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四人の男
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「こちらの部屋でお待ち下さい」
豪華な応接間の扉が開かれた。
「あの、俺達どうしてここに‥‥連れて来られたんでしょうか?」
「お、俺達は何も‥ただ楽しく飲んでただけで‥‥なぁ?」
「おお‥楽しく皆で飲んでただけですけど‥‥」
「俺達に一体何の用があってこちらに呼ばれたのでしょうか?」
四人はキョロキョロと辺りを見回す。
「急にお連れしましたことはお詫び致します。ですが、王太子殿下が皆様にお話があるとのことなので、どうぞご理解下さい」
「話ってなんですか!」
「何の話があるんですか!」
声を荒げ、動揺を隠す事ができないでいる。
「俺達急いでいるんです!早く帰らせてもらえませんか?」
「そ、そうです!俺これから用があって急いでいるんです!」
何故か皆が挙動不審になっている。
「そう急がずに、ぜひお茶でも召し上がって下さい。お酒がよろしければ今すぐにご用意致しますよ」
ヘイルズの落ち着いた口調と対照的にそわそわと落ち着きがなく、一度腰掛けたソファーから立ち上がろうとする。
「早く帰らせて下さい!」
一人が苛立ったように声を張る。
「酒を飲んで楽しんでいた男達が、そんなに急ぐとは、何か聞かれて困ることでも抱えているのかと怪しまれるぞ」
そこに一人の男性が入って来ると扉は閉められた。
シンプルな装いだが背の高いその男性は、同性でも見惚れるほどの整った顔をし威厳がある。
低く艶のある声に四人は一層落ち着かなくなる。
「何も‥‥ただ俺は疲れていて」
「ここに泊まってもらっても構わない。
今日はゆっくりしていってくれ」
「冗談はやめて下さい!」
「冗談ではない。話が長くなりそうなんでな」
「‥‥」
四人は顔を見合わせる。
歳の頃は全員が三十前後のように見える。
「お前達はアルンフォルトの人間だな?」
「え⁈何故ですか?」
一人が驚いた声を上げる。
「お前達をここに案内したその男は、先ほどからずっとアルンフォルトの言葉を使っている。
このダルトタナードと言葉はほとんど同じでさほど違いがないから生活には困らないだろうが、やはり発音の仕方が違う。話し方の癖に国の違いは出ている。
俺もアルンフォルトの言葉を使っている。自然な会話が成り立っていることこそ、お前達がアルンフォルトの人間だという証拠だろう」
「‥‥だから何だと言うのですか?」
「そうですよ!きちんと手続きをしています。この国にいても問題ないはずです」
今度は強気に責め立てる。
彼らが動揺しているのは明らかだ。
「ああ、問題ない。もちろん歓迎しよう」
「‥‥あの‥‥」
「この方が我が国ダルトタナードの王太子殿下です」
「⁈」
皆が青ざめた‥‥
「そう青くならなくてもよい。話を聞くだけだ」
「この国の王太子殿下が俺達のような平民に一体何の話を聞きたいと言うのですか?俺達は話すようなことは何もありませんが」
色黒で体格の良い男は先ほどから四人の中でもしっかりとした受け答えをしている。
この中のリーダーだろう。
「お前達はアルンフォルトで何の仕事をしていた?」
黙り込む男達にベルラードはさらに質問する。
「何故言えないのだ?見るからにお前達四人は肉体労働者のようだか何か力が必要な仕事ではないのか?」
「‥‥」
「言えないとは怪しいものだ。では質問を変えよう。何の仕事ではなく、何処で働いていた?場所なら言えるか?」
「‥‥」
「それもだんまりか‥‥。不思議だな。
この国に入る手続きを正式にしたのなら何処にいたか、この国で住むつもりなら理由も書いたであろう?」
「‥‥」
「言わないのなら書類を探させよう。
いつこの国に入ったのだ?」
「何故ですか?無礼を承知で申し上げます。俺達はアルンフォルトでたいした仕事もなく、生活に困っていた為にこの国に来て仕事を探し、生計を立てようと思っていたのです。それに何の問題がありますか?
手続きをしてこの国で働くアルンフォルトの人間も大勢います。
逆にアルンフォルトへ働きに出る人もいるでしょうが、俺達はダルトタナードを選びました。
何故俺達だけこの様にわざわざ呼ばれるんでしょうか?」
「そうか。それは喜ばしい話だ。
我が国は良い国だからそう言われることは大変に嬉しいことだが、犯罪者までは喜べないな」
「⁈」
四人は固まった‥‥
酒場からそのまま連れて来られた四人は、煌びやかな天井画の美しい応接間には不釣り合いの格好だ。
傍から見れば異様な光景といえる。
その広い部屋で四人は肩寄せ合い縮こまっている。
この姿は緊張とは違い、どう見ても何か隠し事がばれるのではないかと心底怯えているようだった。
「では俺よりもお前達に聞きたいことがある者を呼ぶとしよう」
王太子の合図で再び扉が開く。
そこに立っていたのは目も眩むほどに美しい一人の女性だった。
黄金の髪にアメジストの瞳。
女性はゆっくりと歩いて四人の側に立つ。
「私がどのような者か、あなた達は分かりますか?」
豪華な応接間の扉が開かれた。
「あの、俺達どうしてここに‥‥連れて来られたんでしょうか?」
「お、俺達は何も‥ただ楽しく飲んでただけで‥‥なぁ?」
「おお‥楽しく皆で飲んでただけですけど‥‥」
「俺達に一体何の用があってこちらに呼ばれたのでしょうか?」
四人はキョロキョロと辺りを見回す。
「急にお連れしましたことはお詫び致します。ですが、王太子殿下が皆様にお話があるとのことなので、どうぞご理解下さい」
「話ってなんですか!」
「何の話があるんですか!」
声を荒げ、動揺を隠す事ができないでいる。
「俺達急いでいるんです!早く帰らせてもらえませんか?」
「そ、そうです!俺これから用があって急いでいるんです!」
何故か皆が挙動不審になっている。
「そう急がずに、ぜひお茶でも召し上がって下さい。お酒がよろしければ今すぐにご用意致しますよ」
ヘイルズの落ち着いた口調と対照的にそわそわと落ち着きがなく、一度腰掛けたソファーから立ち上がろうとする。
「早く帰らせて下さい!」
一人が苛立ったように声を張る。
「酒を飲んで楽しんでいた男達が、そんなに急ぐとは、何か聞かれて困ることでも抱えているのかと怪しまれるぞ」
そこに一人の男性が入って来ると扉は閉められた。
シンプルな装いだが背の高いその男性は、同性でも見惚れるほどの整った顔をし威厳がある。
低く艶のある声に四人は一層落ち着かなくなる。
「何も‥‥ただ俺は疲れていて」
「ここに泊まってもらっても構わない。
今日はゆっくりしていってくれ」
「冗談はやめて下さい!」
「冗談ではない。話が長くなりそうなんでな」
「‥‥」
四人は顔を見合わせる。
歳の頃は全員が三十前後のように見える。
「お前達はアルンフォルトの人間だな?」
「え⁈何故ですか?」
一人が驚いた声を上げる。
「お前達をここに案内したその男は、先ほどからずっとアルンフォルトの言葉を使っている。
このダルトタナードと言葉はほとんど同じでさほど違いがないから生活には困らないだろうが、やはり発音の仕方が違う。話し方の癖に国の違いは出ている。
俺もアルンフォルトの言葉を使っている。自然な会話が成り立っていることこそ、お前達がアルンフォルトの人間だという証拠だろう」
「‥‥だから何だと言うのですか?」
「そうですよ!きちんと手続きをしています。この国にいても問題ないはずです」
今度は強気に責め立てる。
彼らが動揺しているのは明らかだ。
「ああ、問題ない。もちろん歓迎しよう」
「‥‥あの‥‥」
「この方が我が国ダルトタナードの王太子殿下です」
「⁈」
皆が青ざめた‥‥
「そう青くならなくてもよい。話を聞くだけだ」
「この国の王太子殿下が俺達のような平民に一体何の話を聞きたいと言うのですか?俺達は話すようなことは何もありませんが」
色黒で体格の良い男は先ほどから四人の中でもしっかりとした受け答えをしている。
この中のリーダーだろう。
「お前達はアルンフォルトで何の仕事をしていた?」
黙り込む男達にベルラードはさらに質問する。
「何故言えないのだ?見るからにお前達四人は肉体労働者のようだか何か力が必要な仕事ではないのか?」
「‥‥」
「言えないとは怪しいものだ。では質問を変えよう。何の仕事ではなく、何処で働いていた?場所なら言えるか?」
「‥‥」
「それもだんまりか‥‥。不思議だな。
この国に入る手続きを正式にしたのなら何処にいたか、この国で住むつもりなら理由も書いたであろう?」
「‥‥」
「言わないのなら書類を探させよう。
いつこの国に入ったのだ?」
「何故ですか?無礼を承知で申し上げます。俺達はアルンフォルトでたいした仕事もなく、生活に困っていた為にこの国に来て仕事を探し、生計を立てようと思っていたのです。それに何の問題がありますか?
手続きをしてこの国で働くアルンフォルトの人間も大勢います。
逆にアルンフォルトへ働きに出る人もいるでしょうが、俺達はダルトタナードを選びました。
何故俺達だけこの様にわざわざ呼ばれるんでしょうか?」
「そうか。それは喜ばしい話だ。
我が国は良い国だからそう言われることは大変に嬉しいことだが、犯罪者までは喜べないな」
「⁈」
四人は固まった‥‥
酒場からそのまま連れて来られた四人は、煌びやかな天井画の美しい応接間には不釣り合いの格好だ。
傍から見れば異様な光景といえる。
その広い部屋で四人は肩寄せ合い縮こまっている。
この姿は緊張とは違い、どう見ても何か隠し事がばれるのではないかと心底怯えているようだった。
「では俺よりもお前達に聞きたいことがある者を呼ぶとしよう」
王太子の合図で再び扉が開く。
そこに立っていたのは目も眩むほどに美しい一人の女性だった。
黄金の髪にアメジストの瞳。
女性はゆっくりと歩いて四人の側に立つ。
「私がどのような者か、あなた達は分かりますか?」
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