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#360話 施餓鬼会㉕
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竹林を背景にし、水田に囲まれた両親の家は、奇妙なほど静まり返っていた。
大人の背丈ほど伸びたトウモロコシの列の背後に、そこだけ昏い空気に包まれたような平屋建ての屋敷が見える。
「何か変だな」
ママチャリをトウモロコシでできた生垣の前で止めると、私は首をかしげた。
「何かって、何がですか?」
無邪気な子供みたいな口調で菜緒が訊く。
「音がしない。こんな無音状態、初めてだ」
実家では数羽の鶏を飼っていて、これがけっこう喧しい。
明るいうちは、その鳴き声が絶えずBGMのように聴こえていた気がする。
その鳴き声が、一切しないのだ。
敷地に入ると、
「臭いますね」
菜緒が小さな鼻を指でつまみ、顔をしかめた。
「何の臭いでしょうか」
「確かに」
私はうなずいた。
空気の底に、ほんのかすかにだが、生臭いような妙に不快な匂いが沈殿している。
母屋に入る前に、庭の隅にある鶏小屋に回ってみた。
「くそ」
思わず、舌打ちしてしまった。
小屋の中は夥しい羽根と飛び散った血で目も当てられないほどだった。
四、五羽いた鶏の姿は一羽として当たらない。
「嫌な予感がする」
そう口に出した時、
「あれは何ですか?」
菜緒が突然、井戸のあたりを指差した。
古びた煉瓦を積み上げて作った井戸の周囲に、赤いものが飛び散っている。
血?
一瞬ドキッとしたが、目を凝らすと、その正体がわかった。
西瓜である。
母が井戸の中に沈めて冷やしていた西瓜がすべて引き上げられ、ぐちゃぐちゃに食い散らかされているのだ。
勇樹だ。
直感的に、そう思った。
父を襲ったものの目的を達することができなかった、あの餓鬼病の少年の仕業に違いない。
「まずいな」
真っ先に頭に浮かんだのは、年老いた母の顔だった。
父が不在の今、狙われるとしたら力の弱い老婆である母だろう。
「母さん、大丈夫か?」
母屋の玄関に駆け込み、大声で呼んでみた。
返ってくる声はなく、沈黙だけがあたりを支配している。
「おい、どこにいるんだ? 返事くらい,しろよ」
廊下をめぐりながらひと通り部屋部屋をのぞいてみたが、どこにも母の姿はない。
「そんな、まさか…」
戻ってきた私の表情をひと目見て、
「大丈夫ですか?」
玄関口で待っていた菜緒が心配そうに訊いてきた。
「来てくれ。離れだ。何か大変なことが起きたらしい」
菜緒の右手首をつかむと、私は転がるように離れのほうに向かって駈け出した。
大人の背丈ほど伸びたトウモロコシの列の背後に、そこだけ昏い空気に包まれたような平屋建ての屋敷が見える。
「何か変だな」
ママチャリをトウモロコシでできた生垣の前で止めると、私は首をかしげた。
「何かって、何がですか?」
無邪気な子供みたいな口調で菜緒が訊く。
「音がしない。こんな無音状態、初めてだ」
実家では数羽の鶏を飼っていて、これがけっこう喧しい。
明るいうちは、その鳴き声が絶えずBGMのように聴こえていた気がする。
その鳴き声が、一切しないのだ。
敷地に入ると、
「臭いますね」
菜緒が小さな鼻を指でつまみ、顔をしかめた。
「何の臭いでしょうか」
「確かに」
私はうなずいた。
空気の底に、ほんのかすかにだが、生臭いような妙に不快な匂いが沈殿している。
母屋に入る前に、庭の隅にある鶏小屋に回ってみた。
「くそ」
思わず、舌打ちしてしまった。
小屋の中は夥しい羽根と飛び散った血で目も当てられないほどだった。
四、五羽いた鶏の姿は一羽として当たらない。
「嫌な予感がする」
そう口に出した時、
「あれは何ですか?」
菜緒が突然、井戸のあたりを指差した。
古びた煉瓦を積み上げて作った井戸の周囲に、赤いものが飛び散っている。
血?
一瞬ドキッとしたが、目を凝らすと、その正体がわかった。
西瓜である。
母が井戸の中に沈めて冷やしていた西瓜がすべて引き上げられ、ぐちゃぐちゃに食い散らかされているのだ。
勇樹だ。
直感的に、そう思った。
父を襲ったものの目的を達することができなかった、あの餓鬼病の少年の仕業に違いない。
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「大丈夫ですか?」
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「来てくれ。離れだ。何か大変なことが起きたらしい」
菜緒の右手首をつかむと、私は転がるように離れのほうに向かって駈け出した。
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