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番外編 クリスマス④

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「おーい、終わったかー?」

 商談相手が拘束され、桜花がタワシを投げつけドヤ顔をしていると、いつの間にか閉められていたドアから良規さんと神楽が、両手にバース性用の消臭スプレーと白衣を着た人を伴い部屋に入って来た。

「おーおーくせーくせー、ビッチの匂いがするわー」

 そう言いながらスプレーを女性の顔にがっつりかける良規さん。彼女βだからフェロモンは……コイツが一番ビッチ臭がする?あー、じゃあ仕方ないな。

 神楽も部屋中にかけるようにスプレーをしているが、空気清浄機や換気してもなお香る甘ったるい発情香に、心配になって伊月さんを見ると手招きされ、近くに行くと俺の腰を抱き項に顔を埋めスンスンと嗅ぎ始める。

「あー、瀬名の匂い……落ち着く……」

 うん、抑制剤飲んでても全てのフェロモンが効かないわけじゃないから我慢してたんだな。

『ちょっ……ちょっと!アンタαじゃないの⁉』

 拘束され暴れていた女性が驚きの表情をしている。あれ?さっき椿より先に部屋に入ってきた俺を丸無視してたからそのまま無視されるのかと思ってたんだがどうした?

『美しいでしょ。僕のつまは』

『はあ⁉その顔でΩぁ⁉』

 失礼な。この顔でΩで悪かったな。つーか、椿だって伊月さんと同じ顔してΩですが?

「βならΩは可愛い顔っていう固定概念があるんじゃない?ほら、外人からしてみると日本人はみんな同じ顔をしてるっていうアレ」

 ああ、それね。βだって色んな顔の人がいるだろうに。少数だからかαやΩに変に幻想抱いてる奴いるよな。それ言ったらΩっぽい良規さんとαっぽい神楽の夫夫ふうふは世間一般の逆の見た目になるな。

「えーい、とどめー」

 ガッ!

『痛いっ!』

「良規さん、桜花にタワシ渡すのやめて。桜花ももう投げない!」

「あい!」

 片手を上げて元気よく返事できてえらいけど、もうその手に持ってるの投げるのやめーい。今確実に目を狙ったよな?桜花、恐ろしい子!

「後の処理は任せてお前ら着替えたら?いくらスプレーしたって完全には取れないだろ。すぐそこのホテル取ったからそこに行け。後で着替えを届けさせるから」

 そう言われ良規さんからホテルの場所をメールで送ってもらい、伊月さんと椿、桜花と一緒に用意されていた車でホテルに向かい4人でドボンと風呂に入る。

 発情香は髪にも付いてしまっているので洗髪もしないといけない。面倒だけど藤達に匂いを嗅がせるわけにもいかないし丁寧に洗って落としていく。桜花は「みんなでお風呂に入れて楽しいねぇ」と喜んでいて、それなら今度日本に帰ったら家族風呂がある温泉に行こうかという話になった。

 風呂から上がると執事の大藤さん夫婦が新しい服が用意して待っていた。相変わらず仕事が早い。

「さあ椿坊ちゃまと桜花お嬢様は着替えて藤坊ちゃま達が待っている部屋に行きましょうね」

「あい!」

 元気に返事をして薄ピンクのワンピースを着せられ「桜花可愛い?」とくるくる回る桜花に対し、椿は「有理とお揃いのネクタイだったのに……」とちょっとヘコんでいる。

「さあさあ行きましょう。昼食を用意しておりますよ」

「わーい」

 てこてこと美佐子さんと手を繋ぎながら大藤さんと椿の後に付いていく桜花を見送ると、いきなり伊月さんが俺の体を抱き上げ、そのままベッドまで行きゆっくりと下ろし覆い被さってくる。

「い……伊月さん?」

「さっき僕、他のΩの匂いに惑わされなかったよ。だからご褒美ちょうだい」

 少し赤らんだ顔をして元気な伊月さんを俺のにゴリゴリとあててくる。あれだけの匂いだ、まだ燻っているんだろう。

「や、でも子供達が待ってるし神楽達だって……」

「大丈夫、子供達は大藤が見ていてくれるし、良規や神楽も匂いが付いてるから別の部屋で着替えてるから」

 ……ああ、そういう事ね。良規さんも短時間だけどあの匂いを嗅いでるから同じだろうと。

「ん……でもあんまり長くはダメだよ?」

「分かってる」

 本当に分かっているか怪しいものだけど、求められるのは嬉しいのでそのままキスを受け入れ、伊月さんからもたらされる刺激に身を任せ……快楽地獄という地獄を見ました。





 3時間後、伊月さんに支えながらよろよろと子供達の部屋に行くと、4人はゲームで遊んでいて桜花はベッドで昼寝をしている。そこには良規さんと神楽の姿は無い。

 昼抜きだった俺は美佐子さんに軽食を用意してもらい、伊月さんの膝の上で給餌されているが、皆いつもの光景に無反応でありがたい。今だにちょっと恥ずかしいからな。

 それから30分くらい経ってから良規さんと神楽が部屋に来るが、やはり神楽が少しぎこちない。良規さんは伊月さんと一緒で艶々している。
 いつも思うがあれだけ動いた後の方が元気っておかしいだろ。恐ろしきαの体力よ。

「神楽お疲れさん」

「うん、瀬名もね」

 このやり取り何度しただろうか。これからも続くんだろうな。

 2人も昼食を食べていなかったのでダイニングテーブルに用意してもらい食べながら話しをする。

「結局アレは何だったんだ?」

 商談相手より桜花のタワシ攻撃の方がインパクトが強い出来事になってしまったが、あの場は商談の最終打ち合わせだったはずだ。

「あれはね、元々商談相手を捕まえる場だったんだよ。証拠と共にね」

 伊月さんの話によると、あの商談相手は何度もΩの社員を使って体の関係を持たせ、それを理由に金を脅し取ったり仕事を融通させたりしていてそれが上位αが経営する会社の子会社ばかりで問題になっていたらしい。

 上位αの集まりでそろそろ調子に乗って上の会社に手を出してくるだろうという見解で一致していて、もし接触をしてきたら対応して証拠を掴み捕まえようという話になっていたらしい。で、集まっていた上位αで一番最初に接触されたのが伊月さんの会社だったので今回あの場で証拠を掴み拘束したらしい。

「ふーん。で、警察に突き出したの?」

「いいや」

「何で⁉」

 バース性を利用して脅したり、会社を有利に持っていくのは犯罪行為なので普通は警察案件なのだが、問題は有力αが被害者という事。いくらハメられたからと言って世間に知れ渡るのは会社の不利益にしかならないし、家族不和を引き起こしてしまうからと言う事で内々に処理するらしい。多分警察に捕まった方が幸せだっただろうに。上位α達を怒らせたツケを何かで払わされるのだろう。

 払うものは何かとは聞かない。聞いてはいけない。知らなくていい世界があるのだ。

「ま、面白かったしこれでスッキリとしてパーティーに参加出来るだろ」

 そう言う良規さんは全て知っていたんだろう。じゃなきゃ商談場所に乗り込もうなんて提案しないしな。

「そうだね。桜花が大活躍したのも見れたし」

「桜花がなに~?」

 昼寝から覚めた桜花がちょこちょこと来て覗き込む。

「桜花がね、タワシを投げたの凄かったねって」

「ほんとー?桜花ね、まだ投げれたよ!」

「うん、タワシはやめておこうか」

 桜花、お母さんはお前の将来が心配だよ!
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