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第6章 アンアン魔界行
#1 アンアン閑居して、不善をなそうとする
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「暑いな」
アンアンが言った。
夏休みも10日ほど過ぎ、暦は8月。
外はカンカン照りで、セミの声がまるで耳鳴りのよう。
アンアンは寝そべって、ファッション雑誌のページをめくっている。
暑いというけど、これ以上脱いだらヤバいという下着姿である。
肩紐のないフロントホックブラ。
下は腰のところを紐で結ぶスタイルの、ちっちゃなスキャンティ。
尻の部分はなぜかシースルーになっていて、桃の割れ目が半分ほど透けている。
僕はちゃぶ台に向かい、学校の課題と格闘中。
早い話、すべての課題を一日でやり終えたアンアンにノートを写させてもらえばいいのだが、それでは男としての沽券にかかわるというものだ。
「宿題なら、見せてやるぞ。もちろん、タダで」
雑誌に飽きたアンアンは、退屈なのか、さっきから色々茶々を入れてくる。
だいたいその格好だって、明らかに僕の集中力を乱すのが目的に違いない。
一寸法師戦から数日。
僕とアンアンは、一応相思相愛というカテゴリに落ち着いていた。
アンアンの僕への疑いは消え、僕のアンアンに対する及び腰気分もほぼ解消。
僕さえその気になれば、男女の一線を越えることも夢ではないのだが、今のところ、寝る前のお休みのキスまでで止めてある。
ひとつは、僕らがまだ15歳でしかないということ。
もうひとつは、やはり避けて通ることのできない、アンアンの父親問題。
アンアンの父親は、魔界の魔王である。
その魔王さまに、
「おのれ、大切なひとり娘を傷物にしおって!」
と睨まれたら、はっきり言って、僕の人生はそこでジ・エンドになってしまうからだ。
「聞こえてるか? 宿題なら、見せてやるって言ってるのに」
Hカップの胸をゆらゆら揺らしながら、アンアンが匍匐前進で近寄ってきた。
シースルーの下着越しにもりもり動くヒップが、悩ましすぎて、すでに破壊力抜群だ。
ボディソープの香りに混じって、なんだか鼻がむずむずするような、女の匂い。
「気持ちはうれしい。だが、断る」
はねつけるように、僕は言った。
来るな。
それ以上、近寄るんじゃない。
くそ。
英語の長文が、まるで頭に入らないじゃないか。
「どうしてだ? 元気は、どちらかというと、勉強が苦手だろう? 嫌いなものを無理してやることはない。そういうのは、身体に毒だと思うぞ」
アンアンが真横に来て、ちゃぶ台に顎を乗せる。
更に、よせばいいのに、猫みたいに身体を摺り寄せてくる。
勉強が、体に毒? ていうか、むしろおまえが目の毒なんだって。
「とにかく、断る。女に宿題を見せてもらうなんてのは、男の沽券にかかわるからだ」
「はあ? どうして宿題写すのが、男の股間に関わるんだ? あ、さては、元気」
アンアンがにんまり笑う。
「やっとする気になってくれたか。あの男女の交尾というやつを」
「股間でもないし、交尾でもない」
僕はむっとして言い返した。
もう、勉強する気力はすっかり雲散霧消してしまっている。
ああ、せっかく、一年に一度しかない、僕の貴重な”やる気スイッチ”ONの時だったのに。
「あたしはいつでもいいぞ。生理は終わったばかりだし、とっくの昔に心の準備もできている」
アンアンは、気のせいか目をギラギラさせている。
おいおい、魔族の娘にも生理があるのかよ。
と一瞬聞きたくなったけど、それをたずねると話が長くなりそうなので、やめておく。
それにしても、まずい事態だった。
暑さと退屈で、アンアンは盛りのついた雌猫状態だ。
このままでは、犯される。
そしてそれが魔王にばれたら、僕は死ぬ。
うーん。
ここはなんとか、アンアンの気をそらすものを見つけないと。
電話が鳴ったのは、その時だ。
僕の家の、今時珍しい黒いカブトムシ型のダイヤル式家電である。
まさに救いの神だった。
どうか、阿修羅からの遊びの誘いであってほしい。
「もしもし? 山田ですけど」
僕の声は、この時、少なからず生き生きしていたかもしれない。
『あ、元気か?』
と、受話器の向こうで、一ノ瀬が言った。
まあ、そんなところだろう、と思う。
僕の家に電話してくるもの好きなんて、この男ぐらいなものだからである。
「なんだ、おまえか。何の用だ? 旅行の企画でも、まとまったのか?」
一ノ瀬は、四人で旅行に行こうと張り切っている。
その件かと思ったのだ。
が、どうやら今回はそうではないようだった。
『いや、それはまだだ。行く先の選定で、蘭ちゃんと意見が合わなくてさ』
「なら、なんなんだ?」
『もらってほしいんだよね』
息をひそめるように、一ノ瀬が言った。
「もらうって、何を?」
『子どもだよ。まだ生まれたての赤ちゃんだけど』
アンアンが言った。
夏休みも10日ほど過ぎ、暦は8月。
外はカンカン照りで、セミの声がまるで耳鳴りのよう。
アンアンは寝そべって、ファッション雑誌のページをめくっている。
暑いというけど、これ以上脱いだらヤバいという下着姿である。
肩紐のないフロントホックブラ。
下は腰のところを紐で結ぶスタイルの、ちっちゃなスキャンティ。
尻の部分はなぜかシースルーになっていて、桃の割れ目が半分ほど透けている。
僕はちゃぶ台に向かい、学校の課題と格闘中。
早い話、すべての課題を一日でやり終えたアンアンにノートを写させてもらえばいいのだが、それでは男としての沽券にかかわるというものだ。
「宿題なら、見せてやるぞ。もちろん、タダで」
雑誌に飽きたアンアンは、退屈なのか、さっきから色々茶々を入れてくる。
だいたいその格好だって、明らかに僕の集中力を乱すのが目的に違いない。
一寸法師戦から数日。
僕とアンアンは、一応相思相愛というカテゴリに落ち着いていた。
アンアンの僕への疑いは消え、僕のアンアンに対する及び腰気分もほぼ解消。
僕さえその気になれば、男女の一線を越えることも夢ではないのだが、今のところ、寝る前のお休みのキスまでで止めてある。
ひとつは、僕らがまだ15歳でしかないということ。
もうひとつは、やはり避けて通ることのできない、アンアンの父親問題。
アンアンの父親は、魔界の魔王である。
その魔王さまに、
「おのれ、大切なひとり娘を傷物にしおって!」
と睨まれたら、はっきり言って、僕の人生はそこでジ・エンドになってしまうからだ。
「聞こえてるか? 宿題なら、見せてやるって言ってるのに」
Hカップの胸をゆらゆら揺らしながら、アンアンが匍匐前進で近寄ってきた。
シースルーの下着越しにもりもり動くヒップが、悩ましすぎて、すでに破壊力抜群だ。
ボディソープの香りに混じって、なんだか鼻がむずむずするような、女の匂い。
「気持ちはうれしい。だが、断る」
はねつけるように、僕は言った。
来るな。
それ以上、近寄るんじゃない。
くそ。
英語の長文が、まるで頭に入らないじゃないか。
「どうしてだ? 元気は、どちらかというと、勉強が苦手だろう? 嫌いなものを無理してやることはない。そういうのは、身体に毒だと思うぞ」
アンアンが真横に来て、ちゃぶ台に顎を乗せる。
更に、よせばいいのに、猫みたいに身体を摺り寄せてくる。
勉強が、体に毒? ていうか、むしろおまえが目の毒なんだって。
「とにかく、断る。女に宿題を見せてもらうなんてのは、男の沽券にかかわるからだ」
「はあ? どうして宿題写すのが、男の股間に関わるんだ? あ、さては、元気」
アンアンがにんまり笑う。
「やっとする気になってくれたか。あの男女の交尾というやつを」
「股間でもないし、交尾でもない」
僕はむっとして言い返した。
もう、勉強する気力はすっかり雲散霧消してしまっている。
ああ、せっかく、一年に一度しかない、僕の貴重な”やる気スイッチ”ONの時だったのに。
「あたしはいつでもいいぞ。生理は終わったばかりだし、とっくの昔に心の準備もできている」
アンアンは、気のせいか目をギラギラさせている。
おいおい、魔族の娘にも生理があるのかよ。
と一瞬聞きたくなったけど、それをたずねると話が長くなりそうなので、やめておく。
それにしても、まずい事態だった。
暑さと退屈で、アンアンは盛りのついた雌猫状態だ。
このままでは、犯される。
そしてそれが魔王にばれたら、僕は死ぬ。
うーん。
ここはなんとか、アンアンの気をそらすものを見つけないと。
電話が鳴ったのは、その時だ。
僕の家の、今時珍しい黒いカブトムシ型のダイヤル式家電である。
まさに救いの神だった。
どうか、阿修羅からの遊びの誘いであってほしい。
「もしもし? 山田ですけど」
僕の声は、この時、少なからず生き生きしていたかもしれない。
『あ、元気か?』
と、受話器の向こうで、一ノ瀬が言った。
まあ、そんなところだろう、と思う。
僕の家に電話してくるもの好きなんて、この男ぐらいなものだからである。
「なんだ、おまえか。何の用だ? 旅行の企画でも、まとまったのか?」
一ノ瀬は、四人で旅行に行こうと張り切っている。
その件かと思ったのだ。
が、どうやら今回はそうではないようだった。
『いや、それはまだだ。行く先の選定で、蘭ちゃんと意見が合わなくてさ』
「なら、なんなんだ?」
『もらってほしいんだよね』
息をひそめるように、一ノ瀬が言った。
「もらうって、何を?」
『子どもだよ。まだ生まれたての赤ちゃんだけど』
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