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#28 地下迷宮①
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「そういうことか」
報告を聞くなり、梟和尚が言った。
「そんなことではないかと、思ってはいたが」
口をほとんど動かさないしゃべり方は、相変わらずだ。
翌日の夜、地獄極楽寺本堂である。
例によって蝋燭の灯だけが唯一の光源である中、冷え冷えとした空間に夜叉姫たち3人の仕留屋が集っていた。
「はあ? なんじゃそれは? 和尚には最初からあれが何か、わかってたとでもいうのか?」
噛みつく夜叉姫。
こちとら、死人の沈む沼だの変な魚人の襲撃だので、もうへとへとなのだ。
真相を知っているなら、初めから教えておいてほしかったと、そう思う。
「時にその鳥居の文字だが、こうではなかったかな」
和尚が指で宙に描いたのは、どうやら、
虫偏に『至』のようだ。
そして、二文字目は『子』。
「確かそうだと思ったけど、始めの文字は右側が消えかけてて、読めなかった」
「それで”えびす”と読むのか。なんだか変な当て字だな」
犬丸も、どことなく腑に落ちぬ風情である。
「えびす信仰の源は、海辺に流れ着く漂着物。あの神社の位置からして、海も近い」
「そうなのか? けど、すっかり壊されてて、ご神体もなにも拝めなかったからな」
「そうなのじゃ。あったのは、でっかい生け簀だけ」
「おそらく、そこに居たのだろうよ、本物のえびすの正体が」
「本物のえびす?」
「ふたりとも、あとは古事記でも読んで学ぶがよい。時に撫佐」
夜叉姫と犬丸の出来の悪さに辟易したのか、和尚が撫佐に声をかけた。
「石上神宮、首尾はどうだった?」
「はあ、それが」
闇の中から撫佐が床を滑らせて寄こしたのは、今にも折れそうな、朽ち果てた弓である。
「残っておったのはこれだけじゃった。後はすべて、盗まれたのか、売り払われたのか」
「ふむ。天照の弓か。かなりの年代物だが、それもよかろう。夜叉姫に持たせてやれ」
「こんな汚らしい弓、うちにどうしろと?」
拾い上げ、顏をしかめる夜叉姫。
「だいたい、つがえる矢もないぞ」
「いずれ役立つ時がくる。ところで決行の日取りだが」
和尚が3人を順繰りに見回した。
「獲物がこれだけ大物となると、早いほうがいい。明日の夜半でどうかな」
「俺は別にかまわないが」
「うちも」
「わしもだ」
「では、そういうことで」
お開きの合図に、立ち上がりかけた和尚の背中に、こらえきれず夜叉姫は声をかけた。
「ちょっと和尚。教えておくれよ。大物の獲物って、いったいなんなのさ?」
「まだわからぬのか」
背中を向けたまま、和尚が言った。
「神じゃよ。おまえたちの仕留める相手は、この国最大最凶の邪神なのだ」
報告を聞くなり、梟和尚が言った。
「そんなことではないかと、思ってはいたが」
口をほとんど動かさないしゃべり方は、相変わらずだ。
翌日の夜、地獄極楽寺本堂である。
例によって蝋燭の灯だけが唯一の光源である中、冷え冷えとした空間に夜叉姫たち3人の仕留屋が集っていた。
「はあ? なんじゃそれは? 和尚には最初からあれが何か、わかってたとでもいうのか?」
噛みつく夜叉姫。
こちとら、死人の沈む沼だの変な魚人の襲撃だので、もうへとへとなのだ。
真相を知っているなら、初めから教えておいてほしかったと、そう思う。
「時にその鳥居の文字だが、こうではなかったかな」
和尚が指で宙に描いたのは、どうやら、
虫偏に『至』のようだ。
そして、二文字目は『子』。
「確かそうだと思ったけど、始めの文字は右側が消えかけてて、読めなかった」
「それで”えびす”と読むのか。なんだか変な当て字だな」
犬丸も、どことなく腑に落ちぬ風情である。
「えびす信仰の源は、海辺に流れ着く漂着物。あの神社の位置からして、海も近い」
「そうなのか? けど、すっかり壊されてて、ご神体もなにも拝めなかったからな」
「そうなのじゃ。あったのは、でっかい生け簀だけ」
「おそらく、そこに居たのだろうよ、本物のえびすの正体が」
「本物のえびす?」
「ふたりとも、あとは古事記でも読んで学ぶがよい。時に撫佐」
夜叉姫と犬丸の出来の悪さに辟易したのか、和尚が撫佐に声をかけた。
「石上神宮、首尾はどうだった?」
「はあ、それが」
闇の中から撫佐が床を滑らせて寄こしたのは、今にも折れそうな、朽ち果てた弓である。
「残っておったのはこれだけじゃった。後はすべて、盗まれたのか、売り払われたのか」
「ふむ。天照の弓か。かなりの年代物だが、それもよかろう。夜叉姫に持たせてやれ」
「こんな汚らしい弓、うちにどうしろと?」
拾い上げ、顏をしかめる夜叉姫。
「だいたい、つがえる矢もないぞ」
「いずれ役立つ時がくる。ところで決行の日取りだが」
和尚が3人を順繰りに見回した。
「獲物がこれだけ大物となると、早いほうがいい。明日の夜半でどうかな」
「俺は別にかまわないが」
「うちも」
「わしもだ」
「では、そういうことで」
お開きの合図に、立ち上がりかけた和尚の背中に、こらえきれず夜叉姫は声をかけた。
「ちょっと和尚。教えておくれよ。大物の獲物って、いったいなんなのさ?」
「まだわからぬのか」
背中を向けたまま、和尚が言った。
「神じゃよ。おまえたちの仕留める相手は、この国最大最凶の邪神なのだ」
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