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第6章 となりはだあれ?
#6 都市伝説⑤
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「世の中には、いろんなパンツがあるもんだね」
それが、七尾ヤチカの放った第一声だった。
ここは科捜研の1階。
休憩所を兼ねたラウンジである。
千種署から尾上悠馬のスマホを借り出すと、杏里は地下鉄で県警本部に隣接する科捜研に直行した。
スマホをいじってみてわかったのだが、ロックがかかっていて、中を見ることができなかったからである。
科捜研になら、ITに強い部門もあるだろうと思い、ちょうど居合わせたヤチカに頼んでみたのだ。
「パンツ、ですか?」
「そう、パンツ。しかしねえ、こんな超ミニ穿いてるのにさ、みんなけっこう生パンで勝負してるんだねえ。これじゃ、盗撮魔が減らないはずだって、係のおっちゃんも驚いてたよ」
ヤチカに手渡されたスマホの画面には、階段を上る女性のスカートの中が映っている。
スクロールしていくと、同じような画像が何十枚と出てきた。
なるほど、ほとんどのものが、生下着を接写されている。
スカートの下にアンダースコートを穿いている者もいるが、それはごく少数だ。
「こんなにたくさん…趣味悪いなあ」
ため息をつきながら、杏里は画像に目を落とした。
盗撮は、れっきとした犯罪だ。
高校生だからといって、これは許せない。
「ったくねえ、女のパンツなんか見て、何が面白いんだろうねえ。そんなに欲しけりゃ、自分で買って穿けばいいんだよ」
美人だが、いつも白衣で化粧っ気のないヤチカは、この手の下着には縁がないようだ。
それは杏里も似たようなもので、囮捜査でセクシー衣装を身に着ける時以外は、たいてい、おへそまで隠れる木綿のデカパンを愛用している。
そのほうが、聞き込みや張り込みで長時間外にいる時、腹が冷えなくても済むからだ。
「でも、その盗撮魔のスマホと今朝の惨殺事件と、どういう関係があるっての? まあ、場所は確かに近いけど」
「わかりません。ただ、ちょっと気になって…。だって、なんとなく似てやしませんか? 満員電車の中で突然下半身を食いちぎられたサラリーマン…。エスカレーターを上る途中で、スマホと血痕だけ残して消えてしまった男子高校生…」
「確かに、今朝発見されたガイシャの傷口は、刃物によるものではなく、何かワニみたいな肉食獣に噛みちぎられたみたいな、そんな感じだった。まさか、その男子高校生も、同じ何かに食べられたっていいたいわけ?」
「可能性は、あるかな、と」
ヤチカも杏里同様、ここ1年でさまざまな怪異に遭遇している。
だから、人間を喰らう”何か”の存在を、頭から否定する気はないようだ。
「まあねえ、世の中、見た目通りじゃないからねえ」
杏里同様、ため息をつくと、細身のメンソールを口にくわえ、火をつけた。
何度も画像を行ったり来たりさせ、あることに気づいて、杏里はヤチカのほうにスマホを差し出した。
「あの、これ、同じ女の子じゃありませんか? 最後の3枚、同じ日付で、同じ足が映ってます」
「同じ足? どうしてわかるの?」
灰皿で煙草をもみ消して、身を乗り出してくるヤチカ。
「膝の裏側に、ほら、痣が。同じ位置で、同じ三日月形、してますよね?」
映っているのは、制服のスカートを穿いた少女の下半身である。
スカートはかなり短く、今にも下着が見えそうだ。
だが、決定的瞬間を写す前に、少年の身に何かが起こったのだろう。
その先が映っていなかった。
画像からわかるのは、被写体の少女が、太くもなく細くもない綺麗な脚の持ち主で、高校生にしては少し背が高めだということ。
この重心の高さは、ある意味、日本人離れしたモデル体型といっていい。
「この制服は、どこの高校かな。地下鉄を使うからには、中学生じゃなくて、高校生だよね。後は紺のハイソックスと、どこにでもあるような白のスニーカーか。顔が映ってないから、被写体の特定は難しそうだね」
「野崎君に訊けば、高校名はすぐわかると思います」
「野崎って、あんたんとこの、あの研修生?」
「ええ。彼、こういうの、詳しいので」
「危ないやつだね。刑事の癖に」
ヤチカが不快そうに顔をしかめた。
杏里としては、あはははと、あいまいに笑ってみせるしかない。
「ええ、まあ…。とにかく、この女の子が、盗撮の最後の被害者だってことは、間違いありません。ひょっとしたら、何か見てるかもしれないですよね。それに、私、気になるんです。こんなにつきまとわれてるのに、どうしてこの子だけ、肝心の下着が映っていないのか…」
それが、七尾ヤチカの放った第一声だった。
ここは科捜研の1階。
休憩所を兼ねたラウンジである。
千種署から尾上悠馬のスマホを借り出すと、杏里は地下鉄で県警本部に隣接する科捜研に直行した。
スマホをいじってみてわかったのだが、ロックがかかっていて、中を見ることができなかったからである。
科捜研になら、ITに強い部門もあるだろうと思い、ちょうど居合わせたヤチカに頼んでみたのだ。
「パンツ、ですか?」
「そう、パンツ。しかしねえ、こんな超ミニ穿いてるのにさ、みんなけっこう生パンで勝負してるんだねえ。これじゃ、盗撮魔が減らないはずだって、係のおっちゃんも驚いてたよ」
ヤチカに手渡されたスマホの画面には、階段を上る女性のスカートの中が映っている。
スクロールしていくと、同じような画像が何十枚と出てきた。
なるほど、ほとんどのものが、生下着を接写されている。
スカートの下にアンダースコートを穿いている者もいるが、それはごく少数だ。
「こんなにたくさん…趣味悪いなあ」
ため息をつきながら、杏里は画像に目を落とした。
盗撮は、れっきとした犯罪だ。
高校生だからといって、これは許せない。
「ったくねえ、女のパンツなんか見て、何が面白いんだろうねえ。そんなに欲しけりゃ、自分で買って穿けばいいんだよ」
美人だが、いつも白衣で化粧っ気のないヤチカは、この手の下着には縁がないようだ。
それは杏里も似たようなもので、囮捜査でセクシー衣装を身に着ける時以外は、たいてい、おへそまで隠れる木綿のデカパンを愛用している。
そのほうが、聞き込みや張り込みで長時間外にいる時、腹が冷えなくても済むからだ。
「でも、その盗撮魔のスマホと今朝の惨殺事件と、どういう関係があるっての? まあ、場所は確かに近いけど」
「わかりません。ただ、ちょっと気になって…。だって、なんとなく似てやしませんか? 満員電車の中で突然下半身を食いちぎられたサラリーマン…。エスカレーターを上る途中で、スマホと血痕だけ残して消えてしまった男子高校生…」
「確かに、今朝発見されたガイシャの傷口は、刃物によるものではなく、何かワニみたいな肉食獣に噛みちぎられたみたいな、そんな感じだった。まさか、その男子高校生も、同じ何かに食べられたっていいたいわけ?」
「可能性は、あるかな、と」
ヤチカも杏里同様、ここ1年でさまざまな怪異に遭遇している。
だから、人間を喰らう”何か”の存在を、頭から否定する気はないようだ。
「まあねえ、世の中、見た目通りじゃないからねえ」
杏里同様、ため息をつくと、細身のメンソールを口にくわえ、火をつけた。
何度も画像を行ったり来たりさせ、あることに気づいて、杏里はヤチカのほうにスマホを差し出した。
「あの、これ、同じ女の子じゃありませんか? 最後の3枚、同じ日付で、同じ足が映ってます」
「同じ足? どうしてわかるの?」
灰皿で煙草をもみ消して、身を乗り出してくるヤチカ。
「膝の裏側に、ほら、痣が。同じ位置で、同じ三日月形、してますよね?」
映っているのは、制服のスカートを穿いた少女の下半身である。
スカートはかなり短く、今にも下着が見えそうだ。
だが、決定的瞬間を写す前に、少年の身に何かが起こったのだろう。
その先が映っていなかった。
画像からわかるのは、被写体の少女が、太くもなく細くもない綺麗な脚の持ち主で、高校生にしては少し背が高めだということ。
この重心の高さは、ある意味、日本人離れしたモデル体型といっていい。
「この制服は、どこの高校かな。地下鉄を使うからには、中学生じゃなくて、高校生だよね。後は紺のハイソックスと、どこにでもあるような白のスニーカーか。顔が映ってないから、被写体の特定は難しそうだね」
「野崎君に訊けば、高校名はすぐわかると思います」
「野崎って、あんたんとこの、あの研修生?」
「ええ。彼、こういうの、詳しいので」
「危ないやつだね。刑事の癖に」
ヤチカが不快そうに顔をしかめた。
杏里としては、あはははと、あいまいに笑ってみせるしかない。
「ええ、まあ…。とにかく、この女の子が、盗撮の最後の被害者だってことは、間違いありません。ひょっとしたら、何か見てるかもしれないですよね。それに、私、気になるんです。こんなにつきまとわれてるのに、どうしてこの子だけ、肝心の下着が映っていないのか…」
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