122 / 157
第5章 百合はまだ世界を知らない
#35 対決①
しおりを挟む
覆面パトカーに同乗させてもらって家に帰ったものの、韮崎の言う”オカルト姉ちゃん”、零の姿はなかった。
あのもふもふした靄の塊のようなモウの姿もない。
「どこ行っちゃったんだろう?」
黒いインテイリアで統一された2階の零の部屋も、もぬけのからである。
モウの散歩だろうか?
それなら少し待ってみよう。
でも、こんな昼間から、あの妖怪もどきを連れて外を歩くかな?
1階の居間に下り、楽なスウェットの上下に着替えて、お湯を沸かす。
インスタントラーメンでも作ろうと思ったのだ。
テーブルの上には、調べもの用のノートパソコンが置いてある。
お湯が沸く間にちょっと調べてみよう。
そう思ってPCを立ち上げた。
グーグルに『智慧の蛇教団』創設者、栗栖重人と打ち込んで、様子を見る。
いうまでもなく、栗栖重人は陣内摩耶の父親だ。
1年以上前に死んでいるが、どんな人物か興味があった。
ヒットした数件の記事を片っ端から開き、斜め読みしてみた。
大したことは書いてない。
わかったのは、重人が三重県のT郡の出身で、地元の高校を卒業後、東京の有名私大に入り、2年で退学して海外に渡ったらしいことぐらい。
数年間ヨーロッパを放浪した後、日本に戻り、いくつかの著名な宗教家たちと交流を持ったとされている。
グノーシス主義をもとにした智恵の蛇教団の教えは、重人のヨーロッパ放浪中に芽生えたものかもしれない、と杏里は思った。
いつか、娘の摩耶に、グノーシス主義を信じているのか、とたずねた時のことを思い出す。
「この世界は穢れに満ち満ちている」
摩耶は皮肉っぽく微笑んで言ったものだ。
「グノーシスの教えが正しいとすれば、その一点に尽きると思います」
摩耶に指摘されるまでもない。
この世は穢れていて、悪意から出来ている。
それを如実に実感しているのは、杏里たち刑事なのだ。
己の歪んだ性欲のはけ口を、年端のない幼児に向ける変質者。
高齢者に結婚話を持ちかけ、保険金殺人で大金を得る毒婦。
わが子を殺す親。
親を殺す子供。
この世にはそんな事件が溢れ返っている。
外に目を向けてみても、状況は変わらない。
自国の発展のため、貧しく弱い国々を食い物にする先進国の指導者たち。
宗派が違うというだけで、家族同士、同族同士殺し合う人々。
自分の保身と利益しか考えず、嘘の答弁を繰り返す政治家や官僚たち。
世界はまさしく、欺瞞と欲望の坩堝なのだ。
だから、この世界で希望を見つけることは、谷川の底の砂の中から砂金を探すより難しい。
考え事をしていると、ラーメンがのびてしまった。
むりして食べたら、今度は眠気が押し寄せてきた。
少し横にになろうっと。
1時間もすれば、零も帰ってくるだろうし。
ソファに寝転がり、タオルケットを腹にかけた。
たちまち、泥のような睡魔が杏里を押し包んだ。
そして、深い眠りの中で、杏里は夢を見た。
あのもふもふした靄の塊のようなモウの姿もない。
「どこ行っちゃったんだろう?」
黒いインテイリアで統一された2階の零の部屋も、もぬけのからである。
モウの散歩だろうか?
それなら少し待ってみよう。
でも、こんな昼間から、あの妖怪もどきを連れて外を歩くかな?
1階の居間に下り、楽なスウェットの上下に着替えて、お湯を沸かす。
インスタントラーメンでも作ろうと思ったのだ。
テーブルの上には、調べもの用のノートパソコンが置いてある。
お湯が沸く間にちょっと調べてみよう。
そう思ってPCを立ち上げた。
グーグルに『智慧の蛇教団』創設者、栗栖重人と打ち込んで、様子を見る。
いうまでもなく、栗栖重人は陣内摩耶の父親だ。
1年以上前に死んでいるが、どんな人物か興味があった。
ヒットした数件の記事を片っ端から開き、斜め読みしてみた。
大したことは書いてない。
わかったのは、重人が三重県のT郡の出身で、地元の高校を卒業後、東京の有名私大に入り、2年で退学して海外に渡ったらしいことぐらい。
数年間ヨーロッパを放浪した後、日本に戻り、いくつかの著名な宗教家たちと交流を持ったとされている。
グノーシス主義をもとにした智恵の蛇教団の教えは、重人のヨーロッパ放浪中に芽生えたものかもしれない、と杏里は思った。
いつか、娘の摩耶に、グノーシス主義を信じているのか、とたずねた時のことを思い出す。
「この世界は穢れに満ち満ちている」
摩耶は皮肉っぽく微笑んで言ったものだ。
「グノーシスの教えが正しいとすれば、その一点に尽きると思います」
摩耶に指摘されるまでもない。
この世は穢れていて、悪意から出来ている。
それを如実に実感しているのは、杏里たち刑事なのだ。
己の歪んだ性欲のはけ口を、年端のない幼児に向ける変質者。
高齢者に結婚話を持ちかけ、保険金殺人で大金を得る毒婦。
わが子を殺す親。
親を殺す子供。
この世にはそんな事件が溢れ返っている。
外に目を向けてみても、状況は変わらない。
自国の発展のため、貧しく弱い国々を食い物にする先進国の指導者たち。
宗派が違うというだけで、家族同士、同族同士殺し合う人々。
自分の保身と利益しか考えず、嘘の答弁を繰り返す政治家や官僚たち。
世界はまさしく、欺瞞と欲望の坩堝なのだ。
だから、この世界で希望を見つけることは、谷川の底の砂の中から砂金を探すより難しい。
考え事をしていると、ラーメンがのびてしまった。
むりして食べたら、今度は眠気が押し寄せてきた。
少し横にになろうっと。
1時間もすれば、零も帰ってくるだろうし。
ソファに寝転がり、タオルケットを腹にかけた。
たちまち、泥のような睡魔が杏里を押し包んだ。
そして、深い眠りの中で、杏里は夢を見た。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる