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ACT6 帝国の魔手

#6 ハル①

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 そのショッピングモールは、港の近くに位置していた。
 きのう、怪人たちが出現した倉庫街のすぐ近くである。
 N市の中でもこのあたりは最近開発が進んでいて、遠浅の海を干拓して広げた陸地に、さまざまな商業施設が進出している。
 その中でもこのIONベイシティ店は、老舗の部類に入るほうだといっていい。
 廉価を売り物にしたショッピングモール街に専門店街をくっつけ、そこに更にシアターを足したいわゆる複合施設というやつである。
 生活雑貨の大半はここでそろうし、ゲームセンターやフードコートも完備していて遊び場、休憩場所にも事欠かないため、休日になると近隣地域から家族連れや小中高生、また暇を持て余した老人たちが押しかけてくる。
 ハルは店の前に広がる平面駐車場でタクシーを止めさせると、キャッシュカードで料金を払い、さっそうと車を降りて、5階建ての店舗を見上げた。
 きょうのハルは、昨日と同じ、黒いリクルートスーツに赤いコート姿。
 アリアもそうだが、いい加減、新しい服を新調しなければならないと思う。
 刑事であるからして、あまり目立つのも考えものだが、多少女らしくしてもよいかもしれない。
 ハルの前を、後から降りてきたリコとアリアが歩いていく。
 仲の良い姉妹のように手をつなぎ、アリアときたら時折馴れ馴れしくリコの身体に身を摺り寄せている。
 ちくりと嫉妬が胸を刺した時、セラフィムが下卑た口調でささやいた。
『あらあら、おハルどん、妬いてるんと違いまっか? ふひふひ、ああ見えてもアリアはあんさんより乳がおっきいさかい、下手するとリコをとられるんやないかと心配してますやろ?』
「何がおハルどんだ。いちいち人の心の中を読むんじゃない。これ以上、余計な事を言うと、コネクトを切るぞ』
 ハルは機嫌が悪い。
 セラフィムに指摘されるまでもなく、原因はアリアにある。
 タクシーの中でもアリアはリコにぴったりくっつき、まるで年下の恋人のように甘えていたのだ。
 といっても、アリアを責めるつもりはない。
 責められるべきはリコのほうである。
 ゆうべしっかり調教したと思ったのに、いきなりこの裏切り行為とは。
 早くも締めるべき時がきてしまったか。
 まあ、いい。
 ショッピングの合間に隙を見つけて、一度痛い目に遭わせてやるほかあるまい。
 そう考えると、潮が引くように嫉妬の感情が収まっていった。
 

 
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