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疑惑
疑惑21
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密会が予想された日の夜、指定の場所付近で待ち伏せていると資料の画像にあった通りの容姿端麗な女と20代後半と見られる男が現れた。女は高級ブランド品を数々身につけ一目見て裕福とわかる様だが、男の方は若さだけが光っているような平凡さだ。車の中からズームに目を凝らしてシャッターを切る。
2人はレストランに入り1時間程で出てくると人目も気にせず腕を組んで歩きホテル街の方へ向かっていった。決定的な証拠を撮るために俺は車から降りて後をつけた。洋介という男もまた、自分のしている事と同じく妻に裏切られているのだと思うと嘲笑で頬が引き攣った。
後日、撮れた写真を渡すとあゆみさんは素直に「ありがとう」と言った。複数の写真をめくって息を呑むあゆみさんの様子を見て、俺は自分の存在が消えていくような気がした。
「あゆみさん、2週間経ったら」
「わかってる、そんなにかからないかもしれない!」
意気揚々とした返事だった。初めて見せた華やかな笑顔はぎりぎり保っていた俺の平常心を打ち砕いた。もしあの男にその気があるなら、この写真は充分良い証拠になる。そしたら俺は・・・
あゆみさんがあいつに写真を渡したと言った日から2週間が経った。それまで連絡がないことに俺は安堵していた。やはりあの男は離婚などする気などないのだ、と。
ところがそれ以降も連絡が来ない日は続いた。経過が気になりながらもあゆみさんの心境を思うと電話を掛けようとする手が止まる。
約1ヵ月が経ち6月に入ったある日、あゆみさんからメールが来た。俺は喜びの余り持っていた紙パックの飲料を握り締めて中身をデスクにぶちまけてしまった。話があるから今夜会えないかという内容だった。仕事を早く切り上げ、急いで車を取りに帰った。待ち合わせ場所は前と同じ駅だ。何から話せばいいのか迷う、俺には朗報であってもあゆみさんにとっては辛い失恋話だ。
駅に着くと既にあゆみさんがロータリー沿いに立っていた。車を横につけて窓を開けた。
「久しぶりだね、乗って」
あゆみさんは目を逸らしドアを引いて乗り込んだ。シートベルトを締めている間に俺はCDの再生ボタンを押した。でも慌ててすぐに止めた、あの曲が入っていたからだ。
「飯でも食べに行く?」
「いらない」
「じゃあドライブしようか」
「・・・」
BGMの代わりにラジオをつけた。パーソナリティとゲストの賑やかな会話が車内に響く、沈黙を紛らわすには丁度良い。
「どう?あれから」
「どうって?」
「あの人との関係」
「連絡取ってないわよ」
「俺との約束を守ってるって事?」
あゆみさんは変わらない表情で前を見ている。
「離婚の話は出なかったって思っていいの?」
「話が出なかったのは確かよ。もうこれ以上聞かないで。今日はあなたに頼みたい事があって呼んだの」
信号が赤になり、車を停止させた。
「何?」
「これをポストに入れてきて欲しいの。住所は後でメールする」
あゆみさんはそう言って鞄から何かを取り出した。また茶色い封筒だ。この前のと違ってハトメのないシンプルな封筒だった。サイズは一回り小さい。
「中身は何?」
「ただポストに入れるだけでいいから」
「そう言われても何のために必要なのかくらい言ってくれないと」
「私の気持ちを晴らすためにあなたができる事よ」
あゆみさんはダッシュボードに封筒を差し込んだ。
「これをポストに入れれば、あゆみさんは幸せに近づける?」
「幸せ?・・変な事言わないで。私が情けないみたいに聞こえる」
「ごめん、そんなつもりじゃないんだ。今までが大変だったろうからさ」
「そういう同情みたいなのやめてくれる?」
「これからあゆみさんが良い方向に進むって言うのならこの封筒入れに行く」
青信号を確認して車を発進させた。あゆみさんは何も言わなかったけど俺は背中を押すつもりで封筒の件を承諾した。離婚の話が出なかったと聞いた時から徐々に気持ちが舞い上がり、細かい事があまり気にならなくなっていた。
2人はレストランに入り1時間程で出てくると人目も気にせず腕を組んで歩きホテル街の方へ向かっていった。決定的な証拠を撮るために俺は車から降りて後をつけた。洋介という男もまた、自分のしている事と同じく妻に裏切られているのだと思うと嘲笑で頬が引き攣った。
後日、撮れた写真を渡すとあゆみさんは素直に「ありがとう」と言った。複数の写真をめくって息を呑むあゆみさんの様子を見て、俺は自分の存在が消えていくような気がした。
「あゆみさん、2週間経ったら」
「わかってる、そんなにかからないかもしれない!」
意気揚々とした返事だった。初めて見せた華やかな笑顔はぎりぎり保っていた俺の平常心を打ち砕いた。もしあの男にその気があるなら、この写真は充分良い証拠になる。そしたら俺は・・・
あゆみさんがあいつに写真を渡したと言った日から2週間が経った。それまで連絡がないことに俺は安堵していた。やはりあの男は離婚などする気などないのだ、と。
ところがそれ以降も連絡が来ない日は続いた。経過が気になりながらもあゆみさんの心境を思うと電話を掛けようとする手が止まる。
約1ヵ月が経ち6月に入ったある日、あゆみさんからメールが来た。俺は喜びの余り持っていた紙パックの飲料を握り締めて中身をデスクにぶちまけてしまった。話があるから今夜会えないかという内容だった。仕事を早く切り上げ、急いで車を取りに帰った。待ち合わせ場所は前と同じ駅だ。何から話せばいいのか迷う、俺には朗報であってもあゆみさんにとっては辛い失恋話だ。
駅に着くと既にあゆみさんがロータリー沿いに立っていた。車を横につけて窓を開けた。
「久しぶりだね、乗って」
あゆみさんは目を逸らしドアを引いて乗り込んだ。シートベルトを締めている間に俺はCDの再生ボタンを押した。でも慌ててすぐに止めた、あの曲が入っていたからだ。
「飯でも食べに行く?」
「いらない」
「じゃあドライブしようか」
「・・・」
BGMの代わりにラジオをつけた。パーソナリティとゲストの賑やかな会話が車内に響く、沈黙を紛らわすには丁度良い。
「どう?あれから」
「どうって?」
「あの人との関係」
「連絡取ってないわよ」
「俺との約束を守ってるって事?」
あゆみさんは変わらない表情で前を見ている。
「離婚の話は出なかったって思っていいの?」
「話が出なかったのは確かよ。もうこれ以上聞かないで。今日はあなたに頼みたい事があって呼んだの」
信号が赤になり、車を停止させた。
「何?」
「これをポストに入れてきて欲しいの。住所は後でメールする」
あゆみさんはそう言って鞄から何かを取り出した。また茶色い封筒だ。この前のと違ってハトメのないシンプルな封筒だった。サイズは一回り小さい。
「中身は何?」
「ただポストに入れるだけでいいから」
「そう言われても何のために必要なのかくらい言ってくれないと」
「私の気持ちを晴らすためにあなたができる事よ」
あゆみさんはダッシュボードに封筒を差し込んだ。
「これをポストに入れれば、あゆみさんは幸せに近づける?」
「幸せ?・・変な事言わないで。私が情けないみたいに聞こえる」
「ごめん、そんなつもりじゃないんだ。今までが大変だったろうからさ」
「そういう同情みたいなのやめてくれる?」
「これからあゆみさんが良い方向に進むって言うのならこの封筒入れに行く」
青信号を確認して車を発進させた。あゆみさんは何も言わなかったけど俺は背中を押すつもりで封筒の件を承諾した。離婚の話が出なかったと聞いた時から徐々に気持ちが舞い上がり、細かい事があまり気にならなくなっていた。
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