知らぬはヒロインだけ

ネコフク

文字の大きさ
8 / 29

七話

 会場の入口でキョロキョロしていたアリサが真っすぐに4人の下へと歩いて来る。かなり隅の方にいたつもりだったが、目立ってこの上ない装いをしているミハエルとアラベラは見つけ易かったのだろう。迷いなく歩くアリサにモーゼの海割りの如く人が割れていく。

 貴族が道を開けるのは格上の貴族や王族が通る時に見られる光景だがアリサは男爵子女、本来なら道を開けないのだが皆道を開ける。理由は関わり合いたくないからだ。

 それを自分はヒロインだと自負しているアリサにとって周りが唖然としたり顔を顰めているのは見えていないしその原因にも気づいていない。

「ありゃ相当ヤベェな」

「ミハエル様素が出てらっしゃいますわよ」

「そりゃアレを見たら素も出るわ」

「今までこの世界で生きてきたはずなのに常識をどこかへ落としてきたのかな?」

「凄い格好ですね」

「わたくしNGてんこ盛りの衣装なんて初めて見ましたわ」

「そもそもアレ普通の店が作ってくれるのか?」

「隣にいる子爵令息の家がたしか最近ドレスを手がけ始めたはず。そこに作らせたのかもね」

「あらぁ、悪く評判が立ちそうですわね」

 気取られないよう口を殆ど動かさず4人はアリサの装いについて話す。会場にいる学生が同じような会話をコソコソしている。それは全て好意的な会話ではない。

 それはそうだ、前が膝上15cmで後ろになるにしたがって長くなっているスカートのドレスは白、アップにしたピンク色の髪にこれでもかと花を散りばめている。ネックレスとイヤリングは大ぶりの宝石をあしらったものを着け、腕にはジャラジャラと腕輪をしている。

 そもそもこの国には平民から貴族まで誰でも知っている常識がある。

 それは「白い衣装を着れるのは神職に就く者と新郎新婦のみ」という決まりだ。

 白は神の色とされ穢れが無い事を示す装いとされ、神に仕え童貞処女を貫く神職と神前で誓う新郎新婦のみが着る事を許される。

 他国の貴族の子息子女のデビュタントは白い衣装だがこの国はクリーム色で統一され、アクセサリーも宝石を付けない金や銀の髪飾りをする習わしだ。

 そして膝上を人前で見せるというのは娼婦だとアピールしている事となり、腕輪をジャラジャラ着ける行為も同じである。

 アクセサリーも学院、お茶会、夜会で着けるサイズや傾向が決まっており、大ぶりの宝石は王族であるミハエルや婚約者で準王族のアラベラ以外学院主催のパーティーではNGだ。

 よってアリサが意気揚々と纏っているもの全てがアウトなのだ。

 なのでアラベラが「悪く評判が~」と言ったのはそんなドレスを作った店は早々に潰れるだろうという裏の言葉が隠されている。

「クエスフィール様、ミハエル様お待たせしました!」

「「(待ってねーよ!!)」」



 頬を染めモジモジクネクネしているアリサと対称にクエスフィールとミハエルの顔は今日イチ能面だったそうな。
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】うちの悪役令嬢はヒロインよりも愛らしい

らんか
恋愛
前世の記憶を思い出した今なら分かる。  ヒロインだからって、簡単に王子様を手に入れていいの?  婚約者である悪役令嬢は、幼い頃から王子妃になる為に、厳しい淑女教育を受けて、頑張ってきたのに。  そりゃ、高圧的な態度を取る悪役令嬢も悪いけど、断罪するほどの事はしていないでしょ。  しかも、孤独な悪役令嬢である彼女を誰も助けようとしない。    だから私は悪役令嬢の味方なると決めた。  ゲームのあらすじ無視ちゃいますが、問題ないよね?

【短編】『待つ女』をやめたら、『追われる女』になりました

あまぞらりゅう
恋愛
婚約者の王太子を、いつも待ち続けてきたシャルロッテ侯爵令嬢。 だがある日、彼女は知ってしまう。彼には本命の恋人がいて、自分のことを都合よく放置していただけなのだと。 彼女が待つのをやめた瞬間、追ってきたのは隣国の皇太子だった。 ※覚えやすさや分かりやすさを重視しているので、登場人物の名前は「キャラクター名+身分表記」にしています ★小説家になろう2026/1/29日間総合8位異世界恋愛7位 ★他サイト様にも投稿しています!

「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした

しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」 十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。 会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。 魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。 ※小説家になろう様にも投稿しています※

「退屈な女だ」と婚約破棄されたので去りましたが、翌日から国政が止まったそうです。え、私はもう存じませんけど?

にたまご
恋愛
公爵令嬢クラーラは、ユリウス王太子殿下に婚約を破棄された。 「退屈な女だ」「何の取り柄もない」と。 否定はしない。 けれど殿下が知らないだけで、通商条約も予算案も外交書簡も、この国の政務の大半を六年間匿名で回していたのは──この「退屈な女」だ。 婚約破棄の翌朝、宰相補佐官のレオンが焼き菓子と四十二件の緊急報告を携えて公爵邸を訪れる。 「貴女がいなくなった王宮は、控えめに申し上げて、地獄です」 ──存じません。私はもう、ただの無職ですので。

【完結】意思という名の番(つがい)

しえろ あい
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは、婚約者・王太子アルベルトの政務を裏で完璧に代行する「影の統治者」。 本能的な「番(つがい)」に溺れ、自分を「冷たい人形」と蔑む王太子に対し、アンジェリカは政権奪取の機を伺い始める。 第二王子レオナルドと密かな想いを通じあわせたことをきっかけに、知略と執着で愚かな王太子を破滅へと追い込む計画が動き出す。 神の定めた宿命を、人の意志でねじ伏せ、真の玉座を掌握する、残酷で美しい共謀劇。 ※小説家になろう様でも投稿しています

離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています

腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。 「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」 そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった! 今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。 冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。 彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――

嫌いなところが多すぎるなら婚約を破棄しましょう

天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私ミリスは、婚約者ジノザに蔑まれていた。 侯爵令息のジノザは学園で「嫌いなところが多すぎる」と私を見下してくる。 そして「婚約を破棄したい」と言ったから、私は賛同することにした。 どうやらジノザは公爵令嬢と婚約して、貶めた私を愛人にするつもりでいたらしい。 そのために学園での評判を下げてきたようだけど、私はマルク王子と婚約が決まる。 楽しい日々を過ごしていると、ジノザは「婚約破棄を後悔している」と言い出した。

【完結】ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望