激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【覚醒編】

戸影絵麻

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第2部 背徳のパトス

#16 杏里とデス・ゲーム④

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 すさまじい痛みだった。
 たった一枚爪をはがされただけで、杏里は瘧(おこり)にかかったように震え、喘いだ。
 あずさに腹を裂かれたときより痛みは激烈だった。
 それほど指先には神経が集中しているということなのか、痛みのあまり、杏里はほとんど気絶しかけていた。
 確かに、そのまま気を失うことができたら、どんなに楽だったろう。
 しかし、それは不可能だった。
 少年が、今度は中指の爪をはがしにかかったのだ。
 嫌な音とともに、再び激痛が杏里を襲った。
 あずさに内臓をひきずり出されたときは、ある程度睡眠薬だか麻酔薬だかの効果が残っていて、正直あまり痛みを感じなかった。
 だが、今回は違った。
 少年が打った薬は完全に切れていた。
 医者の家に育っただけあって薬に関する知識が豊富なのか、獲物が苦しむ姿を存分に観察できるように、薬の量を調節したのかもしれなかった。
 桜貝のような爪が、二枚。三枚と杏里の生白い太腿の上に落ちる。
 指先からはぽたぽたと血がしたたり、手首のロープをぐっしょりと濡らしている。
 ニッパーがひらめき、更に、薬指、小指の爪を連続ではがされた。
 杏里は泣き叫んだ。
 親指の爪もはがされた。
 ショックで体が棒のように突っ張った。
 杏里は抵抗する気力もなく、ぐったりと柱にもたれかかった。
 尿を漏らしていた。
 ピンクの下着を濡らして、足の間を色の濃い尿の筋が流れていくのが見えた。
 杏里の血まみれの右手を持ち上げて、少年がいった。
「死なないのか」
 杏里はいやいやするようにかぶりを振った。
 皮肉な言葉だった。
 そう。
 死ねないのだ。
 このくらいのことでは、タナトスは。
 だが、体が不死身であることと、精神が痛みに耐えられるかどうかは別だった。
 このままでは、気が狂ってしまう。
 杏里は真剣にそう思った。
 なんとか、打開策を考えなくては。
 小田切の言葉を思い出す。
 -やっかいなのは、おまえのエロスに反応しない相手だー
 彼は、そういったのではなかったか。
 現に、この篠崎拓哉がそうだった。
 ロープで緊縛され、太腿も下着も顕わにした杏里の姿態は、見ようによっては相当に扇情的であるに違いない。
 が、この少年は爪をはがすことに熱中するだけで、杏里のほかの部分には触れようともしないのだった。
 なぜだろう。
 まさかこの歳で同性愛者ということも考えにくいから。中学二年生にしては奥手すぎるということか。
 小田切は他に何かいっていなかっただろうか。
 杏里は必死に思考をめぐらせた。
 -精通前の、未成熟な個体ー
 そんなふうに、拓哉のことを形容していた気がする。
 そして、更に、
 -おまえのペースに引き込むことができれば、あるいはなんとかなるかもしれないー
 そんな、謎めいたアドバイスをくれたのだ。
 私のペース・・・?
 いったい、どういうことだろう。
 杏里は涙でかすむ目で、己の体を見下ろした。
 中学生ばなれした豊満な胸。
 うっすらと脂をひいたように艶めく、真っ白で柔らかそうな太腿。
 尿で濡れたパンティは肌にくっつき、くっきりと性器の形を浮かび上がらせてしまっている。
 ・・・そうか。
 ひらめいた。
 そういうことか。
 私のペース。
 それは、タナトスとしての力を最大限利用すること・・・。

 が、気づいたのが遅すぎたようだった。
 行動に移す前に、少年が次の拷問を始めていた。
 血だらけの杏里の人さし指を引っ張って伸ばすと、
「これならどうだ」
 耳障りなしゃがれた声でいった。
 そして次の瞬間、右手に持った針を、爪のはがれた指先のピンク色の部分に、いきなり突き立てた。
「ぎゃっ!」
 杏里の体が跳ねた。
 痛いなどという生易しいものではなかった。
 頭の奥がキーンと鳴った。
 膀胱に残っていた尿が噴出した。
 アンモニアの臭いがあたりにたちこめる。
 おそるおそる人差し指に視線を向けた。
 爪のない綺麗なピンク色の皮膚。
 その中央に、ぷっくりと血の玉が盛り上がっている。
 体中から力が抜けていく。
 杏里はがっくりと首を落とした。
 死にたい。
 心の底から、そう思った。
 もうひと思いに、殺して・・・。
 杏里が動かなくなると、少年がじっと瞳をのぞきこんできた。
「まだか」
 独り言のようにいう。
 何かを待っているような感じだった。
「まだ死ねないのか」
 杏里は答えなかった。
「これでどうだ」
 少年がいい、中指、親指、薬指、小指と順番に針を突き立てていく。
 その度に杏里の肉づきのいい体が跳ね回る。
「や、やめて・・・」
 杏里は涙でぐしょぐしょになった顔で懇願した。
 少年がニッパーを拾い直す。
 ロープで拘束されている手首を持ち上げた。
「い、いや・・・!」
 杏里の必死の訴えに耳も貸さず、今度は左手の指の爪をはがしにかかった。

 左手の指の爪をすべてはがされ、少年が足の爪に取りかかった頃には、すでに杏里は放心状態に陥ってしまっていた。
 爪がはがれる度に上半身ががくんと揺れる。
 だが、そこまでだった。
 口の端から透明な涎を垂らして、ただぼんやりと少年の作業を眺めている。
 思考が停止してしまっていた。
 狂気まであと一歩、という瀬戸際まで来ているのだった。

「どうなってる?」
 足の指をすべてはがし終えたところで、いらいらと少年がいった。
 いっこうに杏里が死なないことに業を煮やしたようだった。
 しきりに杏里の瞳をのぞきこんでは、首をひねっている。
「まだ足りないのか」
 奥のほうに立っていくと、どこからか、重そうな台のようなものをもってきた。
 紙の裁断機である。
 台の片側に、ギロチンのようなスチール製の長く分厚い刃がついている。
 猫の首を切り落とすのに使ったのか、木の台のほうに茶色い血痕がこびりついていた。
 杏里の広げた足の間にそれを設置した。
 少年が杏里の手首をつかんだ。
 杏里は焦点の定まらぬ目で、少年の動作を眺めた。
 自分の十本の指が、刃の真下に置かれるのをただ見ていた。
 ギロチンの刃の柄に右手をかけて、少年がいった。
「死ね」
 勢いよく、刃が落ちた。
 小魚が跳ねるように、一斉に十本の指が飛び散った。
 血がほとばしり、音を立てて床の上に降り注ぐ。
 杏里は限界まで口を開き、
 そして、声を限りに絶叫した。
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