二人の火照り遊び

山之辺アキラ

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序章

12.お勉強会 ◆

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 これがたっくんの、と思った美詠は気恥ずかしさに襲われた。
 目を上げると拓斗の顔には今日初めて見る表情が浮いていた。眉をわずかに寄せ、頬にいくらか赤みがかかっている。

 美詠は顔から目を下ろした。
 左手がまくったシャツの下で拓斗の肉竿が下を向いている。
 お腹の肌と同じ色合い。下腹部からやや前に飛び出ている円筒形の竿には、ぷりっとした肉の弾力が感じられる。竿の下端は袋の結び口のように皮膚がしぼんで閉じている。

「みよみちゃん、触りたかったら触ってみていいよ。こんなふうに動かせるから」

 拓斗は右手でつまんでみせた。
 骨のない肉のかたまりだ。指の間でクニクニと簡単に曲がった。しかし指が竿を直角に折り曲げたときには、美詠は「ひっ」と声を上げてしまった。

「痛くないの……?」
「勃つ前は大丈夫。ほら」
「う、うん」

 美詠が手に取ってみると、意外にも肉竿はあまり温かくなくて、若干の重みがあった。へばった生き物のように手の中で力なく倒れている。
 表面はふよふよ柔らかいが、指で押すとコリコリとした抵抗が内部にあった。筋状の芯があるようだ。

「これ……触られてるのってたっくんはわかるの?」
「わかるよ」
「どこ触っても?」
「うん」

 美詠は拓斗がやったように肉竿を指でつまんで恐るおそる曲げてみた。左右でも上下でも自由に曲がった。

「あー、曲げられるとあとでジーンってくるな」
「あっ、あっ、ごめん」
「いいよ、俺も知らなかった」

 美詠はパッと手離した。
 離れたものは前後に揺れながら徐々に揺れを収めて停止した。

「これってたっくんは自分で動かせるの?」
「お腹に力を入れると動かせるけど」

 拓斗はお腹を凹ませてみせた。少しだけ前に持ち上がった。

「こうやって引っ張るくらいかな」
「ふうん」

 恥ずかしさよりも興味が勝つ美詠に拓斗は彼女らしさを感じて笑みを浮かべた。彼は肉竿を手で除けて、次はこっちだよと興味の目と手を誘導した。

 精子を生む場所。
 それを保護する皮膜は肌の色がやや濃く、ところどころにシワがよっている。皮下脂肪のまったく付いていない皮膚の袋とわかる質感だ。袋の底には二つのふくらみがあって、うずらの卵のようなものが中に二つ収まっていることがひと目でわかる。

「触っていいけど、玉を押したりつまんだりすると痛いから、そーっと」
「うん」

 人体の表面でもっともユニークに感じる構造物を美詠は下から持ってみた。肉竿よりも、ひんやりした感触が手にのしかかった。
 その皮膜は薄くても丈夫で、よく伸び、よく縮むものだった。肘の皮をつまんで伸ばしたものよりも、ずっと皮膚を感じやすかった。

「すごい……」

 美詠はつぶやいた。背筋が伸びて前かがみになった。
 まんざらでもない顔の拓斗が「そうかぁ」と言っている。

「持ち上げてみていいよ」
「うん」

 勧めに従うと意外な重さが手にかかった。サイズのわりに内容物は重く、まるでシリコンのボールのように中身の詰まった重量感があった。

 美詠は、そーっと元の位置に袋を戻して手を離した。
「ありがとう」とお礼をすると「もういいの?」と意外そうな声が、おでこの先から聞こえた。

「うん、もういい~。あとたっくんが気持ちいいところってどこ?」
「先っぽだよ。ここ」

 拓斗は肉竿の先端部分を示した。そこはツクシの頭のように少し膨らんでいて美詠にもわかりやすかった。

「ここを皮ごとこすると気持ちいいんだよ。こうやって」

 指が上下に皮を動かした。肉竿の開口部の皮膚が、開いたり閉じたり繰り返している。

「あ、皮の中になんかある」

 美詠は見つけものをしげしげと見た。皮の中の何かはクレヨンの先のようにつるんとしていて小さな穴が開いている。おしっこが出る穴だとすぐにわかった。

「それさ、中に芯みたいなの入ってんだけど、触ると痛いんだよ」
「ええ?」

「見えてるところはちょっと痛いくらいだけど、皮を剥くと下のほうはすげー痛い。風が当たっただけでも痛い」

「えええー!? なんで? こすると気持ちいいのに?」
「なんでって思ったことはなかったなー」

 言われてみれば不思議なことかもしれないと、拓斗は自分にはない感性に笑いながら感心した。しかし美詠がまるで自分事のように痛そうな顔をするので、つい痛みが想像できそうな説明までも口にした。

「転んで擦りむいた傷がベタベタするときあるじゃん。あれ触ると痛いじゃん。その何倍も痛いんだよ」

「いやああああ……」

 少女は頬に手を当てている。少年はますます口を活発にすべらせた。

「でも自分で剥かないと大人になっても剥けないっていうからさ。ときどき剥いてて前よりは剥けるようになってきたよ」
「そうなんだ……」

「最近この皮の中にお湯をためて洗う技を知ってから楽になったかなー」
「へぇ……」

「あー、みよみちゃん引いてる?」
「んーん。大変そうって思って」

「つまんない話したかと思った」
「ううん。たっくんが一生懸命説明してくれたの嬉しいよ」

「もう寂しくない?」
「うん!」

 笑いあう頬が、ほんのり赤くなった。
 美詠はひとつ思い出して「ねえねえ」と拓斗の顔に近づいた。

「ん?」
「“たつ”とどうなるの?」
「それ、エロい気分にならないと勃たないんだよなー。いま普通に話しちゃってるからさ」
「そうなんだ。どうしたらエッチな気分になるの?」
「みよみちゃんに何かすればなるよ」
「それ私もエッチになっちゃうよ……」

 美詠は太ももの間に手をはさんで少し渋った。「いいじゃん」と押されて赤くなる。

「私になにしたいの?」
「そうだなー。今はみよみちゃんがアイデア出してくれたら嬉しいな」
「私が恥ずかしい目にあうのに私が考えるの?」
「そうそう」
「えー、エッチ……」

 想像を超えたエッチばかりする拓斗を喜ばせるアイデアの提供――。
 高い壁を美詠は感じた。それよりも彼がやりたがっていることを考えたほうが早そうだった。それに気付いた頭がパッとひらめく。
 さっきティッシュでふかれながら秘唇を開かれそうになったときの彼の手つき。お医者さんごっこで蕾の部分を開かれて見られたときの彼の目つき。思い返せば彼がそこを見たがっていることに間違いはなさそうだった。
 恥かしさをこらえながら美詠は提案する。

「じゃあ、私の“ナカ”……見る?」
「いや、いいよ」
「え……」

「痛いだろ? そこ開いたら」
「痛くないよ……?」

「マジか。なんで?」
「なんでって言われても痛くないよ」

「痛いのかと思ってた」
「あー、たっくんが痛いから?」

「そうそう」
「そっかぁ」

 ときどき変に慎重だった拓斗の言動のわけを美詠は知った。
 見たいけれどもギリギリのところで彼は折り合いをつけていたのだ。それにもかかわらず蕾に息を吹きかけるのだから、イジワルな性質のほうも本物だ。

「たっくんは、もう~」
「なに、嬉しそうじゃん」
「なんでもない。ナカ見ていいよ」

「俺がやっていいの? またエッチになるぞー」
「だってエッチだと“たつ”んでしょ?」

「そうだけど恥ずかしいことされちゃうよ? みよみちゃん」
「う、うん……」

 拓斗の興奮した様子に美詠は胸をぐいぐい押された。あっという間に声が震えそうなほど鼓動が高まった。

「恥ずかしくていいよ。……たっくんは私に恥ずかしいトコ見られちゃったから、私に仕返しするの」

 ごくり……。
 生唾を飲みこむ音が前から聞こえたような気がした。

「なにそれエッチじゃん!!」

 拓斗の肉竿がビクンと震えた。
 美詠の視界でそれは大きな動きをみせた。これまで真下を向いていた肉竿は、ひと跳ねして上を向いたあと、いったん水平まで落ちて止まり、そこからまたひと跳ねして斜め上を向き、最後は真上を目指してググッと角度を上げていった。

「わっ、わっ、わっ」

 そそり立った男子の象徴。
 それは最初と印象を大きく変じて雄性を美詠に感じさせた。

「あー、勃っちゃったな」
「これがそうなんだ。すごい……」
「触っていいよ」
「じゃあ……うん」

 拓斗の雄茎に美詠は触れた。
 興奮のかたまりのような熱さがあった。雄性のかたまりのような硬さがあった。内部で膨らみきった肉が柔らかかった皮膚を薄く引き伸ばして表面が張っている。

「こうなるからハーパンが膨らむんだよ」
「じゃあたっくんがエッチな気持ちになったらすぐわかっちゃうね」

 これでは隠しようがないことを美詠は理解した。

「そうだよ。でもずっとは勃ってないよ。また小さくなるよ」
「エッチな気持ちがあっても小さくなるの?」
「なるよ。また勃つけど」
「へえー……ねね、じゃあ精子っていつ出るの? もう出てるの?」

 男子が作るものといえば精子。学校で今年習ったばかりの知識だ。

「うーん、どうなんだろな」
「たっくんもわかんない?」
「わかんないなー」

 美詠は授業を思い出す。裸の男女の絵が描いてあって、精子と卵子がくっつくと子供になる話があった。

「二人で裸になってたら子供できちゃう?」
「ちんちんを膣にいれないとできないんじゃなかったかな」
「あ、それ習った~」
「俺も」

 ばらばらに覚えていた話がつながった。
 美詠は嬉しくなって手を合わせた。二人で考えるとうまくいく。

 拓斗がそこに自分の手を重ねた。ニッコリ笑った気配にピンクの影。不穏に引きつる美詠の口。

「次はみよみちゃんの番だよ。ナカ見せて」

「えっと……もう立ったの見たし……エッチなことしなくてもよくない?……ですか?」

 ねっ?と忘れず愛想笑い。
 ――効くはずもなく、

「ダメ。許さん」
「きゃー」

 ガバッと広がった拓斗の腕に美詠は肩を抱かれてさらわれた。
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