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第2部 背徳のパトス
#15 杏里とデス・ゲーム③
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思いがけぬ重人の告白で昼休みが潰れてしまったため、杏里は授業後、帰宅時の少年を張ることにした。
それとなく楓たちに探りを入れてみると、篠崎拓哉は二年九組の生徒だった。杏里のいる二年一組からいちばん離れた教室だったので、昼休みに見つけることができなかったのだ。
「シノザキに興味はあるなんて、杏里、あんた変わってるね」
少年のことを尋ねたとき、楓は呆れ顔でいったものである。
「こういっちゃ悪いけど、あいつかなりヤバいってうわさだよ、バックが大病院の院長だから誰も何もいわないけど、なんか動物殺したり、色々恐いこと陰でやってるってみんないってるし」
やはり猫を殺して首を飾っていたのはあの少年だったのだ。
しかも、楓までそれを知っているとなると、これはもうかなりの重症である。
いつターゲットが人間に変わっても不思議はない。
幼い子供があんな姿にされたら、それこそもう目も当てられないだろう。
「そんなんじゃないよ。ちょっと病院でお世話になったから、お礼だけでもいっておこうと思って」
杏里はそう笑ってごまかしたが、心の中では、
絶対やめさせなきゃ。
そう、決意を新たにしていた。
ひたすらいじめられることで人間の精神の歪みを元に戻すというタナトスの"任務”には、まだまだ相当な心理的抵抗がある。ましてや"外来種"などという化け物の囮になるのはもっと嫌だった。しかし、だからといってあの少年を放っておくわけにはいかなかった。乗りかかった船というのか、この一件だけには自分のできっちり決着をつけておきたかったのだ。
少年を尾行するのは、比較的容易だった。
何の部活動にも入っていないらしく、拓哉はひとりで下校時刻きっかりに教室から出てきたからである。
しかも、校門を出るとすぐ、カバンの中からイヤホンを引っ張り出して音楽を聴き始めたので、たいして苦労することなく、後ろをついていくことができた。
さすが変人扱いされているだけあって、一緒に帰る友だちもいないらしく、ひとりただ黙々と歩いていく。そのやせっぽちで貧相な後姿は、孤独というより、まるで自分から世界を拒絶しているかのようだ。
杏里は、電柱や建物の陰を伝いながら後を追った。
人気が完全に途絶えたら声をかけようと思ったが、なかなかチャンスが来なかった。
学校から篠崎医院のある海沿いの国道まで商店街が続き、夕方ともあって買い物帰りの主婦たちの姿が絶えなかったからである。
やがて商店街が途切れ、海沿いに伸びる国道に出た。
そのまま堤防に沿って東に五分ほど歩けば、篠崎医院である。
小田切の情報によれば、そのすぐ裏が、拓哉の家のはずだった。
ところが拓哉は家には向かわなかった。
国道をまっすぐ突っ切ったかと思うと、堤防を跨ぎ越え、浜辺へと続く階段を降り始めたのである。
意表を突かれて、杏里は堤防の陰に身を隠し、顔だけ覗かせて拓哉の行方を目で追った。
ポケットに手をつっこみ、背中を丸めてせかせかと拓哉は歩いていく。
何か確固たる目的があるような、わき目も振らぬ歩き方だった。
左手に下げたカバンと、背中のリュックがいかにも重そうだ。
拓哉の行く手に、廃屋があった。
使われなくなったボート小屋のようだった。
ぴんと来た。
おそらくあそこが少年の"作業場"なのだろう。
このあたりは海水浴場でも船着場でもないため、人気がまったくない。
廃屋は堤防の陰に隠れ、その気になって探さないと、国道からでは目につきにくい位置にある。
中に生け捕りの猫でもいて、それを今から解体する気なのかもしれなかった。
少年が小屋の中に消えるのを見届けると、杏里は堤防を駆け下りた。
膝上三十センチのミニスカートが翻り、むっちりした太腿がつけ根のあたりまで剝き出しになる。
が、そんなことにかまっている場合ではなかった。
もし、あそこに捕まっているのが、猫でなかったら・・・。
そう思うと、気がせいてならないのだ。
さびの浮いたトタン板でできた、ぼろぼろの小屋だった。
周りを一周してみたが、窓はどれも高い位置にあって、中を覗くことはできなかった。
正面の戸の前に戻ってきたとき、ついに雨が降り出してきた。
この時期特有の、叩きつけるような大粒の雨だった。
仕方なく、杏里は小屋の正面の戸に手をかけた。
鍵はかかっていなかった。
中は暗かった。
電気がついていないのだ。
「篠崎くん、いるの?」
こわごわそう呼びかけた、そのときだった。
ふいにすぐ脇の暗闇で、影が動いた。
後ろから羽交い絞めにされた。
長い髪が頬に触れた。
「つかまえた」
少年がいった。
「何するの!」
叫びかけた瞬間、首筋にちくりと痛みが走った。
抜かれた銀色の針が、視界の隅をよぎった。
注射?
ぐらっ。
頭が傾いた。
すごい効き目だった。
一瞬にして意識が途切れ、デク人形のように杏里はその場に昏倒した。
そして・・・。
次に目を覚ますと、小屋の隅にの柱にロープで縛りつけられていたのである。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
手の込んだ縛り方だった。
体は腰のところできつく柱に固定されている。
両手は手首を縛られ、体の前にあった。
足は別々のロープで、左右に引っ張られる形に開いていた。
当然、下着は丸見えになっている、
が、少年はそれには目もくれなかった。
リュックからニッパーを取り出すと、いきなり杏里の右手の爪をはがし始めたのだった。
それとなく楓たちに探りを入れてみると、篠崎拓哉は二年九組の生徒だった。杏里のいる二年一組からいちばん離れた教室だったので、昼休みに見つけることができなかったのだ。
「シノザキに興味はあるなんて、杏里、あんた変わってるね」
少年のことを尋ねたとき、楓は呆れ顔でいったものである。
「こういっちゃ悪いけど、あいつかなりヤバいってうわさだよ、バックが大病院の院長だから誰も何もいわないけど、なんか動物殺したり、色々恐いこと陰でやってるってみんないってるし」
やはり猫を殺して首を飾っていたのはあの少年だったのだ。
しかも、楓までそれを知っているとなると、これはもうかなりの重症である。
いつターゲットが人間に変わっても不思議はない。
幼い子供があんな姿にされたら、それこそもう目も当てられないだろう。
「そんなんじゃないよ。ちょっと病院でお世話になったから、お礼だけでもいっておこうと思って」
杏里はそう笑ってごまかしたが、心の中では、
絶対やめさせなきゃ。
そう、決意を新たにしていた。
ひたすらいじめられることで人間の精神の歪みを元に戻すというタナトスの"任務”には、まだまだ相当な心理的抵抗がある。ましてや"外来種"などという化け物の囮になるのはもっと嫌だった。しかし、だからといってあの少年を放っておくわけにはいかなかった。乗りかかった船というのか、この一件だけには自分のできっちり決着をつけておきたかったのだ。
少年を尾行するのは、比較的容易だった。
何の部活動にも入っていないらしく、拓哉はひとりで下校時刻きっかりに教室から出てきたからである。
しかも、校門を出るとすぐ、カバンの中からイヤホンを引っ張り出して音楽を聴き始めたので、たいして苦労することなく、後ろをついていくことができた。
さすが変人扱いされているだけあって、一緒に帰る友だちもいないらしく、ひとりただ黙々と歩いていく。そのやせっぽちで貧相な後姿は、孤独というより、まるで自分から世界を拒絶しているかのようだ。
杏里は、電柱や建物の陰を伝いながら後を追った。
人気が完全に途絶えたら声をかけようと思ったが、なかなかチャンスが来なかった。
学校から篠崎医院のある海沿いの国道まで商店街が続き、夕方ともあって買い物帰りの主婦たちの姿が絶えなかったからである。
やがて商店街が途切れ、海沿いに伸びる国道に出た。
そのまま堤防に沿って東に五分ほど歩けば、篠崎医院である。
小田切の情報によれば、そのすぐ裏が、拓哉の家のはずだった。
ところが拓哉は家には向かわなかった。
国道をまっすぐ突っ切ったかと思うと、堤防を跨ぎ越え、浜辺へと続く階段を降り始めたのである。
意表を突かれて、杏里は堤防の陰に身を隠し、顔だけ覗かせて拓哉の行方を目で追った。
ポケットに手をつっこみ、背中を丸めてせかせかと拓哉は歩いていく。
何か確固たる目的があるような、わき目も振らぬ歩き方だった。
左手に下げたカバンと、背中のリュックがいかにも重そうだ。
拓哉の行く手に、廃屋があった。
使われなくなったボート小屋のようだった。
ぴんと来た。
おそらくあそこが少年の"作業場"なのだろう。
このあたりは海水浴場でも船着場でもないため、人気がまったくない。
廃屋は堤防の陰に隠れ、その気になって探さないと、国道からでは目につきにくい位置にある。
中に生け捕りの猫でもいて、それを今から解体する気なのかもしれなかった。
少年が小屋の中に消えるのを見届けると、杏里は堤防を駆け下りた。
膝上三十センチのミニスカートが翻り、むっちりした太腿がつけ根のあたりまで剝き出しになる。
が、そんなことにかまっている場合ではなかった。
もし、あそこに捕まっているのが、猫でなかったら・・・。
そう思うと、気がせいてならないのだ。
さびの浮いたトタン板でできた、ぼろぼろの小屋だった。
周りを一周してみたが、窓はどれも高い位置にあって、中を覗くことはできなかった。
正面の戸の前に戻ってきたとき、ついに雨が降り出してきた。
この時期特有の、叩きつけるような大粒の雨だった。
仕方なく、杏里は小屋の正面の戸に手をかけた。
鍵はかかっていなかった。
中は暗かった。
電気がついていないのだ。
「篠崎くん、いるの?」
こわごわそう呼びかけた、そのときだった。
ふいにすぐ脇の暗闇で、影が動いた。
後ろから羽交い絞めにされた。
長い髪が頬に触れた。
「つかまえた」
少年がいった。
「何するの!」
叫びかけた瞬間、首筋にちくりと痛みが走った。
抜かれた銀色の針が、視界の隅をよぎった。
注射?
ぐらっ。
頭が傾いた。
すごい効き目だった。
一瞬にして意識が途切れ、デク人形のように杏里はその場に昏倒した。
そして・・・。
次に目を覚ますと、小屋の隅にの柱にロープで縛りつけられていたのである。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
手の込んだ縛り方だった。
体は腰のところできつく柱に固定されている。
両手は手首を縛られ、体の前にあった。
足は別々のロープで、左右に引っ張られる形に開いていた。
当然、下着は丸見えになっている、
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