サイコパスハンター零

戸影絵麻

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第5章 百合はまだ世界を知らない

#30 杏里と第2の猟奇殺人事件②

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 港署までは、交通課の斎藤曜子巡査がパトカーで送ってくれることになった。
 曜子は杏里の同期で、たまに女子会をする仲である。
「また猟奇殺人だって? 大変だよねえ、一課って。これから死体見に行くんでしょ? あたしにはとても無理だわ」
 ボーイッシュな体育会系美女の曜子は、さも気の毒そうにそう言った。
「そういう不謹慎なこと、言わないの。仏さまに失礼でしょ」
 一応たしなめてはみたものの、彼女の忌憚ない感想は、正直、今の杏里の心境と大差ない。
 最近、悲惨な事件が増えたと思う。
 それも、女性をターゲットにしたものが多すぎる。
 赤い真珠事件、ウロボロス事件。
 みんなそうだった。
 なかでも、今回の”内臓消失事件”はその最たるものだ。
 しかも、今度の犠牲者は、中学生の少女だという。
「許せないよ」
 膝の上でこぶしを握り締めて、杏里はつぶやいた。
 嫌悪感を押しのけて、胸の奥から闘志が沸き上がる。
「こんなひどいことする犯人、絶対に捕まえなきゃ」

 港署は、交通量の多い目抜き通り沿いに立つ3階建ての古い建物だった。
 年季の入り具合は、今さっき後にしてきた照和署とどっこいどっこいだ。
 職員用駐車場で杏里を下ろしたパトカーが去っていくと、玄関口から地味な背広を着た小柄な男が姿を現した。
「港署の岡部です」
 敷地の端に佇む杏里を見つけると、小走りに駆け寄ってきて、ぺこりと頭を下げた。
 岡部と名乗る刑事は、年の頃は30台前半くらいだろうか。
 刑事というには、あまりに線の細い顔立ちをしている。
 やせっぽちで小柄な体型といい、どこか悲しそうな顔つきといい、小学校の先生のほうがよほど似合いそうだ。
「感激ですね。憧れの笹原刑事に会えるなんて」
 まぶしいものを見るように目を細め、開口一番、そんなことを言った。
「え?」
 意外な言葉に、杏里は鳩が豆鉄砲をくらったように、目を丸くした。
「あ、すみません。こんな時に、不謹慎だってことは、重々わかってます。でも、あなたは僕らのあこがれの的ですから」
 照れたように顔を赤らめる岡部の童顔を、杏里はまじまじと見つめ返した。
「私のこと、知ってるんですか?」
「捜査会議で何度もお見かけしましたので。全員男の会議室の中にあなたみたいな美人がいたら、さすがに目立ちますよ。笹原巡査、あなたのことはどこの署でも話題になってるんです。美人でグラマーな、日本一の囮捜査官だって」
 岡部の臆面もない誉め言葉に、これはセクハラ発言だろうかと杏里はしばし判断に迷った。
「そんなこと言われたの、刑事になって初めてなんですけど。どっちかというと、私、まだ新米で、みなさんの足を引っ張ることのほうが多いですから」
 持ち上げられてうれしくないことはないが、一応、ここはそう謙遜しておくことにする。
「ところで、ニラさん、いえ、うちの班長は?」
 なおも無駄話を続けたそうな岡部の表情を読み取って、杏里はすかさず話題を変えた。
「あ。韮崎刑事ならさきほどお着きになりまして。先に現場に行ってるそうです。笹原巡査がお見えになったら現場まで案内するようにと言い置かれて、うちの者と一緒に出ていかれました」
「現場はここから近いんですか?」
「ええ。この大通り沿いに車で5分ほど走ったところにある、集合住宅の4階です」
「集合住宅? 一軒家じゃなくって?」
 杏里はふと違和感を覚えて、眉をひそめた。
 抱いていたイメージと違う。
 そんなことがあるだろうか。
 あるいは私の勘違いなのか。
「あけぼの荘と言いまして、港湾労働者や外国人の家庭が多い、市営の公共住宅ですね」
 岡部の説明に、杏里は困惑を深めるばかりである。
「詳しいことは車内でお話しします。僕も行かなきゃならないんで、現場までパトカーでお送りしますよ」
「その前にひとつ、確認しておきたいんですけど」
 駐車場にぽつんと一台だけ停まったパトカーのほうに歩きかけた岡部のやせた背中に、我慢できず、杏里は声をかけていた。
「被害者の中学生、最近、臓器移植の手術を受けていませんでしたか?」

 


  

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