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#34 邪神覚醒
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古事記には、こうある。
かつて、この国が産まれた時、伊弉諾と伊邪那美の二柱の神から、最初の子が誕生した。
手も足もなく、骨すらもないその子は、不具ということで、葦舟に乗せて流されたという。
それが、蛭子。
神々に不要とされた失敗作である。
蛭子は人間界に流れ着き、漂着神として祀られ、やがて皮肉なことに福の神、恵比寿とされた。
が、その本体は死滅しておらず、神々に棄却された怨念も消えていなかった。
そうして今、その怨念を己の野望のために利用しようとする輩がいる。
「秀次、出てこいよ。おまえがここにいることは、もうわかってるんだ」
犬丸がため口を叩いた、その時だった。
黄金色の液体が盛り上がり、全裸の男の姿をとった。
20代後半くらいの、美しい顔立ちをした若者である。
「またおまえたちか。何故、私の邪魔をする」
秀次の双眸が不気味に光る。
黒目のない、金色に塗り潰された金貨のような眼だ。
死んだはずのこの男が生きているのは、蛭子の力に違いなかった。
太古の神と融合すれば、不老不死を手に入れたも同然だからだ。
「俺たちのは、ただの仕事さ。金を積まれて頼まれたから、おまえを仕留めに来た」
「馬鹿な。もう少しで、聖なる降臨が完了するというものを」
秀次の言葉を合図にしたかのように、蜂蜜色の液体が透明度を増し始めた。
その中でたゆたっているのは、ひとりの巨大な女だった。
完璧な顔、完璧な腕、完璧な胴、完璧な脚を持つ、女神のような女である。
「おまえ、これを創ってたのか」
吐き捨てるように、犬丸が言った。
「夜な夜な辻斬りをして、集めた材料でこしらえたのが、その人造人間か」
「私は神に姿を与えるのだ。そして、あの糞猿から天下を取り戻す」
夜叉姫にも分かった。
クソ猿とは、豊臣秀吉のことに違いない。
「俺には難しいことはわからないが、人間が神さまをつくるってのは、どっか間違ってるんじゃないかな」
言うなり、犬丸の手から十本の刃が伸びた。
耳が尖り、口が耳元まで裂けていく。
「待て、犬丸」
夜叉姫の制止を無視して、犬丸が跳んだ。
「くっ、あの馬鹿めが」
毒づいたと思うと、撫佐も後に続いた。
「こら、ふたりとも!」
取り残された夜叉姫は、茫然とふたりの背中を見送った。
その耳に、どこからか、梟和尚の声が聞こえてきた。
-姫、今だ。秀次がふたりに気を取られているうちに、”あれ”を使えー
かつて、この国が産まれた時、伊弉諾と伊邪那美の二柱の神から、最初の子が誕生した。
手も足もなく、骨すらもないその子は、不具ということで、葦舟に乗せて流されたという。
それが、蛭子。
神々に不要とされた失敗作である。
蛭子は人間界に流れ着き、漂着神として祀られ、やがて皮肉なことに福の神、恵比寿とされた。
が、その本体は死滅しておらず、神々に棄却された怨念も消えていなかった。
そうして今、その怨念を己の野望のために利用しようとする輩がいる。
「秀次、出てこいよ。おまえがここにいることは、もうわかってるんだ」
犬丸がため口を叩いた、その時だった。
黄金色の液体が盛り上がり、全裸の男の姿をとった。
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「またおまえたちか。何故、私の邪魔をする」
秀次の双眸が不気味に光る。
黒目のない、金色に塗り潰された金貨のような眼だ。
死んだはずのこの男が生きているのは、蛭子の力に違いなかった。
太古の神と融合すれば、不老不死を手に入れたも同然だからだ。
「俺たちのは、ただの仕事さ。金を積まれて頼まれたから、おまえを仕留めに来た」
「馬鹿な。もう少しで、聖なる降臨が完了するというものを」
秀次の言葉を合図にしたかのように、蜂蜜色の液体が透明度を増し始めた。
その中でたゆたっているのは、ひとりの巨大な女だった。
完璧な顔、完璧な腕、完璧な胴、完璧な脚を持つ、女神のような女である。
「おまえ、これを創ってたのか」
吐き捨てるように、犬丸が言った。
「夜な夜な辻斬りをして、集めた材料でこしらえたのが、その人造人間か」
「私は神に姿を与えるのだ。そして、あの糞猿から天下を取り戻す」
夜叉姫にも分かった。
クソ猿とは、豊臣秀吉のことに違いない。
「俺には難しいことはわからないが、人間が神さまをつくるってのは、どっか間違ってるんじゃないかな」
言うなり、犬丸の手から十本の刃が伸びた。
耳が尖り、口が耳元まで裂けていく。
「待て、犬丸」
夜叉姫の制止を無視して、犬丸が跳んだ。
「くっ、あの馬鹿めが」
毒づいたと思うと、撫佐も後に続いた。
「こら、ふたりとも!」
取り残された夜叉姫は、茫然とふたりの背中を見送った。
その耳に、どこからか、梟和尚の声が聞こえてきた。
-姫、今だ。秀次がふたりに気を取られているうちに、”あれ”を使えー
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