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変わらない運命
用意された客間に移ると、お茶を飲む間もなくマリーは呼び出され連れて行かれた。
王女は忙しいものだ‥‥
「ちょっとヨハン!ねーさまに手を出したら殺すわよ!」
淑女らしからぬ捨て台詞を残して去って行った。
私のせいで皆の性格を歪ませてしまったのではないかと心苦しくなる。
「ルリアちゃん。今日は王都で人気のデザインの物を五着用意してみたのだけど着てみない?」
「ええ、ありがとうございます」
レースの襟が美しい物や袖が膨らんでいる物、裾にフリルが段になっている物など、どれも可愛らしくて素敵だ。
エマに手伝ってもらい着てみると、どれもぴったりと体型に合う。
「昨日お願いしたのにサイズを直してくださったのですか?」
「ああ、そのようだね。売り物の既製品だが手直しをしてあるみたいだ」
「まぁ、そんな‥‥わざわざ手間をかけさせてしまったわ」
明日マリーと出掛ける市井に着ていく為のワンピースは、着れれば何でもいいと思っていたのにわざわざサイズを直してある。
しかも五着すべて‥‥
この中から一着だけというのも悪い気がするけど‥‥
「こちらに来てよく見せて。どれもよく似合うね。本当に綺麗だ」
テーブルの側まで近付くと、何とも満足そうというか幸せそうに破顔している。
「どれも素敵なワンピースですね。王都で人気のデザインだと頷けますわ」
ヨハンさんは紅茶を飲む手を止め立ち上がると私の手を取った。
「このまま一緒に連れて帰れたら他に何も望まないのに‥」
琥珀の瞳はじっと私の目を見つめる。
思わず恥ずかしくてパッと手を離すと下を向いた。
顔が熱い‥‥
精悍な顔立ちのヨハンさんの真剣な眼差しに胸の鼓動が高鳴る。
「ルリアちゃん‥‥俺の所に来ないか?」
「え?」
ポツリと小声で言われ、驚いて顔を上げる。
その時、突然戸が開いた。
「ヨハン!離れろ!」
「王太子殿下!」
「ベルラード‥」
私とヨハンさんの間にグイッと入り込むと、急にヨハンさんを殴りつけた。
ガチャン!ガシャン!
テーブルにぶつかりながら崩れ落ちたヨハンさんの口の端には血が見える。
置かれていたカップは倒れ紅茶がこぼれて広がる‥
「人の婚約者に何をしている!!」
「やめてください!ベルラード!何をするの!」
私は口を袖で拭いたヨハンさんに駆け寄るともう一度殴ろうとするベルラードを見て庇う様にヨハンさんを抱きしめた。
「やめてくださいベルラード!ヨハンさんは何もしていません」
「庇うのか?」
「庇うもなにも、彼は何もしていないのに突然殴るなどあんまりです」
ヨハンさんは体勢を直すように手をつきながらゆっくり体を起こすと、そっと私を離した。
「大丈夫だから、ワンピースに血が付いてしまうよ」
「ヨハン、人の婚約者を横取りするつもりではないだろうな」
冷たく低い声に場が凍る。
後ろにはヘイルズとアロンが立っているが、ただ見守っているだけで止めようとする素振りもない。
私はまだ座ったままのヨハンさんを庇う様に立ち上がった。
ベルラードの正面に立つ。
「婚約者はあくまでもふりです。夜会が終われば婚約者でも何でもないわ!
そうやって人に暴力を振るう人の妃にはなりたくありません。
私がこの国に来た理由を知っていますよね?」
部屋の隅に居るエマ、フィナ、カリンは口に手を当て声を殺して驚いている。
私が婚約者のふりをしていることがばれてしまった‥‥
けれど今はそんな事よりも黙って見てられない。
「ふりではない!!そなたは俺の妃だ。
誰にも渡すつもりはない。ヨハンが奪おうとするのなら処罰する!」
「待って下さい、ヨハンさんは私の頼んだ服を持って来てくださっただけです。
奪うなど見当違いです」
ヨハンさんは立ち上がると、間に立っている私を横に退けた。
「殿下の言う通りです。私はルリア様に好意を寄せ添い遂げたいと思っております。私達を人質に、ルリア様を婚約者にした殿下のお考えには納得できません」
「ならばルリアをアルンフォルトへ送り返し、極刑にしてもよいのだな」
「殿下!それはあんまりです!ルリア様が悪いわけではありません」
‥‥待って‥‥ちょうだい‥‥
「待って下さい。やめてください‥‥」
頭の中で夢の場面が鮮やかに繰り返される。
何度も何度も‥
これって‥‥
私は駆け出して部屋を飛び出した。
幸いワンピースは軽くて走りやすい。
運動神経の良さには自信がある。
私はそのまま厩舎に向かい、馬に乗ると裏口の手薄な警備を強行突破して王宮の外へ飛び出した。
いくら逃げても運命は変わらない。
私がいることで人を不幸にしているのだわ。
私がこの国に来たせいで、ヨハンさんには命の危険が及んでしまった。
ベルラードも私が来なければ、婚約者候補のどちらかと結婚していただろう。
皇妃に似た私さえ来なければ、令嬢達を失望させることもなかった。
私がこの国に来たせいで‥‥
いえ、来る前から、我が国でも人の運命を変えてきたのかもしれない。
皇后が皇妃に言っていた通りなのね‥
皆を不幸にする‥
私が何処へ行っても同じ‥‥
逃げるのではなくて、この世から消えるべきね。
それで皆元通りよ。
逃げ場所を探すのではない‥
死に場所を探すのだ。
王女は忙しいものだ‥‥
「ちょっとヨハン!ねーさまに手を出したら殺すわよ!」
淑女らしからぬ捨て台詞を残して去って行った。
私のせいで皆の性格を歪ませてしまったのではないかと心苦しくなる。
「ルリアちゃん。今日は王都で人気のデザインの物を五着用意してみたのだけど着てみない?」
「ええ、ありがとうございます」
レースの襟が美しい物や袖が膨らんでいる物、裾にフリルが段になっている物など、どれも可愛らしくて素敵だ。
エマに手伝ってもらい着てみると、どれもぴったりと体型に合う。
「昨日お願いしたのにサイズを直してくださったのですか?」
「ああ、そのようだね。売り物の既製品だが手直しをしてあるみたいだ」
「まぁ、そんな‥‥わざわざ手間をかけさせてしまったわ」
明日マリーと出掛ける市井に着ていく為のワンピースは、着れれば何でもいいと思っていたのにわざわざサイズを直してある。
しかも五着すべて‥‥
この中から一着だけというのも悪い気がするけど‥‥
「こちらに来てよく見せて。どれもよく似合うね。本当に綺麗だ」
テーブルの側まで近付くと、何とも満足そうというか幸せそうに破顔している。
「どれも素敵なワンピースですね。王都で人気のデザインだと頷けますわ」
ヨハンさんは紅茶を飲む手を止め立ち上がると私の手を取った。
「このまま一緒に連れて帰れたら他に何も望まないのに‥」
琥珀の瞳はじっと私の目を見つめる。
思わず恥ずかしくてパッと手を離すと下を向いた。
顔が熱い‥‥
精悍な顔立ちのヨハンさんの真剣な眼差しに胸の鼓動が高鳴る。
「ルリアちゃん‥‥俺の所に来ないか?」
「え?」
ポツリと小声で言われ、驚いて顔を上げる。
その時、突然戸が開いた。
「ヨハン!離れろ!」
「王太子殿下!」
「ベルラード‥」
私とヨハンさんの間にグイッと入り込むと、急にヨハンさんを殴りつけた。
ガチャン!ガシャン!
テーブルにぶつかりながら崩れ落ちたヨハンさんの口の端には血が見える。
置かれていたカップは倒れ紅茶がこぼれて広がる‥
「人の婚約者に何をしている!!」
「やめてください!ベルラード!何をするの!」
私は口を袖で拭いたヨハンさんに駆け寄るともう一度殴ろうとするベルラードを見て庇う様にヨハンさんを抱きしめた。
「やめてくださいベルラード!ヨハンさんは何もしていません」
「庇うのか?」
「庇うもなにも、彼は何もしていないのに突然殴るなどあんまりです」
ヨハンさんは体勢を直すように手をつきながらゆっくり体を起こすと、そっと私を離した。
「大丈夫だから、ワンピースに血が付いてしまうよ」
「ヨハン、人の婚約者を横取りするつもりではないだろうな」
冷たく低い声に場が凍る。
後ろにはヘイルズとアロンが立っているが、ただ見守っているだけで止めようとする素振りもない。
私はまだ座ったままのヨハンさんを庇う様に立ち上がった。
ベルラードの正面に立つ。
「婚約者はあくまでもふりです。夜会が終われば婚約者でも何でもないわ!
そうやって人に暴力を振るう人の妃にはなりたくありません。
私がこの国に来た理由を知っていますよね?」
部屋の隅に居るエマ、フィナ、カリンは口に手を当て声を殺して驚いている。
私が婚約者のふりをしていることがばれてしまった‥‥
けれど今はそんな事よりも黙って見てられない。
「ふりではない!!そなたは俺の妃だ。
誰にも渡すつもりはない。ヨハンが奪おうとするのなら処罰する!」
「待って下さい、ヨハンさんは私の頼んだ服を持って来てくださっただけです。
奪うなど見当違いです」
ヨハンさんは立ち上がると、間に立っている私を横に退けた。
「殿下の言う通りです。私はルリア様に好意を寄せ添い遂げたいと思っております。私達を人質に、ルリア様を婚約者にした殿下のお考えには納得できません」
「ならばルリアをアルンフォルトへ送り返し、極刑にしてもよいのだな」
「殿下!それはあんまりです!ルリア様が悪いわけではありません」
‥‥待って‥‥ちょうだい‥‥
「待って下さい。やめてください‥‥」
頭の中で夢の場面が鮮やかに繰り返される。
何度も何度も‥
これって‥‥
私は駆け出して部屋を飛び出した。
幸いワンピースは軽くて走りやすい。
運動神経の良さには自信がある。
私はそのまま厩舎に向かい、馬に乗ると裏口の手薄な警備を強行突破して王宮の外へ飛び出した。
いくら逃げても運命は変わらない。
私がいることで人を不幸にしているのだわ。
私がこの国に来たせいで、ヨハンさんには命の危険が及んでしまった。
ベルラードも私が来なければ、婚約者候補のどちらかと結婚していただろう。
皇妃に似た私さえ来なければ、令嬢達を失望させることもなかった。
私がこの国に来たせいで‥‥
いえ、来る前から、我が国でも人の運命を変えてきたのかもしれない。
皇后が皇妃に言っていた通りなのね‥
皆を不幸にする‥
私が何処へ行っても同じ‥‥
逃げるのではなくて、この世から消えるべきね。
それで皆元通りよ。
逃げ場所を探すのではない‥
死に場所を探すのだ。
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