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#17 餌食

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 職員のデータべースを検索した結果、色々なことがわかった。

 オペレーターの娘は、柚月詩織27歳。

 独身で、ある特殊な性癖を持ってる。

「これは使えるな」

 データ画面を眺めながら、矢崎は思った。

 死んだ美晴によく似ていたので偶然声をかけただけなのだが、どうやらとんでもない僥倖を手にしたようだ。

 昼休み。

 社員食堂でアイスコーヒーを飲んでいると、定食を盛った皿を乗せたトレイを抱えて柚月詩織がやってきた。

「私、前から気になってたんですけど、”黒い羊”って、何なんですか?」

 席に着くなり、開口一番訊いてきた。

「3号や4号の前についてるMは、ミュータントのMなんですよね?」

 詩織は、美晴同様、好奇心旺盛な性格らしかった。

「突然変異なのか、まったくの別種なのか、個体数が少なすぎてよくわからないというのが、正直なところだ。人類の進化形なのか、ただの奇形児なのか、そのあたりも含めてね。ただ、はっきりしているのは、彼らが人間にない器官を所有しているということ。武器にも感覚器にも生殖器にもなる不可視の器官をね。我々はそれを”駆動体”と呼んでいる」

「駆動体?」

「ああ。1か月ほど前に立て続けに起こった惨殺事件は、どれもM3号のの駆動体によるものさ。野放しになったM3号は、このまま放置しておけば、必ず同じことを繰り返す。早く止めなければ、また多くの犠牲者が出る」

「確かM3号は、旧研究所を破壊して脱走したんでしたよね?」

「建物を破壊しただけじゃない。あの事件で、何十人という罪のない人間が死んだ。はっきり言って、”彼女”はすでに研究対象ですらない。駆除すべき害獣なんだ」

「でも、駆除といっても、人間の力で可能なんでしょうか? それこそ核兵器でも使わないと・・・」

「無茶いうなよ」

 矢崎は苦笑した。

「何も我々人間が手を汚すことはない。そのために、M4号がいる」

「まさか」

 詩織の頬から血の気が引いた。

「ミュータント同士を戦わせて、お互い自滅させるとでも?」

「究極の完全生物である黒い羊同士には、仲間意識なんてこれっぽっちもない。どうやら、同類は餌だと思っている節がある。その習性を利用するんだよ。ただ、問題は、生まれてからずっと人間の中で暮らしてきた4号のほうが、明らかに3号に比べ、能力が劣っていることだ。彼女は自分が黒い羊であるという認識が薄いため、自在に駆動体を発現できないようなのだ」

「じゃあ、どうしたら・・・」

 箸を休めて考え込む詩織。

「時にデータベースを調べさせてもらったが、柚月君、君はLGBTなんだってね」

 一見無関係に見える話題に転じると、詩織が身体をびくっと震わせた。

「履歴書に明記したところを見ると、別段、隠す気はなさそうだが」

「ええ」

 観念したように、詩織がうなずいた。

「別に、恥ずかしいことだとは思っていませんから」

「なら、ちょうどいい」

 矢崎はテーブルの上に身を乗り出した。

「君にひとつ頼みたいことがあるんだが・・・。M4号を性的に誘惑して、黒い羊のペルソナを外に引きずり出してくれないか」
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