383 / 625
#359話 施餓鬼会㉔
しおりを挟む
住職が何件か電話を済ませると、それほど待たずにかなり高齢の猟師が2人、宿坊にやってきた。
「警察にも見回りしてくれって頼まれたけどなあ、こげに暑いんで昼間はやってられんよ」
「まあ、それでも和尚の頼みなら、聞いてやらんことはないけどなあ。で、わしらは何をすればいいんじゃ?」
そこからは私が説明を買って出た。
今朝早く、農業試験場の乳牛が襲われ、事態は一刻の猶予も許されないこと。
ただし、犯人を突き止めたいので、生け捕りにすることを優先し、罠を仕掛ける程度に留めること。
口には出さなかったが、後者の条件は超がつくほど重要である。
なんせ、私の推測が正しければ、いくら正気を失っているとはいえ、犯人は人間なのだ。
猟銃で撃ち殺したり、刃物で怪我をさせるなど、もってのほかだろう。
この実験の対象になるのは、G市の大学病院に入院していない、いわばフリーの感染症患者たちである。
この村には、うちの勇樹と同様、夜な夜な家を抜け出し、食べ物を求めて外をさ迷っている者が一定数居るに違いない。
日常生活においてはなかなか尻尾を出さない彼らを捕獲して、世間にその存在を知らしめる。
そうすることによって、腰の重い行政を動かすというのが、私の狙いなのだ。
最初は怪訝そうだった老人たちだが、具体的な罠の選定に話が移ると、俄然乗り気になった。
ある程度案が決まると、
「そういうことなら、さっそく準備してくるわ」
と2人肩を並べて帰って行った。
決行は明日の施餓鬼会法要の後。
彼らが行動するのはおそらく深夜だろうから、罠の設置はそれからでも十分間に合うはずだ。
「これからどうするんですか?」
帰り道、菜緒が訊いてきた。
気心も知れてきたので、私は事情を打ち明けることにした。
「実はうちにも、餓鬼病に罹患してる子供がひとりいるんだ」
「そうだったんですか」
「中学生の男の子なんだけど、おとといあたりから様子がおかしくて」
冷蔵庫の一件を話し、ゆうべ、寝たきりの父を襲ったのも彼ではないかと疑っていることも説明した。
「何か手を打たないと、今夜また、やっかいな事件が起こりかねない」
父はとりあえずG市の病院に入院しているから安全だとしても、まだ母や妹がいる。
あと、亜季だが、彼女はどうしても、被害者候補とは思えなかった。
いやそれどころか、むしろ…。
年齢を超越した妖艶さを身にまとった少女。
昨夜の出来事を思い出すだけで、複雑な気分になる。
また誘惑されたら、どうしよう。
私ははたして、彼女の誘惑に抗うことができるだろうか。
そうだ。
抑止力として、菜緒を同伴するのもいいかもしれない。
「一緒に来てくれないかな」
傍らを歩く小柄な女性に、私は言った。
「勇樹のやつ、ひとが変わったみたいになってて、どうも一対一で対面する気になれないんだ」
「警察にも見回りしてくれって頼まれたけどなあ、こげに暑いんで昼間はやってられんよ」
「まあ、それでも和尚の頼みなら、聞いてやらんことはないけどなあ。で、わしらは何をすればいいんじゃ?」
そこからは私が説明を買って出た。
今朝早く、農業試験場の乳牛が襲われ、事態は一刻の猶予も許されないこと。
ただし、犯人を突き止めたいので、生け捕りにすることを優先し、罠を仕掛ける程度に留めること。
口には出さなかったが、後者の条件は超がつくほど重要である。
なんせ、私の推測が正しければ、いくら正気を失っているとはいえ、犯人は人間なのだ。
猟銃で撃ち殺したり、刃物で怪我をさせるなど、もってのほかだろう。
この実験の対象になるのは、G市の大学病院に入院していない、いわばフリーの感染症患者たちである。
この村には、うちの勇樹と同様、夜な夜な家を抜け出し、食べ物を求めて外をさ迷っている者が一定数居るに違いない。
日常生活においてはなかなか尻尾を出さない彼らを捕獲して、世間にその存在を知らしめる。
そうすることによって、腰の重い行政を動かすというのが、私の狙いなのだ。
最初は怪訝そうだった老人たちだが、具体的な罠の選定に話が移ると、俄然乗り気になった。
ある程度案が決まると、
「そういうことなら、さっそく準備してくるわ」
と2人肩を並べて帰って行った。
決行は明日の施餓鬼会法要の後。
彼らが行動するのはおそらく深夜だろうから、罠の設置はそれからでも十分間に合うはずだ。
「これからどうするんですか?」
帰り道、菜緒が訊いてきた。
気心も知れてきたので、私は事情を打ち明けることにした。
「実はうちにも、餓鬼病に罹患してる子供がひとりいるんだ」
「そうだったんですか」
「中学生の男の子なんだけど、おとといあたりから様子がおかしくて」
冷蔵庫の一件を話し、ゆうべ、寝たきりの父を襲ったのも彼ではないかと疑っていることも説明した。
「何か手を打たないと、今夜また、やっかいな事件が起こりかねない」
父はとりあえずG市の病院に入院しているから安全だとしても、まだ母や妹がいる。
あと、亜季だが、彼女はどうしても、被害者候補とは思えなかった。
いやそれどころか、むしろ…。
年齢を超越した妖艶さを身にまとった少女。
昨夜の出来事を思い出すだけで、複雑な気分になる。
また誘惑されたら、どうしよう。
私ははたして、彼女の誘惑に抗うことができるだろうか。
そうだ。
抑止力として、菜緒を同伴するのもいいかもしれない。
「一緒に来てくれないかな」
傍らを歩く小柄な女性に、私は言った。
「勇樹のやつ、ひとが変わったみたいになってて、どうも一対一で対面する気になれないんだ」
2
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
女子切腹同好会
しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。
はたして、彼女の行き着く先は・・・。
この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。
また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる