超短くても怖い話【ホラーショートショート集】

戸影絵麻

文字の大きさ
157 / 605

第157話 真昼の死闘【後編】

しおりを挟む
 視界を黒い影がかすめたのは、人面犬の前足が私の胸に触れた、その瞬間だった。
 驚くほど近くで羽ばたきの音が聞こえたかと思うと、目の前に迫っていた人面犬が一声叫んで吹っ飛んだ。
 カア、カア、カアッ!
 黒い影の正体は、カラスだった。
 子猫ほどもある大きなカラスが空中でホバリングして、地面に尻もちをついた人面犬を見下ろしている。
 バウバウバウッ!
 牙を剥き出して人面犬が吠えた。
 その声を合図にしたかのように、カラスが急降下する、
 鋭い爪が人面犬の顔面を襲い、鮮血が飛び散った。
 きゃいんっ!
 情けない声を上げて逃げ出す人面犬。
 その上をいったん飛び過ぎて戻ってくると、カラスがぐんぐん高度を上げた。
 お尻をこっちに向けて、必死で逃げていく人面犬。
 凄まじい速度で滑空を開始する大ガラス。
 次の瞬間、恐ろしいことが起こった。
 カラスのくちばしが、人面犬の肛門に突き刺さったのだ。
 ぎゃあああっ!
 今度は人間の声で、人面犬が絶叫した。
 けれど、カラスの攻撃はそれだけでは済まなかった。
 くちばしで何かを咥えると、そのまま宙に舞い上がったのである。
 うっ。
 私は思わず口元を手で押さえた。
 人面犬の肛門からずるずると引き出されてきたのは、血まみれの腸だった。
 カラスに内臓を引きずり出されながらも、人面犬はよたよたと池に向かって走っていく。
 が、それも限界だった。
 池にたどり着いた瞬間、ボチャンと音がして、姿が見えなくなった。
 カラスが池の手すりに舞い降り、もう大丈夫、というように私のほうを振り返った。
「ありがとう」
 うなずいて、歩み寄る。
 カラスは池の土手を見ている。
 その方向に視線をやると、お尻の穴から血を流してボロぎれのように横たわった犬の死体が見えた。
「え?」
 声を上げたのはほかでもない。
 人面犬の顔が、ふつうの犬の顔に戻っていたからだ。
「どういうこと?」
 首をかしげる私に、「見ろ」と言わんばかりに首を回して、「カア」とカラスが鳴いた。
 そのくちばしが指す方角を見て、
「ひ」
 私は息を呑んだ。
 体長1メートルはありそうな、錦鯉が泳いでいる。
「まさか」
 私の声が聴こえたかのように、鯉が振り向いた。
 そして、にたりと笑ったのだ。
 あの、すけべオヤジみたいな、中年男の顔で。
 
 
 
 
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

ナースコール

wawabubu
大衆娯楽
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

10秒で読めるちょっと怖い話。

絢郷水沙
ホラー
 ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)

処理中です...