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#29 地下迷宮②
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丸一日が過ぎー。
また子の刻がやってきた。
仕留め決行の時である。
月明かりを浴びて、夜叉姫は、聚楽第の瓦礫の中に佇んでいる。
両側には、夜叉姫を護衛するように、撫佐と犬丸。
3人そろうと、不思議なことに不安も恐怖も吹き飛んだ。
「和尚の言葉の意味が、やっとわかったぜ」
荒廃した邸宅の跡を眺めながら、犬丸が誰にともなくつぶやいた。
「恵比寿の正体は、邪神ってあれ?」
「ああ。元はといえば、国産み神話だったんだな」
「国産み神話?」
犬丸の謎めいた言葉に、夜叉姫はぽかんと口を開けた。
「伊弉諾と伊邪那美のあれさ」
「わけがわからぬが」
「えびすは恵比寿であって、恵比寿ではない、まあ、そういうことだな」
「なんだ、それは? 判じ物か?」
「どんなものなのか、この眼で見てみないことには説明のしようがない。だから、これ以上は見てのお楽しみだ」
「ふん、どうせ廓の女郎からでも聞きかじったのじゃろ。もったいぶって、嫌な奴」
瓦礫の中を抜け、本丸のあったあたりに行きつくと、そこだけまったくの更地になっていた。
平らにならされた地面に、巨大な図形が描かれている。
「五芒星」
夜叉姫は言った。
あの夜、首抜けで上空から眺めた光景を思い出す。
あの時、この図形が光り輝き、秀次の怨霊はその光芒に呑み込まれるようにして、ここで姿を消したのだ。
「いや、そうではない。よく見ろ。角が六つある」
「あ、ほんとだ」
図形は三角をふたつ、逆さに重ねたような形をしている。
五芒星ではなく、六芒星なのだ。
「六芒星、つまり、籠目の紋章」
ぼそりと撫佐がつぶやいた。
「五芒星なら清明紋とも言って護法の印だが、籠目となると・・・」
「なんだ。角がひとつ多いだけで、そんなに縁起が悪いのか?」
「それより、どうする? 入口らしきものはどこにもないぞ。あんとき、関白、確かにここで消えたよな?」
図形に沿って地面を調べながら、犬丸が夜叉姫の言葉を遮った。
「それに、そもそもこれはなんだ? 六つの頂点に、人の顔の絵が描いてある」
撫佐が腰をかがめ、地面に顔を近づけた。
「七福神だな。六芒星の頂点にひとりずつで、六人。そして七人目が、あれだ」
撫佐が指差したのは、図形の中央だった。
そこに直径が一間ほどの大きな円があり、その中には確かに人の顔が描かれているようだ。
「真ん中のあれは、恵比寿じゃな?」
その正体に気づいて、夜叉姫は言った。
あの絵、絵馬に描かれていた恵比寿の似絵にそっくりだ。
「むう、どうなってる? この絵、踏むとしばらく光っているが、じきに光が消えてしまう。これが全部光ると入口が開くとか、そういう絡繰りじゃないのかよ?」
犬丸の不満そうな声に、ふと閃いた。
なるほど、これぞ判じ物。
しかし、それにしても、己の聡明さが怖くなるほどだ。
「わかった」
夜叉姫は、目当ての頂点に飛び乗った。
大黒天の絵の上である。
足元が、とたんにぼうっと燐光を発して明るくなる。
「宝の船に、七福神は、恵比寿天、大国天、弁財天、毘沙門天、布袋尊、福禄寿、寿老人の順に乗っておる。確かそうではなかったか?」
また子の刻がやってきた。
仕留め決行の時である。
月明かりを浴びて、夜叉姫は、聚楽第の瓦礫の中に佇んでいる。
両側には、夜叉姫を護衛するように、撫佐と犬丸。
3人そろうと、不思議なことに不安も恐怖も吹き飛んだ。
「和尚の言葉の意味が、やっとわかったぜ」
荒廃した邸宅の跡を眺めながら、犬丸が誰にともなくつぶやいた。
「恵比寿の正体は、邪神ってあれ?」
「ああ。元はといえば、国産み神話だったんだな」
「国産み神話?」
犬丸の謎めいた言葉に、夜叉姫はぽかんと口を開けた。
「伊弉諾と伊邪那美のあれさ」
「わけがわからぬが」
「えびすは恵比寿であって、恵比寿ではない、まあ、そういうことだな」
「なんだ、それは? 判じ物か?」
「どんなものなのか、この眼で見てみないことには説明のしようがない。だから、これ以上は見てのお楽しみだ」
「ふん、どうせ廓の女郎からでも聞きかじったのじゃろ。もったいぶって、嫌な奴」
瓦礫の中を抜け、本丸のあったあたりに行きつくと、そこだけまったくの更地になっていた。
平らにならされた地面に、巨大な図形が描かれている。
「五芒星」
夜叉姫は言った。
あの夜、首抜けで上空から眺めた光景を思い出す。
あの時、この図形が光り輝き、秀次の怨霊はその光芒に呑み込まれるようにして、ここで姿を消したのだ。
「いや、そうではない。よく見ろ。角が六つある」
「あ、ほんとだ」
図形は三角をふたつ、逆さに重ねたような形をしている。
五芒星ではなく、六芒星なのだ。
「六芒星、つまり、籠目の紋章」
ぼそりと撫佐がつぶやいた。
「五芒星なら清明紋とも言って護法の印だが、籠目となると・・・」
「なんだ。角がひとつ多いだけで、そんなに縁起が悪いのか?」
「それより、どうする? 入口らしきものはどこにもないぞ。あんとき、関白、確かにここで消えたよな?」
図形に沿って地面を調べながら、犬丸が夜叉姫の言葉を遮った。
「それに、そもそもこれはなんだ? 六つの頂点に、人の顔の絵が描いてある」
撫佐が腰をかがめ、地面に顔を近づけた。
「七福神だな。六芒星の頂点にひとりずつで、六人。そして七人目が、あれだ」
撫佐が指差したのは、図形の中央だった。
そこに直径が一間ほどの大きな円があり、その中には確かに人の顔が描かれているようだ。
「真ん中のあれは、恵比寿じゃな?」
その正体に気づいて、夜叉姫は言った。
あの絵、絵馬に描かれていた恵比寿の似絵にそっくりだ。
「むう、どうなってる? この絵、踏むとしばらく光っているが、じきに光が消えてしまう。これが全部光ると入口が開くとか、そういう絡繰りじゃないのかよ?」
犬丸の不満そうな声に、ふと閃いた。
なるほど、これぞ判じ物。
しかし、それにしても、己の聡明さが怖くなるほどだ。
「わかった」
夜叉姫は、目当ての頂点に飛び乗った。
大黒天の絵の上である。
足元が、とたんにぼうっと燐光を発して明るくなる。
「宝の船に、七福神は、恵比寿天、大国天、弁財天、毘沙門天、布袋尊、福禄寿、寿老人の順に乗っておる。確かそうではなかったか?」
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