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#35 最後の仕留め

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 ”あれ”とは、そう・・・。
 天照の弓ー。
 アマテラス大神が残した、聖なる武器ー。
 -そもそも、化生とは、地上に流されし蛭子の血を引く者。つまりは、神々の子孫。天照と性を同じくするおまえなら、その弓、使いこなせるはずー
 背中に括りつけていた弓を、手に取った。
 朽ちた枝みたいだったそれは、今や蛭子に負けぬくらい、神々しく光り輝いている。
「夜叉、矢ならここに」
 姉者が言い、槍と化した髪の束を弓につがえてくれた。
 生け簀の中では、秀次相手に、犬丸と撫佐が懸命に渡り合っている。
 夜叉姫は、矢をつがえた弓を、今しも黄金の液体の中から立ち上がろうとしてる裸の女に向けた。
 あんなもの、ここから出すわけにはいかない。
 呪われるのが秀吉ひとりならまだいいが、おそらくそうはいかないに違いない。
 蛭子はおそらく、己を捨てた神々が創ったこの世界自体を呪っているはずだ。
 秀次を利用し、肉体を手に入れたら、全世界を滅ぼすつもりに違いない。

 きりきりと弦をしぼる。
 どこからか、無限の力が流れ込んでくる。
 これがお日様の力、アマテラスの力なのだろうか。
 気配に気づいたのか、女がはっとこっちを向いた。
 眉間に3番目の眼が開いている。
 やはりあれは人間じゃない。
 悪魔ー。

 夜叉姫の手が、弦から離れた。
 ひと筋の光が宙を引き裂いて飛びー。
 そして、絶叫が大地を揺るがした。
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