傭兵少女のクロニクル

なう

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第115話 飛翔

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 上空で彼ら、5人の戦いを見守り、下に降りるタイミングを見計らう。

「シャペル、もっと高度を上げて、旋回して、みんなに見つからないようにね」
「ピポロポ」

 少し高度を上げる。
 100メートルくらいの高さだろうか、砦全体が視界に入るようになる。
 砦の中央、中庭付近では相変わらず佐野獏人が暴れている。
 そして、その佐野の近くには和泉春月の姿も見える。
 基本、佐野が敵と戦い、和泉はサポート、漏れた敵を叩く、そういう役割だろうか、二人が連携して敵に対処しているのが上からでも見て取れた。

「秋葉はどこ行った?」

 見当たらない。
 三人で協力して戦ったほうがいいと思うけど……。

「いた」

 彼がいる場所は塔の上、それも、この砦内でもっと高い見張り台の上にいた。
 その高所から十字二本弦の弓で敵を狙う。

「彼は生粋のスナイパーね……」

 敵が下から攻めてきたら逃げ場のない高所……、普通の兵士ならば避ける。
 でも、彼は迷わず高所を取りに行った。
 それはスナイパーの本能……、戦場でもっとも高い場所から放たれる一撃は強烈、戦況すら左右する。
 風を鋭く切裂く矢は敵を貫く。

「強いな……」

 秋葉の戦いぶりを見て、そうつぶやく。
 私の評価では和泉、佐野、東園寺、人見、の順で並び、そこから少し差をあけられて秋葉という感じになっている。
 別に秋葉が弱いというわけではない、その証拠に秋葉の次は参謀班の南条か管理班の鷹丸になると思うけど、その二人と比べて圧倒的に、大差をつけて秋葉のほうが強い。
 上位四人の影に隠れて目立たないだけで、彼もまた天才の一人なのだ……。

「どこだ、どこから撃ってくるんだ!?」
「あっちだ、あの上から!!」

 当然、敵はそのスナイパーの存在に気付き、排除に乗り出す。

「見張り台の上か、どうやって登ったんだ!?」
「カギだ、誰か、カギを持ってこい!!」

 カギがかかっていて入れないみたいで、兵士たちが扉を蹴りつけて破壊しようとしている。

「くそっ、開かねぇ!!」
「カギはまだか!!」

 でも、鉄の扉はそう簡単には破壊できない。
 そうこうしているうちに、秋葉がいる見張り台の下には数十人の敵兵で埋め尽くされる。

「しょうがないなぁ……」

 あいつら全員が扉を開けて登って行ったら対処のしようがない。
 私は立ち上がり、シャペルの背中に立つ。

「それじゃ、いってくるね、シャペル」
「ピポロポ」
「シャペルは飛行船に帰ってていいよ、ごめんね、無理させて」
「ピポロポ」
「そう」

 無理してないよ、だって。

「よし」

 砦に背を向けて立つ。
 そして、両手を広げて、ドラゴン・プレッシャーを水平にかざす。
 そのままうしろに倒れて行き、完全に仰向けになった状態で、軽くポーン、と、シャペルを蹴って宙に飛ぶ。
 ふわり、と、感じる浮遊感……。
 闇夜の空が見える……。
 薄曇なのか、星々の明かりは弱い……。

「ピポロポ」

 ふふ、いってらっしゃい、だって。

「いってくるね」

 その瞬間、ドーン、と、急激に落下していく。
 シャペルの姿が見る見る小さくなっていく。
 そこから角度を付け、頭を真下にする。
 さらに落下速度が上がる。
 風切り音とワンピースが風にはためく音が重なる。

「あったぞぉ、カギだぁあ!!」

 真下からそんな声が聞こえてくる。
 若い兵士が嬉しそうにカギの束を掴んで見張り台のほうに走って行く姿が見える。

「おお、あったかぁ!」
「よーし、これで、上に登れる!」
「目にもの見せてやる!」
「ぶっ殺してやる!」

 と、敵兵たちが大盛り上がり。

「よーし、開けろ!」
「早くしろ!」
「ちょっと待って、待って、あれ、どれだ……?」

 若い兵士が束の中から見張り台のカギを探す。

「なんだ、なんだ、どうした?」
「早く、早く!」
「逃げられるだろ!」
「いや、だから、どれがここのカギだか……」

 ひとつずつカギ穴に差し込んで確かめる。

「なにやってんだぁ!」
「いい俺がやる、邪魔だ、どけろ!」

 と、中年の兵士が若い兵士からカギの束を奪い取る。
 ちょうどよく、私がそこに落下していく。

「くそぉ、どれだ、どれだぁ!?」

 と、背中を丸めてカギを探す。
 私は身体を反転させ、足からその中年の兵士の上、丸めた背中の上に着地する。
 ドゴーン、と、すごい音がした。

「ひっ!?」
「あぎゃっ!?」
「うへ!?」

 と、周囲の敵兵どもが驚き、尻餅をつく。

「よぉ、楽しそうだな、何かの祭りか? 私も混ぜろよ」

 下敷きになり、うつ伏せに倒れている中年の兵士の背中から降りながら言う。

「なんだ、なにが起きた……?」
「さっきと同じだ、また空から人が……」
「ば、化け物か……」
「そ、そんな、空から女の子が……」

 敵兵どもが口々に言う。
 私は大剣、ドラゴン・プレッシャーを石畳に突き立て、その柄から手を放す。

「熱くなってないかな……」

 と、革の手袋の中にあるネックレスを見る。
 厚手の手袋なので、その熱は感じない……。

「大丈夫か……」

 と、再度ネックレスを握り締める。

「ぶ、武器から手を放したぞ、降参か……?」
「いや、相手は化け物、どんな手を使うかわからんぞ」

 敵兵どもの武器を構え、じりじりと私を包囲していく。
 ちょうど、私のうしろには見張り台の入り口、鉄製の扉があり、それを背にする格好になっている。
 ちらりと、うしろを見て、距離を確認する。

「1メートルくらいか……」

 私は扉の前、1メートルほどのところに立つ。

「まぁ、いいや、かかってこいよ」

 と、敵兵どもを見て、軽く笑ってやる。
 数は……、30人くらいいるだろうか……。
 警戒して中々かかってこない。

「よいしょっと……」

 白クマのリュックサックを背負い直す。

「く、くそぉ!」

 と、勇敢な若い兵士が剣を振り上げる。

「ひとりかよ……」

 私はドラゴン・プレッシャーの柄を握り、そのまま真横になぎ払う。

「げべっ!?」

 と、まともに大剣を脇腹に受け、プレートアーマーはひしゃげ、そのまま数メートル飛んで、べちゃりと石壁に叩き付けられる。
 横に払ったドラゴン・プレッシャーを石畳に突き刺し手を放す。

「なんて、鋭い太刀筋なんだ……」
「見えなかったぞ……」
「あんな大剣を軽々と……」

 ひゅん、ひゅん、と、見張り台の上から音がする。
 矢の音ではないな、石か、スリングショットをやっているな、秋葉……。

「なぁんだ、気に入ってるんじゃないか」

 上を見上げて、ちょっと笑ってしまう。

「味方が次々と狙撃されている……」
「くそぉ……、上のやつをなんとかしないとジリ貧だぞ……」
「一斉にだ、一斉にかかれ! あの大剣では小回りも利くまい!」

 前にも聞いた台詞だな……。
 そうそう、前任のマジョーライが言っていた言葉だ。

「いくぞおお!!」
「「「おおおお!!」」」

 と、最前列の10人くらいが一斉にかかってくる。

「でも……」

 わずかな動き、フェイクとフェイント、防御と無防備、それを個別に10人の兵士、全員に食らわす。
 それぞれの足並みが乱れる、前に出るやつ、速度を緩めるやつ、姿勢を下げるやつ、身体を上げて飛ぼうとするやつ、ばらばらの動きになっていく。
 そして……。
 横一線。
 ドラゴン・プレッシャーを真横に一発払う。
 すると、10人すべてに時間差で、まるで大剣の刃に吸い込まれるように次々とヒットしていく。

「げぁ!?」
「おげぁ!」
「おごう」

 と、悲鳴と鎧がひしゃげる音が轟き、10人の兵士が同時に宙を舞い、そのまま石壁に叩き付けられる。

「ドラゴン・プレッシャー・キリング・フィールド……」

 それがこの技の名よ……。

「ひ、ひいいぃ……」
「う、うそだろ……」

 石壁に付着した大量の血と、その下の10人の無残な死体を見て敵兵共が後ずさる。

「ひ、ひいいぃ、逃げろ、化け物だ!」
「人間の勝てる相手じゃない!」
「殺されるぞ!?」
「俺たちはこんな化け物と戦うためにここに来たんじゃない!」

 戦意喪失、敵兵どもが我先にと逃げ出していく。
 中には手にした武器を放り出して逃げる者までいた。

「こんなものか……」

 逃げる敵兵は追わずにその場で静観する。
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