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#33 地下迷宮⑤
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「行くぞ!」
犬丸が吠え、両腕を打ち下ろした。
シャキンッ!
硬質な音が響き、両手の指が刃に変わる。
「うおおおおおっ!」
そのまま、両手を広げて人形たちめがけて突進する。
「相変わらず、無茶な奴だ」
撫佐がぼやき、夜叉姫の細い胴を横抱きにした。
前方では、犬丸が薙ぎ払うように振り回した両手の刃が、十体ほどの人形を跳ね飛ばしていた。
視界が開き、正面の洞穴がはっきり見えた。
夜叉姫が撫佐の首っ玉にしがみつくと、突破口に向かって走りながら、撫佐が自由になった両腕を広げた。
皮膜が広がり、空気を受け、夜叉姫ごと宙に舞い上がる。
地面すれすれを飛び、洞穴の直前で着地した。
その時にはすでに、犬丸も追っ手を振り切り、すぐそこまで来ている。
「早く行け!」
犬丸の吠え声に尻を叩かれるように、微光を放つ洞穴に飛び込んだ。
「わっ!」
傾斜に足を取られ、尻もちをつく。
洞穴の中は、急角度の坂になっていた。
床にも壁にも凹凸がなく、立ち上がることもおぼつかない。
「何だよこりゃ?」
「不覚だった」
喚きながら三人仲良く、曲がりくねる空洞を滑空していく。
角に差し掛かるたびに身体が右に左に大きく振られ、夜叉姫は今にも吐きそうだ。
もうダメ! 吐く!
観念しかけた時、尻の下から床が消えた。
「いて!」
「痛っ!」
「ぐふ」
どうやら洞穴から飛び出して、数間下の新たな地面に投げ出されたらしい。
「どこだよ、ここ?」
頭を抱えて、犬丸が立ち上がる。
金色の光に満たされた、妙に明るい空間だ。
少し先に、平らな地面に開いた方形の穴が見える。
黄金色の光は、その中から差してきているようだ。
ふらつく足で、縁に立った。
「これは・・・あの、恵比寿神社の・・・」
夜叉姫は眼を見開いた。
そっくりだった。
あの破却された神社で見た、謎の生け簀と。
違いは、こっちの生け簀には蜂蜜みたいな液体が八分目近くまで溜まっていることだ。
そして、その液体は、生きているように見えた。
風もないのに、あちこちでさざ波のようなものが立ち、全体が息を吸うようにゆっくりと蠢動しているのだ。
「これが恵比寿の正体だ」
憮然とした表情で、撫佐がつぶやいた。
「まさか、本当に生きていたとは」
「これ、やっぱり生き物なのか?」
こみ上げる嫌悪感に耐えながら、夜叉姫はたずねた。
気持ち悪い。
でも、その反面、妙に懐かしい感じがする・・・。
なぜだろう?
「和尚が言ってたもうひとつの恵比寿の当て字、覚えてるか?」
答える前に、撫佐が逆に訊いてきた。
「確か、虫偏に至るって字と、子どもの子・・・」
「そうだ。最初の文字は、単独では『ヒル』と読む。あの田圃にいて人の血を吸う蛭のことだ」
「蛭に、子か…?」
そこまで来て、あっと思った。
そうか。
そういうことだったのか。
眼からうろこが落ちる思いで、夜叉姫はもう一度、生け簀の中を覗き込んだ。
今なら、和尚の言葉の意味がわかる。
これは、太古からの恨みを秘めた邪神・・・蛭子だったのだ。
犬丸が吠え、両腕を打ち下ろした。
シャキンッ!
硬質な音が響き、両手の指が刃に変わる。
「うおおおおおっ!」
そのまま、両手を広げて人形たちめがけて突進する。
「相変わらず、無茶な奴だ」
撫佐がぼやき、夜叉姫の細い胴を横抱きにした。
前方では、犬丸が薙ぎ払うように振り回した両手の刃が、十体ほどの人形を跳ね飛ばしていた。
視界が開き、正面の洞穴がはっきり見えた。
夜叉姫が撫佐の首っ玉にしがみつくと、突破口に向かって走りながら、撫佐が自由になった両腕を広げた。
皮膜が広がり、空気を受け、夜叉姫ごと宙に舞い上がる。
地面すれすれを飛び、洞穴の直前で着地した。
その時にはすでに、犬丸も追っ手を振り切り、すぐそこまで来ている。
「早く行け!」
犬丸の吠え声に尻を叩かれるように、微光を放つ洞穴に飛び込んだ。
「わっ!」
傾斜に足を取られ、尻もちをつく。
洞穴の中は、急角度の坂になっていた。
床にも壁にも凹凸がなく、立ち上がることもおぼつかない。
「何だよこりゃ?」
「不覚だった」
喚きながら三人仲良く、曲がりくねる空洞を滑空していく。
角に差し掛かるたびに身体が右に左に大きく振られ、夜叉姫は今にも吐きそうだ。
もうダメ! 吐く!
観念しかけた時、尻の下から床が消えた。
「いて!」
「痛っ!」
「ぐふ」
どうやら洞穴から飛び出して、数間下の新たな地面に投げ出されたらしい。
「どこだよ、ここ?」
頭を抱えて、犬丸が立ち上がる。
金色の光に満たされた、妙に明るい空間だ。
少し先に、平らな地面に開いた方形の穴が見える。
黄金色の光は、その中から差してきているようだ。
ふらつく足で、縁に立った。
「これは・・・あの、恵比寿神社の・・・」
夜叉姫は眼を見開いた。
そっくりだった。
あの破却された神社で見た、謎の生け簀と。
違いは、こっちの生け簀には蜂蜜みたいな液体が八分目近くまで溜まっていることだ。
そして、その液体は、生きているように見えた。
風もないのに、あちこちでさざ波のようなものが立ち、全体が息を吸うようにゆっくりと蠢動しているのだ。
「これが恵比寿の正体だ」
憮然とした表情で、撫佐がつぶやいた。
「まさか、本当に生きていたとは」
「これ、やっぱり生き物なのか?」
こみ上げる嫌悪感に耐えながら、夜叉姫はたずねた。
気持ち悪い。
でも、その反面、妙に懐かしい感じがする・・・。
なぜだろう?
「和尚が言ってたもうひとつの恵比寿の当て字、覚えてるか?」
答える前に、撫佐が逆に訊いてきた。
「確か、虫偏に至るって字と、子どもの子・・・」
「そうだ。最初の文字は、単独では『ヒル』と読む。あの田圃にいて人の血を吸う蛭のことだ」
「蛭に、子か…?」
そこまで来て、あっと思った。
そうか。
そういうことだったのか。
眼からうろこが落ちる思いで、夜叉姫はもう一度、生け簀の中を覗き込んだ。
今なら、和尚の言葉の意味がわかる。
これは、太古からの恨みを秘めた邪神・・・蛭子だったのだ。
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