンタに声を掛けられ仲良くなり、さまざまな出来事を経てリュウとケンタの3人で行動するようになる。その後、ひょんなことからアユトに懐かれ、やがて4人で行動することが多くなって今に至る。
・山下 健太郎(やました けんたろう)
ケンタ。みんなのリーダーにして仲裁役でもある。正統派イケメンで文武両道、音楽一家の生まれで楽器もできる男。ついついユキを過保護にしがちで、たまにリュウやアユトに叱られる。実はリュウにだけ共有している秘密がある。蛇足だが、冒頭のバルでは海鮮丼を食べていた。
・中村 隆之介(なかむら りゅうのすけ)
リュウ。ワイルドな容姿。見た目そのままに少し言動が荒い。実はユキとは高校時代からの付き合い。一番ユキと付き合いが長いのに割とみんな忘れがちなので不満に思っている。高校時代にユキに「好きだ」と言われたものの、それがどういう好きなのか詳細不明のまま悶々と悩んだ過去がある。出会った頃からケンタをライバル視しているが、ケンタのほうはそれを面白がっている様子でいけ好かないと思っていた。が、ある日その理由に行き当たる。蛇足だが、冒頭のバルでは海老のアヒージョを食べていた。
・佐々木 歩斗(ささき あゆと)
アユト。4人の中では一番小柄で明るくて元気なムードメーカー。だけど実は誰よりも執着が強く、ことユキに関しては周りが目に入らなくなる。何かとユキに強めのスキンシップを取りたがるため、大抵はリュウかケンタがさりげなく止めている。ユキへの愛があらぬ方向に突き抜けているので、2人は手を焼いているが、もちろん肝心のユキは全く気づいていない。大学生活の最後の半年までは、ケンタにはバイト先の店員さんとしか見られていなかった。リュウに至ってはどう見ても殺気を放っていたため怯えてまともに話もできない状況だった。
・オリオン
Navire de Plaisanceの店主。長い銀髪にネイビーのスーツで現れる。特殊な職歴を持ち、神出鬼没。ケンタとは元々面識があった。他人行儀で掴み所がない人物だが、至るところに彼の熱心なファンがいるとかいないとか。
・スネル
Navire de Plaisanceにおける最古参の1人で、トレンチコートの似合う渋い中年男性。元々は堅い仕事に就いていたが、さまざまな事情があって現在に至る。オリオンの勧誘でこの世界に入ったらしい。その熟練の技巧は他に並ぶ者がいない。オリオンに対して面と向かって意見できる数少ないキャストの1人と言われている。
・アッシュ
オリオン自らスカウトしてきた新人。ユキ達よりも2つ年下だが、年の割には落ち着いた雰囲気を持つ。どこか儚さのある美青年。名前の由来は少し灰色がかった髪と瞳から。前職はバーテンダーをしていた。オリオンのお気に入りだとスタッフの間で噂されている。
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※ この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・名称等とは一切関係ありません。
「おはよう、ユキ! 朝ごはん買いすぎちゃったからお裾分けにきたよ!」
「……おはよう、アユト」
笑顔で、ずい、と差し出された袋を受けとる。
「ありがとう、わざわざいいのに。あー……昨日の感想、聞きに来たんだよな?」
「えっ、あ……なんでっ?」
ドアを開いて、玄関を示す。そこにはすでに無造作に脱ぎ捨てられたスニーカーと、きっちり揃えられた革靴とがある。
「ええっ、リュウ、ケンタっ、何してるの!?」
「ほら、来たー」
「うん、だいたい時間通り」
中から2人の声が聞こえると、アユトはそのままドタドタと部屋に上がり込んでいく。やれやれ。せっかくの休日にこの上なくスッキリと目が覚めたのに……。玄関の扉を閉めて狭い部屋へと向かう。
「それで?」
「どうだったんだ?」
「よかった?」
「う……っ」
部屋に入るなり、3人は一斉に質問を投げてきた。
「それは……もちろん、プロだし……みんな」
素直に言いかけ、思い直して首を振る。
「というか、2人は行ったことあるんだから、聞かなくてもわかるよな」
リュウがヒラヒラと手を振った。
「いや、オレ、あんなにプランもオプションも詰め込んだこと、ねーから」
「人で試すなよっ!?」
「何がよかったの?」
「ぜ……全部……?」
間髪入れないアユトの質問に、思わず素直に答えると、3人とも一刻静かになる。その後、堰を切ったようにアユトが声を上げた。
「全部だって! すごい!」
「はーん、全部いける口か」
「気に入ってくれて、よかったぁ!」
「……っ」
オレは何を告白させられてるんだろう。頬が熱い。誤魔化すように、腕を組んで3人を見下ろした。
「っていうか、みんな、今日は仕事だったよな?」
「あ、僕、戻らなきゃ」
「わざわざ、抜けてきたのか……?」
アユトは持ってきた朝食の1つを食わえて立ち上がった。慌ただしく、また玄関へと駆けていく。
「うん! あ、次の予定が決まったら、絶っ対、教えてよ!」
「へいへいー」
「え、次の予定……?」
「みんなで行くんだよねっ! じゃっ!」
ばたんっ。
「待てよ」とも「じゃあな」ともつかない形で、半分片手を上げたまま、オレはフリーズしていた。
振り返れば、リビングに残った2人は、スマホを覗き込んでワイワイ話をしている。
「これがいけたんなら、これもいけるだろう」
「なぁ、ほんとに全員かよ? 2人ずつでよくねぇ?」
「これがあるからな」
「ああー、そうか。それは試してみたい」
「何の、相談……?」
「ユキ、いつが空いてる? 今度の週末でいいよな?」
「お前も選べよ」
手招きされて、2人の真ん中に座らされて、チェックボックスでいっぱいの画面を見せられる。
「これはアリだろ」
「あ、じゃあ、こっちも」
「待って、これ、みんなで……?」
「当然だろう?」
「ん、送信っと」
リュウがオレの手を掴んで、画面に触れさせる。自分のスマホが、チケットの到着を知らせて震えた。
「だって、ユキ……」
ケンタが目だけをこちらに向ける。
オレは無意識にそちらを向いて、瞬きをした。
「よかったよな?」
「よかったんだろ?」
同時に左右から囁かれてまた頬が熱くなる。
「……っ」
勝手にわいてきた想像を振り払い、慌てて立ち上がって、2人を見下ろす。
「もうっ、2人も仕事なんだろっ!」
「へいへい」
「それじゃ、ユキ、またな」
バタン。
玄関のドアが閉まる。
そのまま腰が砕けたようにその場に座り込んだ。
口に手をやる。
「みんなで……? ほんとに?」
※ ※ ※
「……今のさぁ、仕事じゃなきゃオッケーな空気だったよな?」
「……みたいだ」
リュウはそのままクルッと後ろを向いて、ドアに手をかける。
「今から仕事休むか……」
「こら。抜け駆けはしない約束だろ」
ケンタが腕を掴むと、リュウは息を吐きだして、手をヒラヒラと振った。
「はいはい、わかりましたよ。……んじゃな」
「まったく、油断も隙もないな、お前は」
ヒラヒラと手を振り返し、仕事へと向かうリュウの背を見送る。
(……こういうところは妙に律儀だな、リュウは)
彼にしては珍しく、頭の中と言動が完全に別物だった。必死に頭を仕事モードに切り換えているリュウの背中が見えなくなって、軽く溜め息をつく。
自分も人の事は言えない、とケンタは思う。
(だからオレも、ズルはできないんだ……)
玄関のドアを一瞥したケンタは、後ろ髪を引かれる気持ちでその場を立ち去った。
週末はまだ少し遠く、静かな初夏の空が広がっていた。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
⬛️おまけのキャラ紹介
・野々田 由輝 (ののだ ゆき)
ユキ。見た目と自己認識は、平々凡々な会社員。劣等感が強め。性癖がかなり歪んでいるが、不思議なくらい本人に自覚がない。また友人3人に対しても友情以上の気持ちを抱いているが、やっぱり本人には自覚がない。ちなみにケンタはそれを知っており、リュウは薄々勘付いている。
高校時代にリュウと出会い、親友のようにともに過ごす。その後、大学に入りケンタに声を掛けられ仲良くなり、さまざまな出来事を経てリュウとケンタの3人で行動するようになる。その後、ひょんなことからアユトに懐かれ、やがて4人で行動することが多くなって今に至る。
・山下 健太郎(やました けんたろう)
ケンタ。みんなのリーダーにして仲裁役でもある。正統派イケメンで文武両道、音楽一家の生まれで楽器もできる男。ついついユキを過保護にしがちで、たまにリュウやアユトに叱られる。実はリュウにだけ共有している秘密がある。蛇足だが、冒頭のバルでは海鮮丼を食べていた。
・中村 隆之介(なかむら りゅうのすけ)
リュウ。ワイルドな容姿。見た目そのままに少し言動が荒い。実はユキとは高校時代からの付き合い。一番ユキと付き合いが長いのに割とみんな忘れがちなので不満に思っている。高校時代にユキに「好きだ」と言われたものの、それがどういう好きなのか詳細不明のまま悶々と悩んだ過去がある。出会った頃からケンタをライバル視しているが、ケンタのほうはそれを面白がっている様子でいけ好かないと思っていた。が、ある日その理由に行き当たる。蛇足だが、冒頭のバルでは海老のアヒージョを食べていた。
・佐々木 歩斗(ささき あゆと)
アユト。4人の中では一番小柄で明るくて元気なムードメーカー。だけど実は誰よりも執着が強く、ことユキに関しては周りが目に入らなくなる。何かとユキに強めのスキンシップを取りたがるため、大抵はリュウかケンタがさりげなく止めている。ユキへの愛があらぬ方向に突き抜けているので、2人は手を焼いているが、もちろん肝心のユキは全く気づいていない。大学生活の最後の半年までは、ケンタにはバイト先の店員さんとしか見られていなかった。リュウに至ってはどう見ても殺気を放っていたため怯えてまともに話もできない状況だった。
・オリオン
Navire de Plaisanceの店主。長い銀髪にネイビーのスーツで現れる。特殊な職歴を持ち、神出鬼没。ケンタとは元々面識があった。他人行儀で掴み所がない人物だが、至るところに彼の熱心なファンがいるとかいないとか。
・スネル
Navire de Plaisanceにおける最古参の1人で、トレンチコートの似合う渋い中年男性。元々は堅い仕事に就いていたが、さまざまな事情があって現在に至る。オリオンの勧誘でこの世界に入ったらしい。その熟練の技巧は他に並ぶ者がいない。オリオンに対して面と向かって意見できる数少ないキャストの1人と言われている。
・アッシュ
オリオン自らスカウトしてきた新人。ユキ達よりも2つ年下だが、年の割には落ち着いた雰囲気を持つ。どこか儚さのある美青年。名前の由来は少し灰色がかった髪と瞳から。前職はバーテンダーをしていた。オリオンのお気に入りだとスタッフの間で噂されている。
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※ この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・名称等とは一切関係ありません。
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