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第4章 百合と外道と疾走するウロボロス
#27 杏里、自信を喪失する
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引き込み線を抜けると、そこは円形の巨大な広場だった。
中央付近に固まっているのは、何十両もの地下鉄である。
そこから放射状に線路が伸びていて、広場の円周に沿った円形の線路に繋がっている。
整備の終わった地下鉄は、いったんその外側の線路まで進むと、そこでポイントを切り替え、円周に沿ってぐるりと回り、再び出入口に戻ってくる仕組みらしかった。
まるで実物大のプラレールだ、と杏里は思った。
まさか市内にこんな風変わりな場所があったとは。
小学校で社会見学ツアーでも組んだら、子どもたちが大喜びするに違いなかった。
「ご苦労さんです」
地下鉄の列の一番外側に列車が停車すると、ドアが開いて初老の係員が顔をのぞかせた。
「用件はうかがっております。照和署の刑事さんでいらっしゃるとか」
「はい、笹原と申します」
警察手帳をかざしながら、杏里は列車を降りた。
他のドアからこっそり出て行ったのか、零の姿はすでにない。
「いやはや、しかし、こんなところまで捜査の対象になるとは」
制帽を脱いで丁寧に一礼すると、係員が言った。
「私も30年ここに勤めてますが、刑事さんをお迎えするのは、これが初めてですな。何かお探しというお話でしたが、それにしてもこんなところで、いったい何を探されるんです?」
「きのうから今日にかけて、ここに何か入ってきませんでしたか? その、大きな動物みたいなものが…」
杏里は単刀直入に切り出した。
「動物?」
係員が意表を突かれたように目を見開いた。
「きのうの連続殺人事件、その動物が犯人だったとでも?」
「いえ、その可能性もあるということです。例えば、体長が7メートルを超える、ワニみたいな生き物とか…」
「ワニねえ…。そんなでかいものが侵入したら、ふつうすぐにわかりそうなものですが…。あいにく、猫の子どころか、ネズミ1匹見かけておりませんよ」
「そ、そうですよね…」
言われてみれば、その通りである。
これだけ見通しのいい空間なのだ。
ねずみやゴキブリならまだしも、巨大な人食いワニなどが歩いていたら、否が応でも目立ってしまうに違いない。
ましてやそれが龍だったりしたら、尚更だ。
私の早とちりだったのだろうか。
杏理は、さっきまで抱いていた確信が、空気の抜けた風船のように、急速にしぼんでいくのを感じないではいられなかった。
「とにかく、少し調べさせていただけませんか? 作業のお邪魔にならないよう、十分気をつけますから」
車両と車両の間で点検整備に余念のない作業員たちを眺めながら、杏里は言った。
「はあ、どうぞご自由に。私どもとしましても、これが犯人逮捕につながるのでしたら、協力は惜しみませんので。しかし、ひどい事件もあったものですなあ。おかげで昨日は、午前中いっぱい環状線が運休になって、ダイヤが滅茶苦茶に乱れてしまいした。あんなひどい乱れは、おそらくこの那古野市に地下鉄が開通して以来だと思いますよ。なんとか、明日の大晦日まで、何事もなく済めばいいんですがねえ」
杏里は適当にに相づちをうつと、話し好きの職員の傍を急いで離れた。
時間がない。
その思いが強い。
零はどこへ行ったのだろう。
まずは零を探さなくては。
地下車庫には、明日の大晦日の運行に備えて、ほぼMAXの30両あまりの列車が集結しているようだった。
龍が潜んでいるとしたら、列車の内部だろうか。
こうなったら、一両ずつなかを確認していくほか、方法はない。
迷路みたいな列車と列車の間を、作業の妨げにならないよう、注意深く歩いて行く。
30分ほど、そうしてさまよっただろうか。
ふいにどこからか悲鳴が上がった。
続いて男たちの怒号が飛び交ったかと思うと、慌ただしい足音が近くを通り過ぎていった。
なんだろう?
車両と車両の間から顔を出す。
右手のほうから、血相を変えて作業員たちが駆けてくる。
「どうしたんですか? 何があったんです?」
そう声をかけようとした時である。
突然、頭上から耳慣れた声が降ってきた。
「お出ましだな」
振り仰ぐと、列車の屋根に零がうずくまっていた。
「こっちだ。杏里、来い」
「零…そんなとこに居たの? 来いって、まさか…」
杏里の問いに、零がうっすらと微笑んだ。
「その”まさか”さ。出たんだよ。ついに、大ボスが」
中央付近に固まっているのは、何十両もの地下鉄である。
そこから放射状に線路が伸びていて、広場の円周に沿った円形の線路に繋がっている。
整備の終わった地下鉄は、いったんその外側の線路まで進むと、そこでポイントを切り替え、円周に沿ってぐるりと回り、再び出入口に戻ってくる仕組みらしかった。
まるで実物大のプラレールだ、と杏里は思った。
まさか市内にこんな風変わりな場所があったとは。
小学校で社会見学ツアーでも組んだら、子どもたちが大喜びするに違いなかった。
「ご苦労さんです」
地下鉄の列の一番外側に列車が停車すると、ドアが開いて初老の係員が顔をのぞかせた。
「用件はうかがっております。照和署の刑事さんでいらっしゃるとか」
「はい、笹原と申します」
警察手帳をかざしながら、杏里は列車を降りた。
他のドアからこっそり出て行ったのか、零の姿はすでにない。
「いやはや、しかし、こんなところまで捜査の対象になるとは」
制帽を脱いで丁寧に一礼すると、係員が言った。
「私も30年ここに勤めてますが、刑事さんをお迎えするのは、これが初めてですな。何かお探しというお話でしたが、それにしてもこんなところで、いったい何を探されるんです?」
「きのうから今日にかけて、ここに何か入ってきませんでしたか? その、大きな動物みたいなものが…」
杏里は単刀直入に切り出した。
「動物?」
係員が意表を突かれたように目を見開いた。
「きのうの連続殺人事件、その動物が犯人だったとでも?」
「いえ、その可能性もあるということです。例えば、体長が7メートルを超える、ワニみたいな生き物とか…」
「ワニねえ…。そんなでかいものが侵入したら、ふつうすぐにわかりそうなものですが…。あいにく、猫の子どころか、ネズミ1匹見かけておりませんよ」
「そ、そうですよね…」
言われてみれば、その通りである。
これだけ見通しのいい空間なのだ。
ねずみやゴキブリならまだしも、巨大な人食いワニなどが歩いていたら、否が応でも目立ってしまうに違いない。
ましてやそれが龍だったりしたら、尚更だ。
私の早とちりだったのだろうか。
杏理は、さっきまで抱いていた確信が、空気の抜けた風船のように、急速にしぼんでいくのを感じないではいられなかった。
「とにかく、少し調べさせていただけませんか? 作業のお邪魔にならないよう、十分気をつけますから」
車両と車両の間で点検整備に余念のない作業員たちを眺めながら、杏里は言った。
「はあ、どうぞご自由に。私どもとしましても、これが犯人逮捕につながるのでしたら、協力は惜しみませんので。しかし、ひどい事件もあったものですなあ。おかげで昨日は、午前中いっぱい環状線が運休になって、ダイヤが滅茶苦茶に乱れてしまいした。あんなひどい乱れは、おそらくこの那古野市に地下鉄が開通して以来だと思いますよ。なんとか、明日の大晦日まで、何事もなく済めばいいんですがねえ」
杏里は適当にに相づちをうつと、話し好きの職員の傍を急いで離れた。
時間がない。
その思いが強い。
零はどこへ行ったのだろう。
まずは零を探さなくては。
地下車庫には、明日の大晦日の運行に備えて、ほぼMAXの30両あまりの列車が集結しているようだった。
龍が潜んでいるとしたら、列車の内部だろうか。
こうなったら、一両ずつなかを確認していくほか、方法はない。
迷路みたいな列車と列車の間を、作業の妨げにならないよう、注意深く歩いて行く。
30分ほど、そうしてさまよっただろうか。
ふいにどこからか悲鳴が上がった。
続いて男たちの怒号が飛び交ったかと思うと、慌ただしい足音が近くを通り過ぎていった。
なんだろう?
車両と車両の間から顔を出す。
右手のほうから、血相を変えて作業員たちが駆けてくる。
「どうしたんですか? 何があったんです?」
そう声をかけようとした時である。
突然、頭上から耳慣れた声が降ってきた。
「お出ましだな」
振り仰ぐと、列車の屋根に零がうずくまっていた。
「こっちだ。杏里、来い」
「零…そんなとこに居たの? 来いって、まさか…」
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「その”まさか”さ。出たんだよ。ついに、大ボスが」
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