今日も、明日も、気まぐれで。

かるて

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卒業式 (1)

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 私にはずっと好きだった先輩がいた。でも、そんな先輩も、今日卒業していなくなる…。
 思い出す、私が1年だった頃の4月ー…
「なぁ、俺の部活に入らないか?」
前から知っていて、好きな先輩そう言われた時、嬉しかった。
 その部活は『送球部』だった。ボールのコントロールに自身がなかった。だから、
「自分が投げたい方向にボール投げれないよ?戦力になれるかどうか…」
「ならば、マネージャーやってよ」

 そうして、マネージャーをすることになった。
 普段はおっとりしてて、ボールを投げたりしている姿がイメージ出来なかった。どっちかと言うとミスが多いのかと…。けれど、シュートを決める時は凄くかっこよかった。
「お疲れ様!」
そう言って、ドリンクとタオルを渡す。すると、
「ありがとう」
と、私の好きなあの笑顔で言ってくれた。
「シュートかっこよかったよ?」
「まじで?」
夕方のグラウンド、夕日に照らされた先輩の顔は、ニヤニヤして上下に揺れながら上機嫌そうだった。

 先輩の引退試合。先輩は前半しか出ていなかった。先輩シュートが1本決まった時、
「やったーー!」
って誰よりも大きい声で叫んでしまって、恥ずかしかった。シュートを決めた先輩は、そんな私の方を見て、笑顔でガッツをした。私も先輩の方を見てガッツをした。
 後半は、ベンチで仲間を応援している背中はいつもより小さく見えて、抱きしめたい気持ちになった。
 結局、試合は負けてしまった。

 試合帰りの電車は、負けたのに暗くなかった。周りの人の迷惑になるほど元気だった。
「わー、俺の写真ない!」
「この時の俺の顔やべー!」
「この写真のお前、カッコイイやん!」
などなど、部活のグループに送られてきた写真を見て騒いでいた。
 もちろん、私のケータイにもその写真は送られているわけで、ちらーっと見てみた。発狂しそうになった。なぜなら、お互いガッツをしたあの時の写真があったから。恥ずかしながらも、つい保存してしまう。
「撮ってくれた人、ありがとう…」
小声でそう呟いた。
 下車駅について、皆が電車を出ようとする時
『キーン、バラバラバラ…』
お金の落ちる音がした。あの先輩が落とした。
「もう、なにやってるの?」
仕方ないなー、って拾うのを手伝った。気づけば号車に2人。最後の1枚の高価を拾おうとした時、手が触れた。顔を見つめあっていた。2人だけの空間だった。
「おーい、早く降りてこいよ!」
そんな声が聞こえて、はっ、として
「おっ、降りよう!」
私たちは電車を慌てて何もなかったのように降りたのだった。
 その後打ち上げがあったけど、話す機会は無いままに終わってしまった。

 それから、会うことはあったものの、話す機会はなく、卒業式の今日を迎えた。好きな気持ちは変わってなかった。
 先輩の名前が体育館いっぱいに響き渡って立って見えた背中は、逞しく見えた。背中だけでカッコイイ、っと思ってしまった。
 その時、先輩の姿と、入退場の時しか見れなかった。
心はなんだか複雑だった。

 卒業式が終わって、廊下を歩いていると1人で歩いてる先輩を見つけた。1度すれ違ったけど、今しかないと思った。
「先輩!!」
振り返って叫んだ。先輩はびっくりしたように振り向く。先輩は私の方に歩いてきた。
「ん?」
「ごっ、ご卒業おめでとうごさまいます。」
「ありがとう。これから帰るの?」
「今から、教室に戻るところ!先輩は?」
「今から帰ろうと思ってたとこ。教室まで送っていくよ。」
今、いるのは3階で、私の教室は2階にある。
 肩を並べて廊下を歩き始めた。暫く会話はなかったが、先輩が話し始めた。
「引退試合の日、お金ひらってくれてありがとうね。言えなかったからさ…」
「うん…。」
下を見たまま、返事した。
「あの日のシュート、良かったよ本当に。」
「ありがとう。」
いつもの、ニヤニヤして嬉しそうな感じだった。
 階段を降りる時、
「もっと話せばよかったな。」
先輩は先に階段を3段ほど降りていくも、私は階段の段を1も降りなかった。
 先輩は、横に並んでいない私に気づくと振り向いて、どうした?っと言って手を差し伸べてくれた。私はその手を掴もうと思った。だけど辞めた。
「…うん…話せばよかったね。でも、最後にこうやって話すことが出来て良かったよ。」
「最後だなんて言うなよ…。」
「もう、会えないでしょ?」
続けて私は、口を開く。
「先輩に会えて良かったです。楽しかったです。ありがとうございました。そして、さようなら。」
あえて、敬語で言った。先輩を追い抜かして階段を降りようとした時、手を捕まれて、引き寄せられて、後ろから抱きしめられた。
「わっ、」
「また会えるから!そんな事言うなよ…」
耳元で悲しそうな声がした。
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